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旅人の歯医者日記

第1章 はじまりの虫歯
#1-4 レントゲン写真

1997年4月

治療が始まると、まずは歯のレントゲン撮影をすることになりました。(*第1章は全13ページ)

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8、密室のときめき

先生は穴の開いた奥歯とその周辺、そして口の中を一通り診終えると、一度椅子を起こし、治療についての説明を始めた。

奥歯は重傷だが、見た感じと、歯をゆすってみた感じでは、歯を抜かずに治療が可能とのこと。

「こりゃもう駄目ですね。治療の施しようがありません。」といった展開にならなく、まずはホッと胸をなでおろした。

顔の血色も戻ってきたように感じるが、これはさっきまで診察用の強い照明が顔に当たっていたからかもしれない。

ホッとするイメージ(*イラスト:三度の飯より猫さん)

(*イラスト:三度の飯より猫さん)

続けて、「多分大丈夫だとは思いますが、レントゲンで歯の神経や根元部分を確認してみないことには、はっきりとしたことが分かりません。レントゲンの写真を見てから治療方針を決めます。」と言われ、早速レントゲン写真を撮る事になった。

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レントゲン室は少し離れた場所にあるようで、若い女性の歯科衛生士に「こちらです」と誘導され、診察室からレントゲン室に向かった。

女性についていくと、通路の一番奥、扉の上に大きく「使用中」と書かれた赤い電飾が取り付けられている部屋が、レントゲン室だった。

薄暗い通路の一番奥ということもあって、扉から怪しい雰囲気がプンプンしてくる。・・・ような気がする。

レントゲン室の扉のイメージ(*イラスト:mmarさん)

(*イラスト:mmarさん)

歯科衛生士の女性が、その扉を重そうに開けた。なんでも鉛が入っている特殊な扉になるようで、普通の扉よりも開閉に力がいるそうだ。

中に入ってみると、大きな撮影の機械が置いてあるだけの狭い部屋だった。ちょっと薄暗く、現像液らしき薬品臭もしてくることから、写真現像の暗室と似た雰囲気がする。

私が中に入ると、女性はドアを閉め、外から人が入ってこられないように鍵をかけた。

そして、X線から体を守るためとかで、重たい防護チョッキを着せてくれるのだが、何やら若い男と女が完全に密閉された狭い部屋で二人っきり。しかも服を着せてもらうほど近い距離間。

向こうは毎日のことで慣れているかもしれないが、こっちとしてはいきなりの展開に戸惑うとともに、ちょっとトキメキを感じてしまった。

トキメキのイメージ(*イラスト:三度の飯より猫さん)

(*イラスト:三度の飯より猫さん)

レントゲン撮影というのはなかなかいいものだ。密室とか、X線という怪しい響きもいい。

できれば診察する度に撮ってもらいたい。と思ってしまうのだが、現実的には放射線はあまり体にはよくないので、そんな無理なお願いをしたら、今度は別の病気にかかってしまうかもしれない。

9、レントゲン写真

レントゲンは口全体のものと、問題の奥歯のものと、2回撮影を行った。撮り終わると、「先ほどの診察室の椅子に戻って、写真が出来上がるまで少し待っていてください。」と言われ、ときめく密室から一人で診察室に戻った。

今はデジタル機器でぱっぱと処理できるが、この時代のレントゲンはフィルムを使っていたので、現像に少々時間がかかり、しばらく待たされた。

この微妙な待ち時間がなかなか嫌なもので、周囲から他の患者のキュィーンといった歯の削る音が聞こえてくるなか、どういった治療になるのだろうか、痛いのだろうか・・・、などと考えてしまうと、不安がどんどんと増してくる。

更に今回は、「多分治療可能です。」と、さっき先生が言っていたので、心霊写真のように多分じゃないものが写っていたらどうしようと思うと、なんだかこう・・・、ハラハラしながら結果を待つ受験発表のような気分だった。

レントゲンのイメージ(*イラスト:三度の飯より猫さん)

(*イラスト:三度の飯より猫さん)

しばらく診察椅子で待っていると、歯科衛生士の人が出来上がったレントゲン写真を持ってきて、診察椅子の横にあるパネルに掲示した。

これがさっき撮った写真か。物珍しく眺めるものの、白黒のネガに歯が写っているだけ。いくら自分の体の一部とはいえ、骨と歯しか写っていない写真はあまり気持ちのいいものではない。

歯のレントゲンのイメージ(*イラスト:改築工房さん)

(*イラスト:改築工房さん)

先生はまだ他の患者の治療をしていて来そうにない。他にすることもないし、何か悪いものが写っていないだろうか?と気になる。

どれどれ。どこが悪いのかな。とレントゲン写真を凝視しながら悪い部分を探してみるものの、問題の奥歯は他の歯と変わらないように見える。

もしかして正常とか。いや、いや、穴が開いているんだ。そういった目線で見ると、シミのような感じで穴のようなものが写っている感じがする。

素人が見てもさっぱりわからないな・・・。ただ、歯が斜めに生えていたり、重なっていたりと、自分の歯並びが悪いのだけは、私でもよくわかった。

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フムフムと眺めていると、先生がやってきた。そしてレントゲン写真を指さしながら説明するには、問題の奥歯はあまりにも虫歯が進行していて、神経の大部分がなくなってしまっているとのこと。

薄くなって輪郭がぼやけているからどうのこうの、黒くなっている部分がどうのこうのと、説明が続いたが、こんな白黒の写真でよくわかるものだと感心してしまう。

レントゲンのイメージ(*イラスト:至福の隙間さん)

(*イラスト:至福の隙間さん)

そして、先生は神妙な面持ちで、今後の治療について説明を始めた。

「この歯はあまりにも虫歯の状態がひどいので、かなりの荒治療が必要です。まず歯を小さく削って、それから残りの神経を取り除いて、最後に上から銀歯を被せて治します。治療にかかる日数もかなりかかります。」などと、深刻そうに述べるものの、歯に関する知識が全くないので、さっぱり想像つかない。

まあ虫歯の治療といえば、虫歯の部分を削って、銀の詰め物をするんだよな。それが少し大がかりになるのかな。よくわからないけど、歯を抜かないで治療できるのなら、何でもいいや。歯を抜かずに済んだぞ。万歳。というのが、今の正直な気持ちだった。

納得のイメージ(*イラスト:ちょこぴよさん)

(*イラスト:ちょこぴよさん)

それにしても・・・、歯の神経がなくなってしまっているとはな。道理で歯に穴が開いても痛くなかったわけだ。ここまでほっておくのも無神経なら、ほっておかれた歯も無神経だったんだ。我ながら妙に納得してしまった。

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