旅人の歯医者日記タイトル
旅人の歯医者日記

第2章 折れてしまった前歯
#2-16 振り出しの虫歯(後編)

1999年12月~2000年1月

親知らずを抜歯したことで歯の痛みは和らいだものの、隣の差し歯に隙間ができ、内部が虫歯になってしまいました。(*第2章は全16ページ)

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41、年の瀬の歯医者

歯医者のイメージ(*イラスト:Cranberryさん)

(*イラスト:Cranberryさん)

歯科健診+ちょこっと歯を診てもらう程度だったら予約しないでも大丈夫だろう。もしかしたら大したことではないかもしれないし・・・。それに予約の電話をかけるのをためらって歯医者へ行くのを先延ばしにしてしまうことも多いのが私。思い立ったが吉日。ってなもので、直接歯医者へ来てしまった。

そして定期検診の葉書を持って、受付で「定期健診と、奥歯が痛いので診てもらえますか?」と言うと、やっぱりというか、迷惑そうな顔をされた。

どうやら年の暮れともあって歯医者もかなり混雑しているもよう。私みたいな駆け込み患者も多いみたいだ。「1時間ぐらい待つかもしれませんよ」と、機嫌悪そうな表情で言われたが、30分ぐらいで診察室に通してもらえた。

不機嫌な歯科衛生士のイメージ(*イラスト:さしみさん)

(*イラスト:さしみさん)

まず歯科衛生士の女性が問診にやってきた。「今日はどうされましたか?」の問いに、「奥歯の差し歯がなんとなく痛いです。」って、なんか変な表現だ。「奥歯が例えようのない痛いような感じです。」これも変だ。うまく説明したいのだが、「すごく痛い」という感覚ではないし、差し歯がどういう状況になっているのか見当もつかないので、どうも説明し辛い。

下手に説明をするよりも「とりあえず見てください。」と、実際に見てもらう方がよさそうだ。とはいえ、銀歯の差し歯なので、虫歯ができているとか、欠けているとか、表面的にわかることは少ない。

座ったままの状態で口を開けて簡単に診てもらうものの、やっぱりというか、歯科衛生士でも簡単に状況がわからない。「う~ん」といった困惑する表情になり、「痛みますか?」と歯を軽く叩いてみたりするものの、すごく痛いわけではないので、「特に痛くないです・・・」と正直に答えるのだが、いっそう困惑の表情となってしまった。

ここは気を利かせて、もうちょっと反応よく痛がった方がよかったかな・・・。忙しい日に予約なしの飛び入りで押しかけてきたので、あまり痛くないというのも罪悪感を感じてしまうし・・・。

不機嫌な歯科衛生士のイメージ(*イラスト:ちま次郎さん)

(*イラスト:ちま次郎さん)

八方ふさがりといった状況なので、後は先生に診てもらって・・・という流れになると思ったのだが、どうしても先生に患者の症状を伝えるように言われているのか、再び、「どういう痛さですか?」「どんな感触ですか?」と聞いてきた。

それがうまく表現できないから困っているのに・・・。仕方がないので、「なんて言うか、例えるならコントラバスのような痛さです。」と簡潔に表現してみたのだが、「えっ・・・???」と余計に混乱させてしまったようで、「はぁ~、そうですか・・・」と反応に困ったまま問診が終わり、「先生が来るまでそのままお待ちください。」と席から離れていってしまった。

コントラバスのイメージ(*イラスト:まごまめさん)

(*イラスト:まごまめさん)

しばらくすると歯科助手の人に代わり、先生がやってきた。「コントラバスのような痛さで来院した」と伝えられたのかは不明だが、あれこれと問診したり、触診してみるものの、はっきりしない。で、困ったらレントゲンといった感じで、レントゲンを撮る事になった。まあこれが一番手っ取り早い。

奥歯を重点的に撮影し、出来あがった写真を見ると、やはり差し歯の中が虫歯になっているようだった。ただ、写真で見る限りそこまで重傷ではないらしい。

1月20日に旅に出る予定にしていることを伝えると、「正月休みを挟むので100%とは言えませんが、おそらくそれまでに治ります。」と言われ、ひとまず安心した。

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「今日の治療は被せている物を外して、虫歯になっている部分を削ります。」と告げられ、早速、治療開始。

まずは被せている銀歯を取り外すのだが、「この歯は神経を取っているので、麻酔なしで差し歯を外し、歯を削ります。」と言い、いきなりドリルが用意された。

えぇ~、ちょっと待ってよ。麻酔なしって・・・、大丈夫なの。思ってもいなかった展開に血の気が引いていく。

麻酔なしで本当に痛くないの?いきなり痛くなる事はないだろうか。何かの拍子に神経が復活して、気絶するような激痛に襲われるってことにはならないよね・・・。かなり不安・・・。いや、強烈に不安。

驚くイメージ(*イラスト:はしきよさん)

(*イラスト:はしきよさん)

神経がなくても念のために麻酔をして欲しいな・・・。その方が安心できる・・・。そう先生に目で訴えてみたが、あまりの忙しさにそんな気遣いをしている場合ではないといったオーラに跳ね返されてしまった。う~ん。今日はいつになくてきぱきと作業が早い。困ったことに、もう削る気満々の体勢に入っている。

強烈な不安を感じながら口を開けると、すぐにドリルが口の中に入れられ、差し歯の破壊が始まった。がぁ~、きゅぃ~ん。先生が言ったとおりに痛さは感じないのだが、金属を削るので、凄い音とともにゴリゴリと振動がまともに顎と脳に響いてくる。この嫌な感触はしばらく耳に残りそう・・・。

私の不安を裏腹に何事もなく差し歯は外れたが、外れた瞬間、金属が焦げた臭いとか、食べ物の腐ったような臭いとか、薬品臭とか、色々なものが混じったとても嫌なにおいが口の中に広がって、むせかりそうになった。

毒ガスのイメージ(*イラスト:よっとさん)

(*イラスト:よっとさん)

自分の使っていた物ではあるが、毒ガスといった感じの悪臭。臭くてもまだ愛着がわく体臭とは大違い・・・。よく口は汚いものというが、まさにその通り。この臭いをかげば誰でも納得できると思う。そして日々こういった作業をしている歯科医という仕事は大変だな・・・とも思ってしまった。

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銀歯を外した後は、ドリルを金属用から歯を削るものに替え、虫歯となっている部分を削って今回の治療が終わった。

本来なら、引き続き新しい被せ物用の型取りをして・・・となるのだが、年の暮れの為、新しい銀歯は直ぐには出来てこない。期間が長く開いてしまうと詰め物が合わなくなる可能性が高いとかで、年初めにもう一度訪れ、歯を綺麗に削り、その時に型を取るとの事だった。

ということで、今日は銀歯を外した歯には何も被せずに治療が終わった。なるべく使わないよう反対側の歯で噛んでくださいとの事だったが、このむき出しのような状態で大丈夫なの・・・。更なるトラブルが引き起こされるのではないかと少し心配。

何かあると大変だ。今年の正月は大人しくして過ごそう。そして念のため、歯磨きは一日何回もすることにしよう。

42、一件落着

ユーラシア大陸横断の旅を控えているので、今年の正月は歯もだが、健康その他、全てにおいて何も問題が起きないよう無難な感じで過ごし、新年早々、最初の診察日の朝、初売りに向かうような感じで歯医者に向かった。

初売りのイメージ(*イラスト:しゅうぽんたんさん)

(*イラスト:しゅうぽんたんさん)

歯医者に入り、受付の女性に診察カードを出すと、「あけましておめでとうございます」と挨拶された。歯医者通いが長いとはいえ、歯医者でこういう挨拶をするのはなかなか新鮮だ。とはいえ、できれば新年早々、営業初日の朝っぱらから歯医者に来たくはない・・・。

長い休み明けなので、正月の間にトラブルがあった人がわんさかと来ているのかと思ったのだが、意外にも人は少なく、病院内は静かな感じだった。

ただ電話はよく鳴っていて、受付の女性が「今日からやってます」とか、「何時に来てください」といった対応をしていた。どうやら予約の患者は少ないけど、もう少ししたら飛び入りの患者で忙しくなりそうな感じだ。

電話対応する歯科衛生士のイメージ(*イラスト:きのこさん)

(*イラスト:きのこさん)

診察室に入ると、先生とも「あけましておめでとうございます」と挨拶をし、治療が始まった。まず歯を軽く削り、その後、慎重に型取りを行った。

今回は飛行機の予定が決まっているので、失敗が許されない。一度型がずれて合わなかったことがあるので、今回は慎重を期して何回も粘土みたいなものを咥えさせられた。

奥歯の型取りなので、しっかりと奥まで型を押し込まれる。これが結構つらく、その度に「うっ」とむせかりそうになり、チワワのように目をうるうるとさせていた。

チワワのイメージ(*イラスト:ghostcatさん)

(*イラスト:ghostcatさん)

辛いが我慢。ここで失敗すると飛行機の予約を変更しなくてはならなくなる。それは出来れば避けたいので、いつになく真剣に型取りを耐えた。

型取りが終わると、型を取った後に何かあったらいけないということで、プラスチックのようなパテで簡易的な差し歯を作り、それを被せて診察が終わった。

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そして9日後、今日は差し歯が出来上がる日。ちょっと緊張しながら歯医者に行き、診察を受けると、ピタッと一発で銀歯がはまった。念入りに型を取ったおかげというやつだ。

接着剤を入れて固定した後は、噛み合わせをみて、銀歯の高さを調節してもらった。しばらくカチカチと噛み合せたり、削ったりしていると、銀歯を被せたときに感じた違和感がなくなり、治療は無事に終了。奥歯が復活した。

奥歯の銀歯のイメージ(*イラスト:ジョウモンさん)

(*イラスト:ジョウモンさん)

結局、今回の治療では1回も麻酔を使わなかった。今まで歯医者といえば必ず麻酔を打ってから治療が始まっていたので、ちょっと不思議な感じの治療だった。

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治療が終わると先生にお礼を言って、歯医者を後にした。来週もう一度かみ合わせのチェックと、歯のクリーニングに訪れなければならないけど、まあなんとか無事に虫歯の治療が終わったので、飛行機の予約を取り消さずに済み、無事に旅に出られる。

飛行機での旅立ちのイメージ(*イラスト:ちょこぴよさん)

(*イラスト:ちょこぴよさん)

本当は季節のいい秋ぐらいに出発しようかと思っていたけど、前歯を折ってしまったことで、少し旅の計画が狂ってしまった。でもまあそれも運命、いわゆる巡り合わせというやつだ。

旅立ちがずれたことで、何が変わるだろうか・・・。出会う人や、季節が微妙にずれ、旅の様子も違ってくるはず。そのことで数奇な出来事や、運命の人と巡り合ったりして・・・そんなことを想像すると楽しい。

でもまあ、こればかりは実際に旅をしてみないことにはわからない。縁は異なもの味なものってなものだ。

これからの旅に思いをはせながら自宅への道を歩いていたのだが、途中から、ふと今までの歯医者の体験は夢物語だったのでは・・・。と、少し不思議な感覚がしてきた。

夢物語のイメージ(*イラスト:NOAHさん)

(*イラスト:NOAHさん)

そう思うのも一番最初に治療してもらった歯がやっと治った感覚に陥ったからだ。思えば右の奥歯から始まり、前歯、小さな虫歯、前歯が折れ、親知らずの抜歯と続き、そして右の奥歯と一周して戻ってきた。

その為かその間に起きた出来事が、懐かしいような、夢だったような気分になってしまったというわけだ。

夢だとしたらなんと長い夢なんだ。そしてなんて痛い夢だったのだろう。でもその夢も終わりだ。今度はユーラシア大陸を舞台とした冒険のはじまりだ。世界を股にかけて、各国の歯医者を楽しむぞ・・・。いや、違った。世界各国の文化を楽しんでくるぞ。

旅人の歯医者日記
第2章 折れてしまった前歯
#2-16 振り出しの虫歯(後編)
第3章 ユーラシア大陸横断 につづく
2023年ころ更新予定
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