旅人の歯医者日記タイトル
旅人の歯医者日記

第2章 折れてしまった前歯
#2-14 親知らずの抜歯(前編)

1999年8月~9月

あまりの激痛に耐えかね、急遽、親知らずを抜いてもらうために歯医者へ向かいました。(*第2章は全17ページ)

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37、狐につままれる

歯医者のイメージ(*イラスト:Cranberryさん)

(*イラスト:Cranberryさん 【イラストAC】

冷や汗をかきながらなんとか歯医者にたどり着き、久しぶりに歯医者の自動ドアを開けた。最後の治療が終わってから約2ヵ月ぶりになる。

今まで何度も開けたこの扉だったが、今回ほど必死で開けた事はない。受付の人に「予約していませんが、歯がとても痛く、体調もしんどいので診てください。」と頼むと、私の青ざめた顔を見て重傷だと思ったのか、朝一で空きがあったのか、すぐに診察室に通してくれた。

歯痛のイメージ(*イラスト:ウィスパさん)

(*イラスト:ウィスパさん 【イラストAC】

何とかここまでたどり着いた。もう安心だ。診察椅子に座ると、安堵感からか歯の痛みが少し和らいできた。よかった・・・。どうやら症状が落ち着いてきたようだ。

予約なしの飛び入りなので、他の患者の診察が一区切りつくまで待つことになる。で、しばらく待つことになるのだが、待っている間に痛みがどんどんと引いていった。

なんというか、お湯の溜まった風呂の栓を抜いたときのように、いや、ゲームで回復魔法を使ったようにという方が分かりやすいか。本当にあれよあれよといううちに痛みが引いていったのだ。

回復魔法のイメージ(*イラスト:poosanさん)

(*イラスト:poosanさん 【イラストAC】

さらに待っていると、痛さをほぼ感じなくなった。口をもぞもぞと動かしても痛くないし、前歯を触ってみても痛くない。さっきまであれだけ痛かったというのが、嘘であるかのように・・・。

あれれれ、おかしいな。もしかして、本当に治ってしまったのか・・・。本来なら喜ばしいことなのだが、会社を休み、朝一番で歯医者に押しかけてきたこの状況で、痛みが突然引いてしまっても、戸惑いの方が大きい。

一体どうなってんだ。俺の歯。そもそもとして、先生に診てもらう時にある程度痛さがないと、体裁が悪いぞ・・・。どこへ行ってしまったんだ。さっきまでの痛み。君がいないと都合が悪いんだよ・・・。と、歯の痛みを探し、診察椅子で一人うろたえている私がいた。

歯痛のイメージ(*イラスト:knot改さん)

(*イラスト:knot改さん 【イラストAC】

先生がやって来て、診察が始まった。「どうなさいましたか?」の問いに、「親知らずが生えてきて、昨日からひどく前歯が痛んで・・・、今日も歩くのがやっとなぐらい痛くて・・・」どうもさっきまでの痛みがないせいか、説明がうまく言えない。

「では問題の箇所を診察します。」と、診察椅子が倒された。口を大きく開けると、すぐに先生が「歯茎が少し張れていますね。」と言い、「少し痛むかもしれません。我慢してください。」と、軽く前歯を鉄の器具で叩いてみるものの、痛くない。「少し強めに叩きます」と、もう少し強めに叩いてみたが、歯に響くだけで、全然痛さを感じない。

おいおい、どうなってるんだ。家を出る前に歯を磨いたときは、歯ブラシが歯に触れるだけで激痛が走っていたんだぞ。それが叩いても痛くないなんて・・・。こんなことってあるの。狐につままれるとはこういうことを言うのだろう。

狐につままれるイメージ(*イラスト:はちさん)

(*イラスト:はちさん 【イラストAC】

ここはさっきまでの再現として大げさに痛がってみようか。そのほうが先生にも状況が分かりやすいだろう。そう思ったものの、みっともないのでやめた。

しかし、こんな不思議なことってあるのか。さっきまであんなに痛く、歩くのがやっとだったんだぞ。病は気からというが、歯医者に来たという安心感で歯痛も治ってしまうものなのか。

いや、もしかしたらこの先生は、自身から発するオーラで患者の病をも治してしまうといったもの凄い名医だったとか。これが神通力とか、法力というような見えざる力だったりして・・・。

そんなことを思いながら先生を見ると、後ろに御光が光っているような気が・・・。あっ、いや、隣の診察台の照明がこっちを向いているだけか・・・。

後光が光る大仏様のイメージ(*イラスト:でおさん)

(*イラスト:でおさん 【イラストAC】

その後レントゲンを撮ったものの、先生は前歯が単独で炎症しているのか、親知らずの為に炎症しているのか、判断に迷っているようだった。

こうなったら歯が痛くて大変な思いをした経緯を一生懸命説明するしかない。毎朝のように激しい痛みが起きるのはたまらないし、仕事や生活に支障が出てしまう。いや、もう既に支障をきたしている。素人判断かもしれないけど、自分の病気は自分が一番わかるんだ。

考え込んでいる先生に、「親知らずを抜いてください」とこっちから頼んだ。先生も納得したらしく、「分かりました。では何時抜きますか?」と聞いてきた。

えっ、今日抜いてくれないの・・・。思わず口に出そうになったが、冷静に「今日だとダメなのですか?」と返答すると、先生は「どうしても今日をご希望なら抜きますが・・・」と、どうも歯切れが悪い。

考えるイメージ(*イラスト:ちょこぴよさん)

(*イラスト:ちょこぴよさん 【イラストAC】

今日だと何かまずいのだろうか。この歯を抜くことは先生の治療方針に反し、気が進まないのだろうか。もう少し様子を見たいのだろうか。単に朝一の飛び込みでやってきて、抜歯なんて面倒なことをやらせるなとか、他の患者の治療で忙しいのに・・・と思ってのことだろうか。

そのへんの事情はよくわからないが、今朝の激痛や前日の痛さを考えると、遠慮している場合ではない。それに今日は会社を休んでまで歯医者に来たのだ。手ぶらで帰るわけにはいかない。何よりまた歯医者へやって来るのは億劫だ。ってことで、「今すぐ抜いてください。」と、お願いした。

38、親知らずの抜歯

抜歯することを渋っていた先生だったが、私の熱意に負けたのか、「わかりました。今から親知らずの抜歯を行います。」と言い、親知らずを抜く準備を始めた。

麻酔注射のイメージ(*イラスト:acworksさん)

(*イラスト:acworksさん 【イラストAC】

まずは定番の麻酔。久しぶりの麻酔になるが、前歯に打つ麻酔に比べると奥歯に打つ麻酔は気持ちいい・・・わけはないが、気絶しそうになるぐらい強烈な麻酔を前歯に何度も打たれたので、この程度の痛みは気合のビンタみたいなもの。心地よく感じる。

麻酔を打った後は、「麻酔が効くまでしばらくお待ちください。抜歯を行うには時間がかかるので、先に他の患者の治療を済ませてしまいます。少し待つことになりますが、ご了承ください。」と、先生は他の患者の診察に向かった。当たり前だが、飛び入りでやって来た私の相手ばかりをしていられない。

で、しばらく椅子で待つことになるのだが、この中途半端な時間というか、無駄に考えることができる時間というのは、とても厄介だ。これからの診察のことばかりを考えてしまうので、不安な気持ちでどんどん心が埋め尽くされていくからだ。

不安な表情のイメージ(*イラスト:TANABOTAさん)

(*イラスト:TANABOTAさん 【イラストAC】

抜歯か~。差し歯にするために歯を思いっきり小さく削ったことは2度あるが、歯を抜くというのは今回が初めて。

ここ数年で色んな治療を経験し、数多くの辛く痛い治療にも耐えてきたので、歯医者治療の経験値はそれなりに積みあがっている。ベテランクラスまでいかないにしても、少なくとも初心者よりはかなり上のはず。中級者の一歩手前といったところだろうか。

そこそこの経験値を獲得しているので、もう歯医者の治療に関しては、少々のことならへっちゃらといった感じで、怖さを感じない。抜歯も大したことないだろう・・・などと、高をくくって即決してしまったが、よく考えれば歯を抜くって大変なことだよな。

抜歯のイメージ(*イラスト:浅水シマさん)

(*イラスト:浅水シマさん 【イラストAC】

歯を削るのはドリルでガリガリと削ればいいのだが、正常な歯を抜く場合はどうやって抜くんだ。乳歯から永久歯への生え変わりの時は、グラグラしている歯でもなかなか抜けてくれなくて苦労した覚えがある。それが頑丈に生えている歯の場合だと、そう簡単に抜けるはずがない。というか、簡単に抜けるようでは困る。

よく親知らずを抜いてもらったとか、歯医者で抜歯してもらったなどと人から聞くが、ある程度歯を削って壊し、最終的にペンチで取り除くといった感じになるのだろうか。

そういえば・・・、だいぶん前に友人が親知らずを抜いたと言っていたな。その頃は歯医者とは無縁の生活をしていたし、親知らずも生えていなかったので、興味はなく聞き流してしまった。今思えば、しっかりと話を聞いておけばよかった・・・。

確かあの時・・・、ペンチみたいなものでぐりぐりと抜いてもらい、大変だったとか、痛かったって言っていたような気がする・・・。そんなバカな・・・。話を盛り過ぎ・・・と、笑いながら受け流したが、もしかして本当にそんな力任せに歯を抜くのか・・・。大根じゃあるまいに・・・。

抜歯したイメージ(*イラスト:acworksさん)

(*イラスト:acworksさん 【イラストAC】

いやいや、普通に頑丈に生えている歯が、ペンチで引っ張ったぐらいで簡単に抜けるとは思えない。歯茎を切開して、抜けやすくした後にペンチで抜くとか・・・。う~ん、それも口の中が血だらけになって嫌だぞ・・・。

親知らずを抜いてしまえば全て解決するとばかりに、「親知らずを抜いてください。」と言ったものの、冷静になって考えると、とんでもなく難治療になりそうな気がしてきた。それで先生も渋っていたのではないか・・・。そう考えると不安がとめどもなく大きくなっていく。

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第2章 折れてしまった前歯
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