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旅人の歯医者日記

第1章 はじまりの虫歯
#1-12 歯肉炎の治療

1998年1月~3月

虫歯より先に歯肉炎の治療を行っていくことになりました。(*第1章は全13ページ)

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28、歯肉炎

歯の磨き方講習を前編、後編と、2回にもわたるロングバージョンで行う必要があったのだろうか。終えてみると甚だ疑問に感じるのだが、ちゃんと終えると、ようやく次のステージ、歯肉炎の治療に進むことができた。

どんどんと試練を乗り越え、先に進んで行くロールプレイングゲームとか、主人公が成長していくアニメのような展開ではあるが、実際はそんな心躍るような感じではなく、運転免許更新時に行われる安全講習会を終えた時のような淡々とした気分で、次の診察にやってきた。

免許更新のイメージ(*イラスト:kazukiさん)

(*イラスト:kazukiさん)

歯肉炎の治療ということで、今日からおよそ2ヵ月ほどかけて、歯と歯茎のクリーニングを行うことになっている。

私の口の中は長い間のずさんな歯磨き習慣で、歯の根元部分や裏側に、歯ブラシで磨いても取れないほど強力な汚れがこびりついていた。

専門的には歯垢とか、プラークと呼ばれるもので、実はこれは細菌の集合体となるようだ。そしてこれが唾液などで石灰化してしまうと、堅い歯石になり、こうなってしまうとちょっとやそっと磨いたぐらいでは取れない。

前回の歯磨き指導の後、先生に手鏡を持たされ、「これが歯石になりかけている部分です。」と解説された部分は、堅い金属製の診察器具で少し引っ搔いたぐらいではびくともしていなかった。

見た目も白っぽいし、そのまま成長させれば歯のボリュームが増えてよさそうな気もするが、ほっておくと歯と歯茎の溝が深くなったり、歯周病菌の繁殖を増やしたりと、いいことはまるでないとのこと。どうやら口の中の藤壺って存在になるようだ。

歯肉炎のイメージ(*イラスト:acworksさん)

(*イラスト:acworksさん)

歯茎の方も少し炎症している部分や、歯と歯茎の隙間が少し開いている場所があったりと、あまり芳しくなく、状態的には歯肉炎という診断だった。

歯肉炎は、簡単に言うなら歯周炎の一歩手前の段階になり、軽度の歯茎の病気という分類になる。

健康な状態で、歯と歯茎には1ミリ程度の隙間が開いている。歯のケアをおろそかにしていると、歯垢(プラーク)がその隙間に溜まり、歯周病菌が繁殖していく。

そして歯周病菌が繁殖することで、歯茎は腫れ、炎症するようになる。そうなると、歯茎自体が緩くなり、歯との間に歯周ポケットと呼ばれる隙間ができ始める。この段階が歯肉炎になる。

歯周炎のイメージ(*イラスト:acworksさん)

(*イラスト:acworksさん)

更に症状が進んでしまうと、歯茎の内部にまで炎症が広がっていくことになる。歯を支えているのは歯茎になるのだが、歯茎の中には歯を固定するという大事な役割を担っている歯槽骨がある。

歯周病の症状が進むと、その歯槽骨が歯周病菌や炎症の膿で溶け出てしまうことになる。一般的に歯周病が「歯槽膿漏」と呼ばれている由縁だ。

この状態が更に酷くなると、炎症を起こした歯茎はドロドロと溶けるような感じで崩壊していき、支えを失った歯はボロボロと抜けてしまうそうだ。

更におまけがついて、歯周病菌が血液に流れていき、心臓や肺になどに入ると、動脈硬化や糖尿病などのリスクを高める、と言われている。歯を失うだけではなく、体全体の健康にも影響するほど怖い病気でもある。

面と向かって先生に、歯肉炎や歯周病が何たるかを告げられると、歯のケアをおろそかにしていたら、とんでもないことになってしまうんだ・・・と、その重大さに顔が引きつってくる。

そして「今のうちに治療しておかないと、このまま歯肉炎が進行し、歳を取ってから歯で苦労しますよ。」と言われれば、「是非治してください。」と、お願いするしかない。

歯が抜けていくイメージ(*イラスト:ゆめみ愛さん)

(*イラスト:ゆめみ愛さん)

それにしても、歯がボロボロと抜ける様子などを想像すると、まるでホラーの世界だ。虫歯で歯に穴が開く方が、まだましとも言える。

とはいえ、「このまま処置をせずにいると、病状が悪化していき、そのような状態になります。」と、熱を入れて先生は力説していたが、話している感じからすると、「今度は真面目に通えよ!」と、棚上げ大好き人間に対しての警告と愛情が多分に含まれているように感じた。

29、歯肉炎の治療

今日からの歯肉炎の治療は、今までの男の先生ではなく、ベテランな感じの歯科衛生士の女性にバトンタッチして行われた。

「これから歯の掃除と、歯茎のケアを行います。」と女性に言われれば、散髪とか、マッサージなどが頭に思い浮かび、気持ちよさそうな治療を期待してしまうが、それは甘い幻想だった。

歯に付着した歯石はブラシで磨いてどうこうなるものではないので、超音波を使った機械や細い鉄の針みたいなもので削るように落としていくことになる。これがキーンと変に頭蓋骨に響くし、歯も沁みて痛い。

歯石取りのイメージ(*イラスト:hatorinaさん)

(*イラスト:hatorinaさん)

何より歯と歯茎の間を重点的に掃除するので、歯茎をつつくような治療になり、結構痛い。というより、激痛だ。

特に歯と歯茎の中に針を突っ込んで、ガリガリとこびりついた歯垢を削る治療は痛くてうめき声を上げたくなる。

おまけに炎症して弱っている歯茎はすぐ出血してしまうので、治療中は口の中が血の匂いがして気持ち悪いし、うがいをする度に血が混ざった真っ赤な液体を吐き出すというのも、なかなかおぞましい。

歯ぐきから出血のイメージ(*イラスト:あーやんさん)

(*イラスト:あーやんさん)

この拷問のような痛さはどう考えても麻酔が必要なんじゃないの。我慢するのもつらい・・・。と思うのだが、広範囲に麻酔をすることになるし、麻酔を打つと歯茎が腫れるし、歯茎の感覚が鈍るし、打たないほうが治りも早いとかなんとか。

総合的に考え、この程度の症状なら少々痛いかもしれないけど、早く治したければ我慢しなさい!ということのようだ。

もちろん「どうしても我慢できなければ、言ってください。麻酔を打ちます。」と言われたが、こう言われたら意地でも我慢してやりたくなる。それが男ってものだ。

30、拷問のような治療

この歯肉炎の治療は、先生ではなく、歯科衛生士がやっているので、他の治療よりも簡単とか、難易度の高くない治療のように思える。

でも実際は歯茎の溝の中が目視しにくいので、歯を削るよりも難しい・・・かどうかはわからないが、少なくとも手間と時間がかかるのは確かだった。

訪れる度にチビチビと痛めつけられ・・・、いや、一本ずつ丁寧に歯垢を取り除いていくので、一回の治療で多くの作業をこなすことはできなく、今日は右上奥歯、今日は右下奥歯と、一週間おきに通って治療を重ねていった。

むち打ちのイメージ(*イラスト:acworksさん)

(*イラスト:acworksさん)

毎回毎回、痛いし、血だらけだし、まるで拷問を受けているような治療だ。当然、歯医者へ向かう足取りは重いものだった。というより、余程のスキ者でない限り、痛いのが分かっていて足取り軽くいく人はいないと思う。

でも、ここは踏ん張りどころ。前歯の虫歯で改心した私はちょっと違った。これは浮ついた心を戒めるためにも必要な人生の試練だ。越えた先にきっと明るい未来と、平和な口の環境があるはずだ。と、苦しい先にある未来を見据えていた。

それに失恋の心の痛さに比べればこんな痛さぐらいは・・・、って、やっぱり痛いけど我慢できないほどではない。行くのが憂鬱になりながらも、休まず通い続けた。

気が乗らないことすぐに投げてしまう私には珍しいことだったが、今思えば歯の磨き方講習で一度つまづいたのが、結果としてはよかったのかもしれない。

つまづくイメージ(*イラスト:ちょこぴよさん)

(*イラスト:ちょこぴよさん)

我慢が着実に実を結び、回数を重ねるごとに出血が少なくなり、口の環境がどんどんと良くなっていった・・・、ようだ。

治療の終わりに先生が診に来て、「よくなっています。」とか、「かなり改善してきています。もうひと踏ん張りです。」と言ってはくれるが、歯肉炎に関しては元々歯が痛かったとか、何か困っていたわけではなかったので、なんとなく口の中がさっぱりしたとか、なんか歯が引き締まった感じがするかな・・・と感じるぐらいで、自分ではあまりその実感はなかった。

歯肉炎の改善のイメージ(*イラスト:あーやんさん)

(*イラスト:あーやんさん)

それにしてもこの歯茎の治療やマッサージ。最初は強烈に痛かったのだが、何度もやっていくうちに、あの歯茎を突っついた時の痛がゆさに慣れてきて、気持ちいい痛みに感じるようになってきた。

程よい力加減で行えば、なかなか刺激的なマッサージに思える。次世代の新しい種類のマッサージとして歯茎のマッサージなんていうのもいいかもしれないな。

健康ブームが真っ盛りなので、歯茎を刺激すると健康になるぞ!みたいな感じで、テレビで取り上げれば、大ブームになるかもしれない・・・などと思ってしまった。

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