旅人とわんこの日々 タイトル

旅人とわんこの日々
世田谷編 2005年Page17

世田谷(砧公園)での犬との生活をつづった写真日記です。

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21、私の足跡を辿ろうとする後輩(2005年11月8日)

後輩に誘われ、日光へツーリングに出かけた。そのツーリング自体はありきたりなツーリングであったが、後輩からとんでもない告白をされ、動揺してしまった。

人間というのは饒舌になる場面がある。一番多いのが酒の席になるだろうか。アルコールが入ると気が大きくなり、できもしないことを語りだしたり、上から目線で批判ばかりしたり、あることないこと話しだしたりと、まあ色々ある。

饒舌なイメージ(*イラスト:サウナ猫さん)

(*イラスト:サウナ猫さん 【イラストAC】

好きな異性の前で気を引こうと饒舌になったり、推理小説だと、トリックを成功させた犯人が饒舌になったり、尋問を受ける容疑者が誤魔化すために多弁になるというのもよくある。

そういった延長になるのか、旅の最中に饒舌になる人もいる。あまりの絶景に興奮状態となり、よくしゃべる人もいるし、旅の開放感が気持ちを高揚させ、よくしゃべる場合もある。

一人で旅をしているときでも、なぜか知り合ったばかりの人と意気投合し、身も知らずの人に悩みをべらべらと打ち明け、気分がすっきりしたということもある。

話し合いのイメージ(*イラスト:きなこもちさん)

(*イラスト:きなこもちさん 【イラストAC】

会ったばかりの人に人生相談をされても返答に困るのだが、訳アリで旅に出る人が多いのか、旅人の吹き溜まりのような宿に宿泊すると結構多い。さらに厄介なのが、バックパッカーの場合、普通の人生を歩んでいない人も多く、話を聞くだけで腰を抜かしそうになることもある。

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この日光へのツーリングの最中、旅の開放感が背中を後押ししたのか、後輩から、私のように仕事を辞め、大陸横断の旅に出ようかと真剣に考えている旨を打ち明けられた。

もちろん青天の霹靂(へきれき)というわけではない。前々から「そういった旅に憧れているんですよ。」「できれば生きているうちに一度は先輩のような旅をやってみたいんですよ。」というのは酒の席で聞いていた。

テロ事件のイメージ(*イラスト:カネコさん)

(*イラスト:カネコさん 【イラストAC】

聞くと、昨年もテロが多かったが、今年も多い。4月には中国各地で反日デモが起きるし、7月にはロンドンで4件の爆弾テロが起き、エジプトでもリゾート観光客を狙った爆弾テロが起きている。

少し前の10月にはインドネシアのバリ島で、11月にはヨルダンでも爆弾テロが起きているので、本当に多いというか、海外を旅するのが怖くなるほどだ。

大地震のイメージ(*イラスト:十野七さん)

(*イラスト:十野七さん 【イラストAC】

更には10月にはパキスタン北部で大地震が起き、隣国のインドと合わせて死者が7万人と推定されている。大きな災害が起きれば治安が悪くなり、旅がしにくくなる。

旅行会社に勤めているので、そういった国際情勢には敏感なようで、段々と旅がしにくい世の中になるのではないか。国をまたいだ大陸横断旅行は、治安の良さ、国際秩序の安定があってこそできる旅。今を逃したら、そういった旅は永遠にできなくなるのではないか。と、本気で懸念している。

もちろん、仕事に少々行き詰っているから、余計にそう感じてしまう部分もあるのだろう。

選択を迷うイメージ(*イラスト:中村かおりさん)

(*イラスト:中村かおりさん 【イラストAC】

世界一周とか、ユーラシア大陸横断とか、規模の大きな旅をしようと思うと、それなりの時間と金銭が必要となるので、仕事をとるか、家庭をとるか、自分の信念をとるか、色々と天秤にかけて考えなければならない。何も失わず、全てを手に入れようというのは・・・、資産家などの特殊な人でない限り、無理というものだ。

一番の問題となるのが、現在の立場や仕事、人間関係といったこと。それを捨てる覚悟があるのか、ないのか。休職等、保留にするという手もあるが、そうそう簡単にできるものでもないし、戻ってみたら話が違うということもある。

例えば浦島太郎の話のように、自分は旅に出た1週間後ぐらいに戻った感覚でも、いないことが当たり前となっている人たちにとってはもう過去の人。友情も、愛情も、信頼関係も冷め、1年の旅なのに10年後に戻ったような違和感を感じることもある。

浦島太郎のイメージ(*イラスト:アシタカさん)

(*イラストアシタカさん 【イラストAC】

だから旅することと現在の立場を天秤にかけ、よく考えなければならない。もし今の立場を捨てることに未練が大きい場合は、悩んで悩み、更に悩んでと、相当に悩むことになる。

この悩みの厄介なところは、いくら悩んだとしても結論が出ないこと。実際にその選択をし、生きてみないと結果なんてわからない。なので、考えれば考えるほど堂々巡りをしてしまう。

私自身も旅に出るときに悩んだ。悩んだからこそ、こういった相談を受けるのが嫌だ。普通のことなら「何事もやってみないとわからない」「人生は挑戦だ」などと答えるのだが、ある意味究極の選択をしなければならない長旅の場合、人の人生を大きく狂わしてしまいかねない。

もしインターネットで見も知らない人からの相談なら、どの程度本気なのかもわからないし、どの程度参考にするのかもわからない。無難な感じに、「現状を捨てる覚悟があるのならやってみるのもいいかと思います。若者が歩けば必ず道ができるものです。心配ばかりしても前に進めません。若いうちは思い切って挑戦することも大事です。」などと答えている。

もう決意が決まっている場合は楽だ。「頑張ってください。ただ旅をするだけでは他の人と同じです。旅ではどんどん新しいことに挑戦して自分らしい旅にしてください。」と、そのまま背中を押すだけでいい。

背中を押すイメージ(*イラスト:ちょこぴよさん)

(*イラスト:ちょこぴよさん 【イラストAC】

でも、後輩の場合はちょっと違う。部屋に置いているアルバムや旅の話で、私の歩んだ旅の足跡を知り、そして旅を終えた後の現状も知っている。そのうえで迷いながら相談してきている。

私の足跡をなぞろうとする後輩に対して、なんてアドバイスをすればいいのだろう。もし私が世間でいう成功者なら、「俺みたいに頑張れば未来は明るい。」「俺の旅をよく研究して、いい部分だけ取り入れろ。」などと言うことができる。

しかし現状では成功者ではない。旅をしたことで価値のある経験をしたと思っているが、今のところ目に見える効果を発揮しているとは言い難い。

かといって失敗者かというと・・・、それも違うとは思う。思うのだが・・・、現実は人から、特に親戚からだけど、旅に出ず働き続けていたほうがよかったのでは・・・と言われることも多い。

やる気喪失のイメージ(*イラスト:ちゃむまっぴーさん)

(*イラスト:ちゃむまっぴーさん 【イラストAC】

その原因は旅に出たことよりも、私自身の問題になるだろうか。仕事をやめたからには一生懸命取り組まなければ・・・。一世一代の取り組みだから後悔のないようにしなければ・・・。と、色々なことがプレッシャーとなり、またリアルタイム旅行記として旅の様子公開していたのもあって、旅に全力で取り組み過ぎてしまった。

その結果、帰国後はもう全てのことに満足したというか、悟りきった境地になってしまい、しばらくは腑抜けた状態になってしまった。いわゆる燃え尽き症候群(バーンアウト症候群)というやつ。おかげでなかなか次の一歩を踏み出すことができなかった。

もしそれがなければ帰国後にもっと野心的に活動ができたかもしれない。そしてもっと違った現状になっていたと思う。・・・が、それは言ってもしょうがない。

何はともあれ、旅自体は有益でいい経験になったとは思うが、旅を終えた後の状態は、旅に出る前よりも良くなったとは言えないので、私と同じ道を歩くことに対して、うれしいような、困るような、背中を押したいような、やめておけ!と引き留めたいような、様々な感情が頭の中に流れてきて、言葉に困る。そして言葉が慎重になる。

結局、無難な感じで、私がユーラシア大陸を決断したときに会社の上司に言われた言葉に少し自分の意見を付け加えて話した。

現実逃避のイメージ(*イラスト:イグサさん)

(*イラスト:イグサさん 【イラストAC】

「自分を大切にしなさい。いい加減な気持ちでその選択を選ぶことはしないように。君が旅している間も世の中は動いているのだから、普通に考えれば他の人と差が広がってしまうことになる。現実からは逃げられないし、中途半端なことをしたら、後で困るのは自分なんだよ。だからその選択を選ぶのなら、がむしゃらになって本気で旅をする覚悟を持ちなさい。もちろん、その時は背中を後押しするから。でもあまりのめりこむなよ。帰国してから私のように燃え尽き症候群になってしまうから・・・」

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