極寒のモスクワ散策記1997 ~風の旅人旅行記集~
極寒のモスクワ散策記97'

#9 灰色の空

1997年12月、飛行機の乗り継ぎを利用して、極寒のモスクワ市内を半日ほど散策した時の旅行記です。(*全12ページ)

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24、記念写真

クレムリンの城壁とボリショイ・モスクヴォレツキー橋
クレムリンの城壁とボリショイ・モスクヴォレツキー橋

聖ワシリイ大聖堂から外に出た。やっぱり外は寒い。いや、寒いというより、「外は痛い」という言い方が適切かもしれない。建物内と外とで気温差がありすぎて、むき出しになっている目や鼻の粘膜などがピリピリと痛く感じる。

さて、これからどうしよう。この聖ワシリイ大聖堂から先にも赤い壁は続いていて、モスクワ川に向けてなだらかに下っていた。モスクワ川には立派な橋が架かっているのも見える。

このまま下って橋の上からクレムリンや聖ワシリイ大聖堂を見上げるようにして見ると素敵かもしれない。或いはクレムリン宮殿をぐるっと一周すると、別の発見があったり、いい思い出になるかもしれない。そう頭の中では思うものの・・・。雪の積もる下り坂を進んでいくのは・・・、ちょっとためらう。

途中で滑って転びそうだし、戻ってくるのも大変そう・・・。却下だな。広い坂道がスキーのゲレンデのようになっていては先へ進むのを尻込みしてしまうのもしょうがない。

美術館のイメージ(*イラスト:YOSHIMさん)

(*イラスト:YOSHIMさん)

では、他の場所に行こう。モスクワにはプーシキン美術館、エルミタージュ美術館など有名な美術館が多い。クレムリンなどを見た後はそういった美術館のどれかに行こうかと思っていた。

しかし、これまで観光してきたことから推測するに、きっと訪れても読めないロシア語表記ばかりだろう。芸術に言葉はいらない。確かにそうだ。流し見る分には何も問題ない。

でも言葉が全く読めないと、行くまで、そして入るまでも大変だし、何が有名で、それがどこにあるのかを探すのも難しい。本当にこの国は何をするにして大変に感じる。

それにこの寒さ。暖かいところへ入ったり、極寒の中に出たりを繰り返していると、体が寒さに慣れるどころか、外に出るのがダルく感じる。もし美術館に入ったなら、残りの滞在時間的にも外にもう出たくなくなるだろう。

とりあえずどうしても行きたいと思っていたクレムリン宮殿と赤の広場への訪問は達成した。美術館に行って今日の観光が終了するよりも、後は気楽にモスクワの町をブラブラし、ロシア人でも観察して過ごすほうがいいかな・・・。そこまで時間がたくさんあるわけではないし・・・。

まあ観光名勝や有名な場所を訪れるだけが旅ではない。ありきたりな場所を歩くことだって立派な旅だ。何か素敵な出会いが待っているかもしれない。ということで、残りの時間は町を気ままに散策することにした。

聖ワシリイ大聖堂の前で
聖ワシリイ大聖堂の前で

そういえば、自分が写っている写真がないな。あまり積極的に自分の写真を撮ることはないけど、遙々こんな寒いロシアまで来たんだ。一枚ぐらいは証拠写真を撮っておかなければ。

聖ワシリイ大聖堂に戻り、ちょうど近くにいたおじさんに頼んで聖ワシリイ大聖堂を背景に写真を撮ってもらうことにした。

言葉が通じないのでジェスチャーで頼んだのだが、頭にはロシアのコサック帽、服はモロッコの民族衣装、足元はアメリカ製のトレッキングシューズを履いた東洋人は奇異な存在に見えるようで、こいつは何者だといった感じで変な顔をしていたのが、印象に残ってる。

25、ホットドッグの屋台

赤の広場から見る国立歴史博物館
赤の広場から見る国立歴史博物館

赤の広場を戻っていき、国立歴史博物館の横にある門から町へ出た。気ままに少し散歩してみよう。体がきつくなったら建物に入ればいいし。

少し歩くとまたマックがあった。店内をのぞくと、ここは結構客が入っていた。探せば3号店も、あるいはそれ以上あるのかもしれない。

マックがあるから親米だ・・・なんて言うのは短絡的だが、ハンバーガーはアメリカを象徴する食べ物。アメリカの文化の核心ともいえる。それが町中に当たり前にあり、馴染んでいる様子を見てしまうと、この国もジワジワとアメリカ文化に蝕まれているように思えてしまう。

昔は反米チームの代表だったのに・・・。そう考えると、ロシアの町の至るところにマックがある様子はあまり想像したくない。

モスクワの町で
モスクワの町で

外は相変わらず寒い。こんな寒いところによく住めるなと思ってしまうのだが、慣れというのは怖いもので、耳当てをせずに歩いている人が多い。私ほど見た目が薄着の人はあまりいないが、極端に着こんでいる人もいない。

歩いていると、町の風景はヨーロッパなので違うが、人の風景的には東京の冬の町並みとさほど変わらない感じがする。この寒さが普通だと思えば何てことないんだろう。

灼熱の砂漠やジメジメとしたジャングルでも人は暮らしている。酸素の薄い標高の高い場所にも人が暮らしている。海の上で暮らす民族もいる。人間って慣れればどんな環境でも過ごせてしまえるものなんだなと、改めて人間の適応力の高さに感嘆してしまう。

とはいえ、時差ぼけという言葉が象徴するように、新しい環境にいきなり慣れることは難しい。数時間そこらでこの寒さに体が慣れるものではない。外を歩けば歩くほど寒さが体に蓄積され、体がどんどんと蝕まれていくようだ。

でも今日一日だけなのだから我慢しよう。あまり時間がないことだし・・・と頑張って歩くものの、しだいに顔の感覚がなくなり、体の動きも悪くなってきた。

ホットドッグの露店のイメージ(*イラスト:acworksさん)

(*イラスト:acworksさん)

そうだ。何か温かいものでも食べよう。そうすれば体の中でエネルギーが燃やされ、力もわいてくるはず。

何かないかなと探していると、歩道でホットドッグを売っていた。日本でいうリアカーでの焼きいも売りといった感じで、モクモクと湯気が上がっているのが旨そうに感じる。しかも珍しく「HOT DOG」と英語で書かれていて、見慣れた文字に何かホッとする。

安いし。これにしよう。複雑な入場券と違ってホットドッグの注文は言葉が通じなくても簡単。これが欲しいと指をさし、書いてある値段を払うだけ。

って、よく考えると、ホットドッグはアメリカを代表する食べ物だよな。それがこんな町中で売られているのも驚きだ。

冷戦時代はもう終わったんだな・・・とホットドッグの露店を見ながらしみじみと感じてしまうのだが、私がそんなことを思いながらホットドッグが出来上がるのを待っているとは、露店のおじさんは思ってもいなかっただろう。

ホットドッグのイメージ(*イラスト:kazuoさん)

(*イラスト:kazuoさん)

出来上がると、露天商のおじさんは笑顔で渡してくれた。どこかで食べる当てもないので、露店の脇でほおばっていると、おじさんが興味深げに話しかけてきた。

が、何を言っているのかわからない。分からないとジェスチャすると、「ヤポーニィ?」ってな感じで聞き直してきた。どうやら最初の質問は「どこの国の人?」ってな感じで、次の質問は「おまえ日本人か?」ってな感じなのだろう。

日本人というと、ジャパニーズとか、ジャパンという言い方が世界標準だと思ってしまうが、国によって「ハポン」「ヤポン」「リーベン」「ヤーバン」など色んな言い方をする。

多分、ロシア語の日本人ということだなと思い頷きながら「ジャパン」と言うと、通じたようで「そうか」といった感じ頷き、また何か質問してきたが、今度はさっぱり分からない。会話はここで途切れてしまった。

ロシア語のイメージ

せっかく話しかけてきてくれているのに言葉が分からないのは、やっぱりくやしい。日常会話程度でもロシア語を喋れれば、旅がもっと楽しくなるだろうなと思うのだが、そう簡単に外国語がしゃべれれば受験でも苦労はしない。

ロシア語、モロッコでのアラビア語もそうだったが、全く読むことができない言語は初心者にとってはとっかかりが少なく、短期間で取得するのが難しい。

26、灰色の空

しばらく気が向くままに町をブラブラとしてみた。ただ現在地を見失うのは怖いので、いつでもクレムリンに戻れるようにその周辺をウロウロとするだけに留めた。

そして顔が痛くなるとショッピングセンターや地下の商店街に入り、ロシアでは何が売れているのだろうかと興味深く観察してみたりした。

木彫りの熊のイメージ(*イラスト:うどんさん)

(*イラスト:うどんさん)

デパートに入ると、木彫りの置物の物産展みたいなものをやっていた。写真入りの案内板から推測すると、地方の少数民族っぽい人々が作ったものらしい。

これはいいお土産になると3つばかり買った。計算してみると、日本円にして1000円もしなかった。こういうものはロシアでは安いようだ。

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歩いたり、建物に入ったりを何度か繰り返すと、辺りが少し暗くなってきた。時計を見ると、まだ3時になったばかりだった。暗くなるのが早いな・・・、モスクワは。

飛行機の出発時間は7時なので、まだ時間があるといえばあるのだが、勝手のわからない国だし、暗くなってきたことだし、そろそろ空港に戻ったほうがいいかも。

それに暗くなったら恐れているマフィアが登場してくるかもしれない。空港行くのバスが途中でバスジャックに遭ったりしたら最悪だ。

暮らす人々のイメージはよくなったものの、国自体や政府に対してのイメージがよくなったわけではなく、まだロシアに対する不信感が拭いきれていない。

安全マージンは取れるだけ取っておいた方が安心だ。という事で、地下鉄の駅に向かうことにした。

地下鉄の駅のイメージ(*イラスト:acworksさん)

(*イラスト:acworksさん)

現在地はクレムリンや赤の広場から少し離れている。ここからなら隣の駅の方が近そうだと、その駅に向かったのだが、地下鉄の駅が見つからない。

地図で確認しながら歩くものの、町中はロシア語ばかりなので方向が分からない。どうやら迷子になってしまったようだ。

言葉が全く通じないと、人に聞くのにも勇気がいる。地下鉄というのはロシア語で何というのだろう。サブウェイで通じるのだろうか・・・。いや空港の名前を言った方がいいのだろうか。

しばらくどうしたものかと迷いながら歩いていると、再び赤の広場に戻ってきてしまった。でもよかった。これで地下鉄に乗れる・・・。

時計を見ると3時40分。辺りはかなり暗くなっていた。なんて昼間の時間が短いんだろう。これもモスクワに来て驚いた事の一つだった。

日の当たる時間が短いモスクワ。そして、灰色の空を持つモスクワ。雪が積もり銀世界のモスクワ。ロシア人の肌が異常に白いのもこういった事情があるのかもしれない。

そんなことを思いながら赤の広場横にあった駅から地下鉄に乗り、来た時同様にバスを乗り継いで空港へ向かった。

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