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旅人の歯医者日記

第1章 はじまりの虫歯
#1-13 残りの虫歯の処置

1998年3月~10月

歯肉炎の治療後は、残った虫歯の治療を行っていきました。(*第1章は全13ページ)

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31、残りの虫歯の処置

歯肉炎の歯茎のケアが一段落すると、古い銀歯の補修と小さな虫歯を治していくことになった。

特に急いでいなかったので、ゆっくりと2~3週間に一回ぐらいのペースで通い、麻酔を打って古い銀歯を外し、中の虫歯を削ってから型を取り、次回に新しい銀歯をはめるという作業をこなしていった。

虫歯の治療のイメージ(*イラスト:hatorinaさん)

(*イラスト:hatorinaさん 【イラストAC】

時々麻酔がうまく効いていなかったり、歯が沁みて痛かったり、やっぱり歯医者なんて嫌だ!というような治療もあったが、退屈だった3分消毒や、歯茎をつつかれまくる痛い治療とは違って、目に見えて治っていくので、これはこれで通い応えがあった。

そして気が付けば桜の咲く春を迎え、最初に歯医者に通い始めてから1年以上が経った。私自身も大学を卒業し、今では立派・・・と言えるのかは疑問ながら社会人になっていた。

途中サボったので丸々1年通っているわけではないが、我ながらよく我慢して通い続けているものだ。

1年も通い続けていると、幾分歯医者に愛着みたいなものは湧いてくるが、やっぱり積極的には訪れたくない場所というのには変わりがなかった。

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更に歯医者生活は続いていき、季節は夏から秋へと変わっていった。歯肉炎もだいたい治り、虫歯になっている歯はなくなり、古い銀歯もどんどんと新しくなった。

そして最初に歯医者にやってきてから一年半が経つ頃、最後の虫歯の治療が終わった。

治った歯のイメージ(*イラスト:マメハルさん)

(*イラスト:マメハルさん 【イラストAC】

これでようやく歯医者生活も終わりか。長く通っただけあって、随分と口の中がさっぱりしたというか、不快な感じがしなくなったものだ。

思えば歯医者に来る前は、どことなく口の中が痛かったり、口臭が臭かったもんな。これも頑張って歯医者を訪れ、治療してもらったおかげだ。

今までの辛く、そして痛く、長い治療を振り返りながら、しみじみと思ってしまう。

31、楽しかった治療

1年半も通っていれば、色々な事が起こるというもの。痛い思い出や辛い思い出、そして退屈な思い出は沢山あるが、面白い思い出もいくつかある。

一番印象に残っているのが、麻酔を打ち終わり、さあこれから虫歯の歯を削るぞという時に、歯を削ったりするときに使う水を噴出すパイプが口から飛び出してしまい、顔がびしゃびしゃになった時の事だ。

歯科治療のイメージ(*イラスト:浅水シマさん)

(*イラスト:浅水シマさん 【イラストAC】

目をつぶっていたので、なぜそうなったのかよくわからないが、歯を削られる前の緊張している状態の時に、いきなり顔に水がビシャーと降りかかってきてえらくビックリした。まさに水入りってやつになる。

きっと担当の衛生士の女性が何かミスをしたのだと思う。頻繁にはないにしても、こういったことは歯医者ではままあることかと思ったのだが、歯科衛生士の女性は「すいません」と謝った後、どうにも笑いが止まらなくなってしまった。

先生と私は目が点状態。先生はすぐに「すみません」と私に謝り、ちょっと不機嫌そうな声で、衛生士に「早くタオルを持ってきなさい」と指示を出した。

腹筋崩壊のイメージ(*イラスト:まいこさん)

(*イラスト:まいこさん 【イラストAC】

顔を拭いたら治療再開。今度はパイプが飛び出ることはなかったが、衛生士の女性は笑いのツボに入ってしまったようで、また笑いが込み上げてきて、後ろを向いてしまった。

これでは治療にならない。私は笑いが止まらなくなるような面白い顔をしてはいないので、色々と思うところがあったのだと思う。

先生はちょっと怒ったように、「後ろに下がっていなさい」と言い、一人で器用に治療を始めた。

治療中に再び吹き出し、先生の手元が狂って隣の歯を削ってしまったら大変だ。ドリフのコントなら笑えるが、自分の身に起きたらシャレにならない。

でもそんな場面を想像していると、今度は私が笑いそうになってきた。口を大きく開けながら笑いをこらえるのも何気に大変だ。喉元が特に辛い。

それに歯を削る時には、喉の奥に水や唾がたまってくる。笑いを我慢しているせいか、先生が一人で作業しているせいかわからないが、今日はそれが多い。

我慢できなく、これを先生めがけて水鉄砲のように発射してしまったら・・・と思うと、更におかしくなってくる。

笑いを我慢のイメージ(*イラスト:acworksさん)

(*イラスト:acworksさん 【イラストAC】

このままでは本当にそうなってしまう・・・と、一生懸命我慢する私の顔は、結構面白い顔をしていたと思う。

治療中は目を閉じていたから分からないが、もしかしたら先生も吹き出しそうになっていたかもしれない。

もしそんな先生の顔を見てしまったら、歯を削っている最中でも間違いなく噴き出してしまうだろう。ドリルを使っていることだし、絶対に目を開けないようにしていた。

笑いたいのを必死になって我慢していると、「終わりました。口をゆすいでください。」と、笑いを我慢しているような感じの先生の声があり、無事に治療が終わった。

いや~、危なかった。口をゆすいでいると、不思議と笑いは収まってしまうもの。笑っちゃいけないと思うから、おかしくなるものだ。

笑いのイメージ(*イラスト:アメノさん)

(*イラスト:アメノさん 【イラストAC】

治療が全て終わってみると、この日の診察は歯を削った日だったにもかかわらず、痛さを感じなかったし、治療もちょっと楽しく感じた。おかげで、いつもなら憂鬱な仕事帰り+歯医者からの帰り道も、とても足取りが軽かった。

笑いには麻酔の効果があると聞くけど、少しそれを実感できた貴重な機会だった。

33、歯医者ロス

私が迷惑をかけたことも幾つか頭に浮かぶ。いや、正直に言おう。困ったことにたくさんある。

麻酔を同じ場所に2本打つと頬の感覚がなくなってしまい、その時にうがいをしようとして、口に力が入らず撒き散らしてしまった事があったり、寝てしまうことは2度ばかり。

無断で休む事も数回・・・。財布にお金が入っていなくて付けで払う事1回。とまあ、御世辞にもいい患者とは言えなかったが、長い事通っているとお互いに情が移ってしまうもの。

あれだけ歯医者が嫌いだったのに、治療が全て終わった最後の日、「これからはちゃんと歯を磨いてくださいね。」と言われ、私も「長いことお世話になりました。」と、卒業式の日のような涙ぐましい別れをした。

涙の別れのイメージ(*イラスト:ヒロカさん)

(*イラスト:ヒロカさん 【イラストAC】

これだけ長く一つの歯医者に通えたのも、先生や歯科衛生士の対応や人のよさがあったと思う。本当にいい歯医者に巡り合えてよかった。

とはいえ、旅のように、またそのうち虫歯を作って会いに来ます。とならないのが、辛いところ。痛いし、時間はかかるし、行くのが面倒だし、何よりお金もかかる。

なので、これからは歯医者に通わないで済むように歯をきちんと磨くぞ。と、歯医者を後にしたものの、心の中では何か喪失感のようなモヤモヤとしたものが渦巻いていた。

実際、しばらくは歯医者の予約が書き込まれていない手帳を見ると、何か生活の一部が欠けてしまったような寂しさを感じるのだった。

旅人の歯医者日記
第1章 はじまりの虫歯
ー 完 ー
風の旅人 (2024年4月改訂) 第2章 折れてしまった前歯
#2-1 前歯が折れる!(前編) につづく
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