旅人とわんこの日々 タイトル

旅人とわんこの日々
世田谷編 2004年 Page1

ワンコのいる日常と旅についてつづった写真ブログです。

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1、写真業界の不況と転職(2004年1月)

現像機や現像ラボの写真

チェーン店で写真の現像の仕事をしていたのだが、春から仕事の量が少しずつ減り始め、夏の終わりになると、労働時間の調整要請が多くなった。

写真業界というのは、世間が好景気でもそんなに儲かりはしないが、不況になってもそんなにダメージを受けないといった、世間の情勢に左右されにくく、浮き沈みの少ない産業と言われてきた。

その定説が覆り、2003年の夏ころから不況の波がどっと押し寄せてきた。それも世間が不況だからといった外的要因ではなく、どちらかというと内的要因になり、一気に押し寄せてきたデジタル化の波、いわゆるフィルムカメラからデジタルカメラへの移行に伴っての不況になる。

インターネットのイメージ(*イラスト:ショコラさん)

(*イラスト:ショコラさん 【イラストAC】

インターネットが世間に認知されだしたのは1990年代の後半。新しいツールとして世間に浸透していき、ミレミアムと盛り上がった2000年頃から、パソコンとインターネットが爆発的に一般家庭へ普及していった。

それとともに世の中の多くのことがデジタル化、或いはオンライン化され、身の回りのことがどんどんと便利になっていった。

写真に関しても、ここ数年でデジタル化が急激に進んだ。一番の変化はデジタルカメラ、通称デジカメの普及。それ以前から存在していたが、ここ数年でフィルムカメラと肩を並べられるほどの画質と価格になり、一気に世間に広まった。

デジカメとフィルムカメラの写真
フィルムカメラとデジカメ

デジタルカメラというのは、これまで写真を撮るのに必須だったフィルムを使わず、デジタルのセンターで画像を読み取り、メモリーカードに記録するといったカメラで、フィルムの残り枚数の心配や、現像にかかる金銭的なことを気にせずに写真を撮ることができる。

また、背面に備え付けの液晶画面を見ながら写真を撮ったり、すぐにその場で撮った写真を確認できることも革新的で、後でちゃんと撮れていなかったとガッカリすることが少なくなった。

この画期的なデジカメの登場で、「写真は撮るのにお金かかり、技術的にも難しい。現像に出す手間もかかる。」といった障壁がなくなり、「写真は誰でも気軽に撮れるもの」に変わりつつある。

写真を撮る女性のイメージ(*イラスト:野草さん)

(*イラスト:野草さん 【イラストAC】

実際、今まではカメラは難しいからと、あまり積極的に写真を撮ることのなかった女性が積極的に写真を撮るようになり、子供の運動会や学芸会では、カメラを構えたお母さんがずらっと並ぶようになった。

おかげで世間は空前のデジカメブーム。カメラも飛ぶように売れ、写真業界は大盛況・・・。となるはずだったのだが、実際にデジタル大革命が起きてみると、写真屋でプリントを頼む人が少なくなってしまった。

同時プリントに出した写真のの写真

今までだと、フィルムで写真を撮り、そのフィルムを写真屋に持っていき、現像とプリントをしてもらうのが当然というか、クリーニング屋やドラッグストアなどの安い同時プリントを含め、それ以外に撮った写真を見る方法がなかった。

それがデジタルカメラだと、わざわざ写真屋に出さなくても、手軽にパソコンやテレビなどの画面で撮った写真を見ることができる。なので、パソコンに保存するだけの人、家庭用プリンターで印刷する人など、写真屋でプリントをしない選択肢ができてしまった。

実際にプリントを注文する人も、たくさん撮った写真の中からよほど気に入ったものとか、集合写真を数枚プリントするだけ。世間のデジカメブームに対して、注文を受けるプリントの枚数が比例しないどころか、減っているのが現状になる。

下降グラフのイメージ(*イラスト:ふぃふるさん)

(*イラスト:ふぃふるさん 【イラストAC】

プリントする枚数が減ってしまったことは痛いが、これはやりようによっては挽回することも可能なはず。

写真を趣味にする人口は確実に増えているのだし、写真屋の現像機は家庭用プリンターとは比べ物にならないほどの印刷品質なうえに、多機能。それに現像マンも確かな補正技術を持っているのだから。

フィルムの写真

問題なのは、今までフィルムを売って、フィルムを現像していた部分。フィルム周りの売上が激減し、結構な角度で右肩下がりになっている。

フィルムの現像というのは写真屋の現像機でしかできないことだったので、実は専売特許的な感じでいい利益になっていた。これがなくなってしまうのが本当に痛く、他で埋めるのはなかなか容易ではない。

といったわけで、カメラのデジタル化によって、写真を趣味にする人の裾野が広がり、カメラ産業の活況といった恩恵をもたらしたが、その反面、写真業界はプリントの減少から収益が悪化するといった、どうにもすっきとしない展開になっている。

ネガシートの写真
ネガシート(リバーサルフィルム)

そして、個人的なことになるが、デジタルカメラの普及とともに、現像の仕事がつまらなくなってきた。

注文を受ける写真にブレたり、ピンぼけといった失敗カットがなくなり、作業をしていても面白くない・・・。いや、もとい。写真の前後の関連性がなくなり、今までのようなストーリー性を感じられなくなったからだ。

もちろん他人のプライベートだし、何百枚とプリントしないといけないので、あまり人様の写真をじっくりと見ることはないのだが、フィルムだと24コマとか36コマといった、決められたコマ数で完結される俳句のような世界観があり、写した人の写真に込めた想いを感じながら、それに応えるように色や露出の補正をしてきた。

俳句のイメージ(*イラスト:hrukyさん)

(*イラスト:hrukyさん 【イラストAC】

それがデジタルカメラになったことで、フィルムの枚数とか、現像コストを気にせずに写真を撮ることができるようになり、そういった情緒や思惑がなくなってしまった。

使う人からしてみれば、「フィルムがもったいない」と写真を撮るのを躊躇したり、あと何枚だからと考えながら撮っていたのが、気にせずにパシャパシャと写真を撮ることができるし、必要ない写真、失敗した写真はデーターを削除するだけ。何のペナルティーもない。

フィルムの時には、失敗した写真のプリント代も取られたけど、デジタルの場合は、ちゃんと写った写真だけ選んで写真屋に持っていけば、余計な出費をしないで済む。なんて便利な世の中になったのだろう。というより、今までがぼったくりだったんじゃない。なんて思われてもしょうがない。

現像前のフィルムの写真
現像前のフィルム

まあ確かにそう言われればその通り、となるのだが、フィルムの特性上、現像してみないと何が写っているのかわからないので、そうせざるを得なかった。でも、だからこそ現像が出来上がった時の楽しみとか、ガッカリ感も大きかったはず。

そう、フィルムの時の写真現像は、イベント感とか、特別感があった。そして出来上がった写真を、写っている人たちと一緒に見ながら会話が弾むことも多かった。

デジタルになってからというもの、出来上がった写真を受け取りに来る人の顔がコンビニで買い物をするような表情になった・・・というのは大袈裟だけど、フィルムの時のような早く見たい。楽しみでしょうがない・・・といったワクワクしたような表情をする人は確実に少なくなっている。

ワクワクする様子のイメージ(*イラスト:ちょこぴよさん)

(*イラスト:ちょこぴよさん 【イラストAC】

それは現像する側も一緒。注文を受ける写真は今までと違ってブレたり、ピントが合っていない写真はなくなり、また画面に他人の頭が入っていたり、目をつぶっている子供の写真も少なくなった。

選りすぐりのいい写真ばかりなんだけど・・・。この場面をどうしても写真に収めておきたいといった必死さとか、人生の重みといったものが、フィルムの時に比べると写真から伝わってこない。

それに今日は特別の日だからフィルムを入れて写真を撮ろう。写真を撮るから、髪をといて服を着替えてきなさい。といった特別感というか、ハレの日感も薄くなってしまったように感じる。

七五三の写真
昭和時代の七五三(ハレの日)

もちろんこれは私の個人的な印象とか、感覚でしかない。デジタルでもいい写真を撮っている人はいっぱいいる。でも・・・、やっぱり一枚の写真に対する執着心とか、重みとかが、デジタルになってどんどんと薄らいでいるような気がする。

なんていうか、今までは下手糞だけど味があり、受け止めるのが大変なほど多くの思いが一枚一枚の写真に詰まっていた。といったところだろうか。なので、多少色味がおかしくても、補正で頑張っていい写真にしてあげたいといった、情熱とか、やりがいがあった。

更にはカメラの性能が格段に向上したので、プリントする際の補正作業もあまりいらなくなってきた。現像マンの腕の見せ所といった場面も少なくなり、プリント作業に対しての情熱とか、やりがいといったものがすぼんでしまった。

メキシコ国旗の写真
メキシコ国旗

もちろんそれだけが理由ではなく、外交問題のように複雑かつ、繊細に様々な問題が絡み合ってのことだが、この機に転職することにした。

そしてせっかく時間もできたことだし・・・。昨年から再び旅人として目覚めてしまったし・・・。手術後の父親の状態も安定し、ここのところ普通に暮らしているし・・・。また悪くなったら、今度こそ旅どころではなくなるし・・・。とまあ、色々と理由を付け、懲りずにまた海外へ旅にでることにした。

今回の旅の目的地は、今まで訪れたことのない地球の反対側、メキシコやペルーなど。バイクを購入してしまったので、年単位で行く予算がないし、病気を患っている父親と家族のことも心配なので、2カ月程度の旅程を組んで、レッツ・アミーゴってな感じで日本を旅立った。

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