旅人とわんこの日々 タイトル

旅人とわんこの日々
世田谷編1 2003年 Page10

ワンコのいる日常と旅についてつづった写真ブログです。

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14、SARSの流行(2003年5月)

ゴールデンウィークのイメージ(*イラスト:Mさん)

(*イラスト:Mさん 【イラストAC】

ゴールデンウィークになった。せっかくバイクがあるので、ゴールデンウィークはバイク三昧。と、ならないのが、サービス業の辛いところ。29日は休みをもらったが、それ以外はほぼ仕事で埋まっている。

もっとも、今働いている写真現像の場合は、ゴールデンウィーク開けてからの方が忙しくなるので、他の働いている人との兼ね合いの方が大きい。

独身の私の場合は、道路や交通機関、観光地が混んでいるゴールデンウィークに休みをもらっても、積極的に遠出をしたいとはならないので、あまりうれしくない。

むしろここで他の人に休みを譲れば貸しができ、本当に休みたい時に休みやすくなる。なので、これはこれで良かったりする。

コロナウイルスのイメージ(*イラスト:ノゾミさん)

(*イラスト:ノゾミさん 【イラストAC】

それはさておき、昨年からSARS(重症急性呼吸器症候群)という聞きなれない病気が、中国を中心にアジアで流行している。

病名に英語のアルファベットが並ぶと、AIDSとか、HIVなどといった難病を思い浮かべ、感染してしまったらもう最後、お先真っ暗といった印象を持ってしまうのだが、このSARSはインフルエンザに近いコロナウイルスが引き起こす伝染病で、感染してしもバタバタと人が死んでいくということはない。

ただ、高熱や呼吸困難、激しい咳などといった重度の肺炎の症状が現れる場合があるので、基礎疾患がある人、体の弱い人などが感染すると、命の危険につながる恐れがある。実際、海外では亡くなっている方がそれなりにいるので、世界規模の問題になっている。

例年、ゴールデンウィークを海外で過ごす人は多いが、このSARSの影響でキャンセルが相次ぎ、昨年比の3割減になるとか。特に感染の中心地となる香港、中国などへは壊滅的で、飛行機の減便も相次いで行われている。

更には3月に始まったアメリカ主導のイラク侵攻の影響、また今年はカレンダーの並びが悪いというのもあり、ゴールデンウィークが稼ぎ時の旅行業界には逆風が吹きまくっているようだ。

防護服での消毒のイメージ(*イラスト:トーストさん)

(*イラスト:トーストさん 【イラストAC】

このSARSの厄介なところは、インフルエンザと同様に人から人へと簡単に感染すること。そのため、海外では集団感染が相次いでいるようだ。

テレビの報道では防護服を着た人が物々しく消毒をしていたり、感染者を厳重に隔離していたり、あるいは家族がSARSで亡くなって悲しんでいる光景などを、各局が視聴率を稼ぐために競い合うように報じている。

そういった非日常的な様子を見ていると、SARSという死の病が人類に蔓延し、海外では国家危機レベルの大変な事態になっているんだ・・・。これは人類の存続の危機で、世界の終わりが近いかも・・・などと、戦々恐々と思ってしまう。

地球滅亡のイメージ(*イラスト:エイリアン グレイさん)

(*イラスト:エイリアン グレイさん 【イラストAC】

だが、私の心の中で膨らんでいく人類滅亡論とは裏腹に、感染者がほぼいない日本では、日常の風景は平穏で、特に普段の生活に変わりがない。

ゴールデンウィークも海外旅行は減少しているが、国内旅行は活況だし、人と話していても、町を歩いていても、SARSなんて他人事。いや、他の星の出来事といった雰囲気で、映像と現実とのギャップに戸惑ってしまう。下手にテレビやインターネットのニュースを見ない方が平穏に暮らせそうだ・・・。

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このSARSの始まりは昨年末。中国広東省仏山市で最初の発生が報告され、それ以降、香港、北京と広がり、更にはベトナムやシンガポールといった中国国外にも広く拡散され、世界的な流行となった。

世界的に海外旅行がブームとなり、多くの人が国をまたいで旅行を楽しんでいるが、困ったことに病原菌も手軽に国をまたいで旅をする時代になってしまったようだ。

ハクビシンのイメージ(*イラスト:山海たまさん)

(*イラスト:山海たまさん 【イラストAC】

報道によると、この新型コロナウイルスが発生した原因は野生動物で、恐らく市場で売られているハクビシンから媒介したのでは・・・という説が一番有力視されている(*後にキクガシラコウモリからというのが有力となる)。

古くから中国人は4足のものは机以外何でも食べる。などと揶揄されることがあるが、中国の市場に行くと、ここはペットショップかというぐらい多くの種類の動物が生きた状態で売られている。

それはなぜか。中国では衛生環境が悪いし、信頼関係も薄い。死んだものだと、どういう素性のものか分からない。食べる直前まで生きていれば、安心できる。それに新鮮なほうがおいしいと思う人が多く、こういった状態で売られているのだとか。

深圳・町中の鳥屋の写真
深圳の鳥屋

鶏肉にしても、町中にある鶏肉屋では鶏やアヒルが生きている状態で売られていたりする。それを普通におばさんが品定めして、「この太ったやつをもらおうかしら」といった感じで買っている。切った肉がパックに入って売っていることに慣れていると、そのワイルドさに驚く。

きっと家に帰ったら、手慣れた感じで捌いていき、今晩の夕食の食卓に上がることになるのだろう。中国の食文化の逞しさや、食への強いこだわりを感じるいい例になるだろうか。

今回のSARSの原因となったコロナウイルスは、こういった中国独特の食文化に起因し、生きた野生動物を扱う動物市場で人間に感染したのではないか・・・と指摘されていて、報道で中国の動物市場の映像がよく流れている。

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2000年の事になるが、香港のお隣にある広東省深圳を訪れた時、現地の大学に通う友人の案内で、深圳で一番大きな東門市場の動物売り場を訪れた。

訪れてみると、市場内には多くの動物の檻が並んでいて、見て歩くだけで楽しく、まるでミニ動物園みたい・・・。って、いやいや、ここはそんな夢のある場所ではなかった。

深圳・東門市場 2000年の写真
深圳・東門市場 2000年

ここの動物たちはペットとして売っているわけではないので、扱いはぞんざいで、完全に物扱い。劣悪な環境の中、多くの動物が狭い檻に閉じ込められていた。

動物たちの檻の横を歩くと、死を覚悟した悲しい目をこちらに向けてくる。その悲しい目を見てしまうと、心が痛くてしょうがない。悲痛な鳴き声が耳に入ってくると、心拍数が上がり、耳を押さえたくなる。

また、血抜きや解体もしているので、動物の死体や毛皮が無造作に転がっていて、目をそむけたくなる。更には、この一帯は血の匂い、腐敗臭、飼育臭が混じった強烈な悪臭が漂っていて、息が詰まりそう。呼吸をするのも苦しく感じたほどだ。

ここには楽しい雰囲気は一遍もなく、あるのは殺伐とした雰囲気と、悲しい運命をたどることになる動物たちだけ。あまり思い出したくない記憶になる。

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動物市場がSARSの原因ではないかと報道されると、早々に中国当局によって市場は閉鎖されてしまった。困るのが報道番組、その代わり的な感じというか、インパクトがあることも含めて、最近では中国の食肉用の犬が市場で売られている様子が映像で流れている。

犬を食用として食べる文化は中国だけではなく、韓国やベトナムでも多い。その他、一般的ではないにしても、けっこう多くの国にあったりする。

犬を飼っている身としては、こういった犬食の文化に対してはいい気がしない。いや、むしろマイナスの感情が沸き上がってくる。

ビアデッド・コリーの写真

改めて我が家の犬を見てみるのだが、おいしそうだとは全く思わない。もちろん、他の家の人の犬を見ても食べたいとは思わない。

普段から牛や豚などの肉を食べているので、食肉に関して文句を言うつもりはない。でも、肉を食べるのに、犬ではなくてもいいのでは・・・といった事をどうしても考えてしまう。

とはいえ、こういった考え方はそれぞれの環境に依存するというもの。犬を食べるのが当たり前に育ってきた人には、犬は食用の家畜でしかないので、他人から批判される意味が分からないだろう。

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世界には多くの民族が暮らしている。そして、その土地で代々受け継がれてきた文化的価値観で生きている。こういった文化の違い、価値観は旅をしていて面白く感じる部分ではあるが、感情的な部分が混じると、異なる文化同士で批判しあう事も多い。食肉文化に関しては、それが顕著に表れるように思う。

養豚の写真
養豚場の子豚

一番代表的な例として、ヒンドゥー教は牛を食べなく、イスラム教は豚を食べない。よく耳にするので、その事実を知っている人は多いと思う。

でも、その本質は全く違う。ヒンドゥー教の場合は牛が神聖なる生き物だから食べない。イスラム教の場合は豚が不浄だから食べない。なので、ヒンドゥー教徒にしてみれば牛を食べる他の民族のことをあまり快く思っていない。

一方、イスラム教徒の場合は豚が好きなわけではないから、他の民族が豚を食べようが特に気にしない。自分達が食べなければそれでいいといった感じになる。

古来の捕鯨 模擬捕鯨の様子の写真
古来の捕鯨

日本の話をすると、食文化でよく他の国からやり玉に挙げられるのが鯨になる。日本では古くから鯨肉を食べる文化があるわけだが、鯨への愛情や思い入れを持った人は、私が犬を食べて欲しくないのと同じような思いを抱き、捕鯨反対運動を行っている。

とはいえ、昨今の反捕鯨運動は規模が大きくなりすぎて、色々な政治的思惑が渦巻いているように感じてしまうのだが・・・。

馬と少年たちの写真
飼い馬と少年たち

鯨以外では馬を食べることも海外では非難されることがある。まして生で馬刺しにして食べているなどと話すと、「何て野蛮なんだ!」とドン引きされることがある。

最近では少なくなったが、生きた魚を目の前でさばき、それを客が楽しんでいたりする様子も、他の民族の目には残酷に映っている。

こういった文化の違いというものは、実際に海外へ出て、異文化にどっぷりと身を浸してみないと、何が普通で、何が普通でないか、はっきりと分からないものだ。

魚の調理のイメージ(*イラスト:すずしろさん)

(*イラスト:すずしろさん 【イラストAC】

さて、色々と騒動を巻き起こしたSARSの流行だったが、どうやら終息しつつあるようで、ここのところ海外から伝わってくる感染者は激減している。流行していた地域では、入国規制などの規制なども解除されつつあるという。

もともと感染者がほとんどいなく、熱しやすく冷めやすい日本では、今ではすっかり関心が薄くなり、もう過去の話となりつつある。普段の会話でも話題に上ることがほとんどない。

それよりも株価が底割れし、バブル後の最安値を更新している状況の方が深刻なような気がする・・・。大丈夫なのか、にっぽん。SARSよりも日本の先行きに不安を感じてしまう・・・。

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