旅人の歯医者日記タイトル
旅人の歯医者日記

第2章 折れてしまった前歯
#2-17 雲行きの怪しい結末

1999年8月~9月

親知らずを抜歯したものの、差し歯の神経の状態が不安定のままでした。(*第2章は全17ページ)

広告

43、雲行きの怪しい展開

歯の点検のイメージ(*イラスト:佐桃冬雪さん)

(*イラスト:佐桃冬雪さん 【イラストAC】

親知らずを抜いた翌日、会社帰りに消毒と検査のため、歯医者を訪れた。歯を抜いた場所を診てもらうと、「穴の状態は良好です。そのうち穴はふさがります。何も異常はありません。」と、言われた。

まずは一安心だが、それよりも命の危険は・・・。心配になって先生に、「いきなり親知らずを抜いたら、やっぱりまずかったのですかね・・・。命に関わるとか何とか言われたんですけど・・・。」と、みんなに言われたことを伝えると、笑いながら「絶対ないとは言えませんが、まずありません。少し前にたまたまそういった事が起き、ニュースで流れたからでしょ。」と、言われた。

なんだ。そうだったんだ。見事にはめられたというか、みんなが口裏を合わせて私を驚かせたとしか思えない展開・・・。

うわさ話に驚くイメージ(*イラスト:poosanさん)

(*イラスト:poosanさん 【イラストAC】

ただ、下の親知らずの場合は、重要な神経が歯のすぐそばを通っているので、いい加減に抜くと後遺症が出る可能性があったり、また、妊婦さんの場合は抜歯後に抗生物質などが使えなく、そのことで病原菌に感染する可能性があったりするそうだ。もちろん、そういった場合は慎重に対処しているとのこと。

なるほど、そういったことも混ざって命の危険って話になったのかもしれないな・・・。てか、みんな大袈裟に言いすぎ・・・。ほんと、聞いたときはびっくりしたんだから・・・。

安心するイメージ(*イラスト:モノクロスさん)

(*イラスト:モノクロスさん 【イラストAC】

それから1週間後、前歯の状況を診てもらうために歯医者を訪れた。先生に「まだ少し痛むことがありますが、普段の生活では問題ありません。朝起きて強烈に痛いということもなくなりました。」と報告すると、「そうですか。」と頷くものの、難しい顔をしていた。

実際、親知らずを抜いたことで、以前のような強烈な痛みに襲われることはなくなり、前歯の状態もよくなったように感じる。ただ、全く痛みがなくなったわけではない。

歯茎をいらったり、口をいの字にすると歯茎が引っ張られて、2本の差し歯の内、片側の歯が微妙に痛い状態が続いていた。かといって強烈に痛いわけでもなく、なんか中途半端に痛さが残っているといった感じだった。

一通り診察が終わった後、先生が神妙な面持ちになり、「前歯の神経の炎症ですが、もしかしたら収まらないかもしれません。その場合は片側の差し歯を壊して外し、神経を抜く処置を行うことになります。そして処置が終わった後に、再び新しい差し歯をつけることになります。」と、言ってきた。

歯科医の説明のイメージ(*イラスト:acworksさん)

(*イラスト:acworksさん 【イラストAC】

えっ、マジかよ。それって一番なってほしくなかった展開ではないか。差し歯が治って間もないのに、また長くつらい治療の日々が始まるのは、憂鬱そのもの。絶望感で一杯な状況だ。

更に憂鬱に感じるのが、また大きな出費をしなければならないこと。今回の差し歯が2本で17万円だったから、片方だと8万5千円。それに神経の治療費を加えると、10万円はかかる・・・。

今回の治療費は、友人が自分の責任だからと、差し歯代と治療費として20万を払ってくれた。「追加で10万かかることになった」と、また友人に請求したら、なんちゃら詐欺みたいだな・・・。請求しにくいから自分で払うしかないか。一生懸命溜めている旅行代が消えていく・・・。

詐欺のイメージ(*イラスト:ちょこぴよさん)

(*イラスト:ちょこぴよさん 【イラストAC】

不安そうな私の顔を察してか、先生は続けて、「我々としてもなるべく生きている歯は神経を抜かずに治療する方針なので、前歯の神経を抜きませんでした。でも、どうしても痛む場合には、治療をしないと歯が抜けるなど大変なことになりかねません。その際の差し歯の代金はこちらで負担します。どうなさいますか?」と言ってきた。

今度頭に浮かんだのは麻酔の痛さ。神経を抜かない治療でも、絶叫する痛さだった。もし神経を抜くとなると、更に強烈な麻酔となり、痛さもマシマシになるはず。今度は絶叫で済まず、本当に気絶してしまうかもしれない。

心の叫びのイメージ(*イラスト:たあさん)

(*イラスト:たあさん 【イラストAC】

これはとてもありがたい提案なのだが、あの麻酔の痛さはもう勘弁してほしい。出来る事ならお金を払ってでも避けたい・・・。といった後ろ向きな理由で、「今はさほど痛くないので、もう少し様子をみましょう。」と、ごまかしたような笑顔で答えた。

44、頼りない治療終了認定

更に1週間後、診察の為に歯医者を訪れた。ここ1週間は「仮に痛くなったとしても、歯医者持ちで差し歯を交換してもらえる・・・」といった安心感からか、前よりも痛みが和らいだ。

先生に「痛みがどんどん引いていて、このまま治りそうだ。」と伝えると、「そうですか」と、頷いてはくれるものの、あまりうれしそうな顔はしてくれない。

WINWINのイメージ(*イラスト:78designさん)

(*写真:78designさん 【写真AC】

先生としても余計な出費をしたくないだろうし、私も余計な痛みを味わいたくない。少なくとも利害は一致している。なので、先生もこの展開はうれしいはずなのだが、表情や態度からすると、そうでもない。ということは、私が考えている以上に、前歯の状況は深刻なのかもしれない。

患部の確認を行った後は、「では2週間後にもう一度来てください。その時に問題がなければ治療を終了します。」と言って、今日は簡単な診察だけで終わった。

line

その2週間後、歯医者を訪れた時には、歯の痛みはほとんどなくなっていた。若干冷たいものを食べたときに沁みるのと、前の歯茎がちょっと突っ張った感じが残っているだけ。

先生から「とりあえず神経は落ち着いたようなので、診察は終わりにします。ただ、完全にいい状態かと言うと、それは疑問で、また以前のように痛みだすことがあるかもしれません。もし何か異常が生じたらすぐに来てください。」と、頼りない治療終了認定をもらった。

また来る事になるんだろうな・・・。前歯は爆弾を抱えているようなものだし、反対側の親知らずが生えつつあるのも気になる。もしかしたらまた前歯を炎症させるような事態になるかもしれない。

修了証書のイメージ(*イラスト:くらうど職人さん)

(*イラスト:くらうど職人さん 【イラストAC】

この他にも気になることが幾つかあったので、診察の終わりに先生に質問してみた。

まず、親知らずを抜いた所が未だに陥没していて、へこんだままになっている。しかも隣りの歯は一番最初にこの歯医者に来た時に治療した差し歯。被せた銀歯との間に隙間ができ、食べかすが溜まって気持ち悪いし、口臭は臭いし、何よりも虫歯になりそう。

その事を尋ねると、「親知らずを抜いた所はその内ふさがるので、ブラッシングさえきちんとしていれば大丈夫ですよ。」との事だった。

もう一つ気になったのが、下の親知らず。自分の歯のレントゲンを眺めると、下の親知らずだけ変な写り方をしていて、他の歯に対して直角。まるで舌の方に生えようとしている。

歯のレントゲン写真

(*10年以上後の私のレントゲン写真)

レントゲンの写真の構造上こういう写りをしているのだろうと、ずっと思っていたのだが、今回親知らずで苦労してみると、何か嫌な予感がしてくる。質問したついでといった感じで先生に聞いてみると、「生える場所がないので横向いているんです。」と涼しい顔で言われ、びっくりした。

もしこれが生えてきたらえらいこっちゃではないか。というか、どうやって生えるんだ、これ。歯茎の横から突き抜けて出てくるとか・・・。って、そんなのは怖いぞ。想像しただけでグロテスクで、背中がかゆくなってくる。

心配になって先生に「この歯はどうやって生えるのですか?」と聞くと、「こういう風に横に向いている人は別に珍しくはありません。ただ実際に生えてくる人は、ほんとうにまれです。歯が眠っていると思ってください。でも、もし生えてくることがあれば、ちょっと大変なことになり、歯茎を切るような手術が必要になる場合があります。」と、笑いながら言うものの、現実問題、もし生えてきたら大変だ。私に限って言えば、色々と歯のトラブルを抱えているので、その「もし」が起こりうる可能性が普通の人よりも高そうに感じる。

水平埋没親知らずのイメージ(*イラスト:moccoさん)

(*イラスト:moccoさん 【イラストAC】

歯医者にはもう随分と長い期間通っているので、歯医者慣れはしてきたものの、やはり歯医者にかからないにこした事はない。

お金もかかるし、やっぱり通うのが面倒くさい。儚い願いかもしれないけど、できる事なら今後は定期検診程度で済ませたいものだ。そう願いながら歯医者を後にした。

旅人の歯医者日記
第2章 折れてしまった前歯
ー 完 ー
風の旅人 (2024年4月改訂) 第3章 ユーラシア大陸横断
#3-1 ユーラシア大陸横断 につづく
Next Page
広告
広告
広告