旅人の歯医者日記タイトル
旅人の歯医者日記

第2章 折れてしまった前歯
#2-13 激痛

1999年8月~9月

親知らずが生えてきたことで口の中の環境が変わり、ほっておいたら激痛に苦しむことになりました。(*第2章は全17ページ)

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35、前歯の痛み

先生に親知らずの相談をしてから1カ月後、前歯の治療が無事に終わり、歯医者へ通う日々から解放された。

それから何事もなく2カ月が経ち、季節は夏になった。毎日うだるような暑さが続き、身体の方がまいってしまいそうになる。

夏とかき氷のイメージ(*イラスト:komachiさん)

(*イラスト:komachiさん 【イラストAC】

こういう暑い時には、かき氷やギンギンに冷えたビールなど、体と心と歯に沁みるような冷たいものを欲しくなるが、まだ前歯の差し歯を入れてから間もない。前歯が沁みるようなことばかりしていると、前歯の神経が刺激され、何か悪さをしかねない。

長く辛い治療と、多額の治療費をかけて治った前歯。すぐに歯医者生活に逆戻りになっては、たまらない。先生の忠告を守って、今年の夏は歯に悪い影響が出そうな冷たいものを、極力控えて過ごしていた。

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少し斜めに生えていた親知らずの方はというと、ほぼ生え切ってしまったようで、ここ2カ月の間は、特に大きな動きはなかった。この歯に関しては、もし虫歯になったり、もの凄く邪魔な状態になったとしても、抜いてしまえば済むので、気楽に成長を見守ることにした。

ただ、少し気になることがあり、たまに朝起きると、歯がきしんだ感じがすることがあった。おそらく親知らずが無理やり生えてきた事によって、歯並び全体が修正されているのだろう。

親知らずのイメージ(*イラスト:瑠香さん)

(*イラスト:瑠香さん 【イラストAC】

歯並びの悪い所に無理やり生えてきているのだからしょうがない。と、あまり気にしていなかったのだが、ここ最近、朝起きたときに少し痛みを感じることが、何度かあった。

何かを得ようとするならば、痛みを伴うもの。新たに生えてきた親知らずのために、歯並びが全力で整おうと頑張っているからこそ、痛みが生じているのだろう。だったら、私も痛いのを耐え、共に頑張ろうではないか。

そうだ。少し外に出っ張っている親知らずを手で押してやれば、歯型が整うのが早まり、歯痛や違和感も早く収まってくれるのではないか。

よしっ、援護射撃だ。と、時々、外に出っ張っている親知らずを、人力矯正といった感じで内側に強く押していた。

歯が痛むイメージ(*イラスト:さゆりむさん)

(*イラスト:さゆりむさん 【イラストAC】

そんな状態で2週間ほど過ごしていたのだが、ある朝、あまりに歯が痛くて目が覚めた。かなりの激痛がする。その痛さの源は、親知らずのある奥歯付近ではなく、なぜかピンポイントで差し歯のある前歯や、その上の歯茎だった。

なぜ前歯がこんなに痛い・・・。単純に考えるなら、親知らずが生えてきたことで、歯並びが圧迫され、差し歯部分の神経がうずき始めてきた・・・。といったところだろうか。

もしかして頻繁に親知らずを押していたのが悪かったとか・・・。考えると、それも原因の一端のような気がしてくる。もうやめておいた方がいいかもしれない。

しかし、これは参ったな・・・。せっかく差し歯を入れて、不自由なく暮らせていたというのに・・・。差し歯の治療をやり直しといった悪夢のような展開になってしまわないだろうか。それだけは是が非でも避けたい。

今なら原因となっている親知らずを抜いてしまえば、前歯を圧迫している力がなくなり、痛みが引くのではないか。きっとそうに違いない。さっさとこの疫病神状態の親知らずを抜いてしまおう。そうすれば万事解決となるはずだ。

思い付いたイメージ(*イラスト:ちょこぴよさん)

(*イラスト:ちょこぴよさん 【イラストAC】

早速、今日のうちに歯医者で診てもらい、親知らずを抜いてもらおう。このままほったらかしにして、差し歯の治療のやり直しといった展開にでもなったら、奥歯に穴が開いた時のように「あの時歯医者へ行っておいたなら・・・」と、後悔してもしきれないことになる。

問題は、いつ歯医者に行くかだ。他の社員に白い目で見られることを覚悟して、朝一で行くか。忍法・雲隠れの術を使い、早退して行くか。無難に会社が終わってから急いで行くか。さて、どうしたものか・・・。と、今日のスケジュールなどを含めて考えていると、前歯から痛みが引いてしまった。

疑問のイメージ(*イラスト:ちょこぴよさん)

(*イラスト:ちょこぴよさん 【イラストAC】

あれれれ。さっきまであれほど痛かったのに・・・。変だな。単に夜中に変な歯ぎしりをしてしまい、寝違いのような感じで、一時的に前歯が痛み出してしまっただけだったとか・・・。

いやいや。そんなことはない。これまでの経過を考えたら、親知らずが原因となっているはず。でもまあ・・・、痛みが引いたのなら、切羽詰まった感じで行く必要はないな。

白い目で見られながら午前休もらうのも嫌だし、気配を消しながらコソコソと早退するのも気を遣うし、当たり前だが給料もちゃんと引かれる。できれば避けたい選択肢だ。

忍び足のイメージ(*イラスト:ちょこぴよさん)

(*イラスト:ちょこぴよさん 【イラストAC】

この状態なら、会社が終わってからでもよさそうだ。とはいえ、歯医者の診察時間内に間に合わせないといけないので、終業時間に間に合わせて仕事を終わらせたり、退社時間と同時に会社を出て、急いで電車に乗ったりと、これはこれで大変だったりする。

親知らずの抜歯は時間がかかるだろうし、もし早退しても波風が立たない状態だったら、早退させてもらうのが一番いいかも。といった感じで出勤したのだが、仕事をしたり、人と話したりしているうちに気が紛れたのか、仕事中に歯が痛むことは全くなかった。

仕事のイメージ(*イラスト:ちょこぴよさん)

(*イラスト:ちょこぴよさん 【イラストAC】

おかげで、午前中はまだ歯医者に行こうという気持ちはあったのだが、午後になってみると、歯が痛かったことなどすっかりと頭から消えてしまっていた。

仕事が終わる間際になって、そういえば歯が痛かったんだっけ・・・と思い出すものの、今更感が頭の中を占めていた。今から急いで歯医者に行くのは、とても面倒くさい・・・。

ここで持ち前の持病「歯医者嫌い病」が発生し、「今日は疲れたし、今日でなくてもいいか。そんなに悪くはないだろう。もしかして一時的なものかもしれないし、もう少し様子を見てもいいのではないか・・・。」などと、先送りしてしまった。

36、激痛

歯痛のイメージ(*イラスト:かぬれさん)

(*イラスト:かぬれさん 【イラストAC】

次の日の朝、「うっ、歯が痛い・・・。また今日もか・・・。」と、再び前歯の痛みで目が覚めた。しかも、昨日よりも痛さがパワーアップしている。おいおい。マジかよ・・・。

それにしても痛い。前歯付近が腫れているような感触もする。大丈夫だろうか・・・。すぐに洗面所の鏡の前に行き、前歯を見てみると、歯茎が少し腫れていた。昨日は腫れていなかったので、昨日よりも明らかに症状が悪化している。

やってしまったな・・・。昨日は、起きたときには激しい痛みがあったものの、しばらくすると収まり、その後は全く痛みを感じることがなかった。なので、歯医者に行くのを先送りにしてしまった。

私的には、一時的に大きな症状、例えるなら地震のように蓄積された大きなひずみが一時的に表れただけで、無理に歯を押したり、刺激を与えなければ徐々に収まっていくだろう・・・と、勝手に楽観視していたのだが、そうそう都合のいい展開にはなってくれなかったようだ。

先送りのイメージ(*イラスト:bBearさん)

(*イラスト:bBearさん 【イラストAC】

また先延ばしにしてしまったせいだな・・・。毎回毎回反省するのだが、どうも私の歯医者嫌いというか、歯医者行きたくない病は治らない。今後のためにも、まずは根っこの部分、歯医者行きたくない病から治療してもらったほうがいいかもしれない・・・。

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この激しい痛さからすると、前歯の神経が炎症している確率が高い。炎症だけで済めばいいが、もし前歯の神経が死んでしまうような事態になったら、せっかく付けた差し歯を外し、気絶しそうなほど痛い麻酔を打たれ、神経を取り除く治療を受けなければならない。そうなると、時間もお金も手間も相当にかかる。それは何が何でも避けたい。

今日は土曜日。確か土曜日は午前中だけやっていたよな・・・。予約で混んでいるかもしれないが、緊急事態だ。無理を言って診てもらおう・・・。

確認のために診察券を見たら、なんと今日、第二土曜日はお休み・・・。なんで今日やっていないのだ・・・。歯医者の馬鹿野郎・・・。いやいや、昨日、行かなかった私が悪いのだ。これこそまさに自業自得といった展開。

自業自得のイメージ(*イラスト:ちょこぴよさん)

(*イラスト:ちょこぴよさん 【イラストAC】

雨が降ろうが槍が降ろうが、月曜日は必ず歯医者に行くぞ!と、心に誓い、今日は大人しく過ごすことにした。で、バタバタと雑用などをしていると、あら不思議。昨日と同様に痛みが引いていった。

身体を動かすことがいいのかな・・・。よくわからないが、とりあえずよかった・・・と、安堵するものの、歯茎は腫れたままだし、突っ張った感触も続いているし、触ったり、食事などで口を動かすと、少し痛い。このままほっておいていい状態ではないのは、確かだ。

土曜日は比較的普通に過ごすことができたのだが、日曜日になると、事態は最悪だった。同じように歯が痛くて目が覚めたのだが、起きた後も痛みが継続し、ズッキンズッキンと歯が痛む。しかも、それが頭にまで響いてくる。

歯が痛く深いなイメージ(*イラスト:K-factoryさん)

(*イラスト:K-factoryさん 【イラストAC】

歯の神経の痛みというのはとても厄介で、最初は部分的な痛みでも、それが症状悪化とともに口全体、更には頭全体へと、どんどんと幻惑のように広がっていくのだ。

さらに厄介なのが、その痛さがもや~としている部分。どこが痛いとはっきりと分かれば、その箇所に神経を集中させて、痛みを軽減することができるのだが、幻術のように口全体に痛みが広がってしまうと、どうにも収拾がつかない。とにかくこの状態が不快で、ジッとしているだけでイライラしてきてしょうがない。

イライラするイメージ(*イラスト:poosanさん)

(*イラスト:poosanさん 【イラストAC】

これまでは身体を動かしていると、気がまぎれるのか、痛みが解消された。ジッとしていてもイライラとするだけ。とりあえず動いていよう。と、バイクの洗車をしたり、部屋の掃除をしてみるのだが、今日はその限りではなかった。

気分的にイライラは解消されるものの、一向に痛みの方がひいてくれない。とりわけ、歩くと頭に響くのが辛い。それを軽減させるために、上あごと下あごが接触しないように、少し口を開くようにして歩くのだが、酸欠の魚のようだし、口の中が乾燥して、喉も乾く。

食事をして満腹になれば、色々と解消されるかもしれない。と、食事をしてみれば、口を開けると歯茎が引っ張られるので、ピリピリと強烈に痛いし、前歯で物を噛もうものなら激痛が起こる。食べることもままならないと、余計にいらいらとしてくる。

ほんと、最悪な状態だな・・・。生きているのが辛い・・・。こんな状態が続くと、歯の痛さで発狂してしまいかねない・・・。

歯痛のイメージ(*イラスト:阿部モノさん)

(*イラスト:阿部モノさん 【イラストAC】

なんとか不快な一日を耐え、「明日は必ず歯医者に行こう。そうすればこの痛さから開放される。」と、早めに床に就いた。

さっさと寝てしまえばこっちのもの。といった目論見だったのだが、そうは問屋が卸してくれなかった。起きている時は何かしているので、痛みをそれなりにごまかせていたのだが、寝ているときには無防備になり、痛さも倍増。夜中に何度も痛さのために目が覚め、その度に鎮痛剤を飲んで痛みを和らげなければならなかった。

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寝たり、起きたりを繰り返し、月曜日の朝になってみると、激しい頭痛を伴っていた。もはや歯の痛さがどうのこうのというレベルではない。歩くたびに振動で歯が痛み、頭も痛い。この痛みから早く脱出しなければ気が狂ってしまうかも。いや、もしかしたら死んでしまうかも。

歯痛でめまいがする状態のイメージ(*イラスト:イラストスターさん)

(*イラスト:イラストスターさん 【イラストAC】

もはや会社で白い目で見られるとか、歯医者が嫌いなどと言っている場合ではない。朝一で歯医者に行こう。

すぐに会社に電話をして遅刻することを・・・。って、よく考えると、午後から行くのも面倒だな。これだけ歯が痛いと、仕事どころではないというか、会社に行く気力もわいてこない。

それに半日行くぐらいなら休んだ方が効率がいい。後で有給扱いにしてもらおう・・・。と、「頭痛が酷くて動くこともままなりません。申し訳ございませんが本日休ませてください。」と、休む旨の電話を入れた。

そして、触れると激痛の走る歯を恐る恐る磨き、歯医者が始まる9時半に合わせて歯医者に向った。

ふらふらになって歩くイメージ(*イラスト:ちょこぴよさん)

(*イラスト:ちょこぴよさん 【イラストAC】

この歯医者までの道のりの長かった事。途中何度も歩けないような痛みに襲われ、その度に電信柱や壁にもたれて休まなければならなかった。なんてしんどいのだろう・・・。昨日からほとんど寝ていないし、食べていないせいもあるんだろうな・・・。身体がフラフラする。

あ~しんどい。ちょっと休憩。これって救急車を呼んだ方がいいのかな・・・。って、救急車で歯医者へ連れて行ってもらえるのだろうか?さりげない疑問が頭に浮かぶのだが、よく考えなくてもタクシーを呼んだ方が手っ取り早い。でもまあ、後400m。もう少しだ。頑張って前に進もう。

歯の痛みはほっておいて治るものではない。ほっておくとしんどくなるだけなんだ。今まで何度も後悔している気がするのだが、今回ほど身に沁みたことはない。改めて心に刻みつつ、ゆっくりと歯医者へ向かって進むのだった。

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第2章 折れてしまった前歯
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