旅人とワンコの日々
世田谷編 2005年(4/8)
世田谷(砧公園)での犬との生活をつづった写真日記です。
6、人生初のバイクレース(2005年7月4日)

今日はSLy チャレンジバイクレース第3戦の開催日。我々にとっては2005年の2戦目になり、そして私のデビューレースとなる。
さらりと書いてしまったが、今までライダーを務めていた後輩Kが、「家族サービスが・・・」「家庭問題を抱えると、今後レースに出られなくなってしまいます・・・」と、今回不参加。
「せっかくレースに出るためにバイクを買ったのだから、できる限り多くのレースに参戦したい。一人では出られないんだよ・・・。頼む。」と、友人に頼まれ、「しょうがない。一肌脱ごう。」と、後輩Kからヘルメット以外のレース用装備を一式借りて、レースに出ることにした。
と言っても、私は今まで一度もサーキットを走ったことがない。そんな初心者がいきなりレースに出ては自分もそうだが、走っている他のライダーも危険が及ぶ。1か月ほど前に練習走行会+バーベキューといったイベントがあったので、それに参加し、少し練習したうえでのレースデビューとなる。

その走行会でのこと。今まで友人たちがレースで走っているのを見て、簡単そう・・・とはさすがに思わないが、普段からバイクには乗っているし、友人たちとも一緒にツーリングへ行き、峠などを一緒に走っているので、俺でもそこそこいけるんじゃない?ってな自信が少しだけあった。
友人とどれぐらいの差があるのだろうか。ラップタイムという数字で、明確な実力差がわかってしまうのが、サーキット走行。いきなり友人のタイムを抜いてしまうかも・・・。いや、もしかしたらコースレコードを塗り替えてしまうってことだってありえる・・・。走る前は根拠のない自信から期待が無限に高まる。

(*イラスト:ニッキーさん 【イラストAC】)
よしっ、俺の実力を見せてやる!と、自信過剰気味にサーキットデビュー。しかし、実際にバイクを走らせてみると、頭の中でイメージした通りに走れない。当たり前のことだが、サーキットを初めて走る人間が、いきなりレーサーのように走れるわけがない。
特に困ったのがブレーキ。根っからのツーリングライダーである私は、普段あまり強くブレーキを使うことはないので、ブレーキのかけ方に苦労し、最初のうちは何度も後輪がロックしてドリフト状態になっていた。(*バイクは自転車と一緒で、前輪と後輪のブレーキが別々の操作になっています。)
友人などにアドバイスを求めると、サーキットで走るときには前輪だけで、後輪のブレーキはほぼ使わないんだとか。そうだったんだ・・・。と、新たな発見。意識してやってみるものの、慌てたり、侵入スピードに不安があると、つい後ろのブレーキを踏んでしまう。なかなか今まで身に沁み付いた癖は抜けないものだ。

(*イラスト:フリーカットさん 【イラストAC】)
車にしてもバイクにしても、移動を楽に行うための道具である。そのバイクを移動手段ではなく、純粋に速く走らせるのがサーキット走行になる。
サーキットでは公道と違って対向車はいないし、道路間際にガードレールや崖もない。いきなり道に穴が開いていたり、人や動物が飛び出すようなこともない。余計な心配をせず、純粋に走ることに集中できる。そして限界までチャレンジを行うことができる。
バイクを速く走らせる為には、後輪のブレーキもそうだが、限界までバイクを倒しこんだり、ブレーキをギリギリまで遅らせたり、後輪を滑らせないようにフル加速させたりと、明らかに公道とは違った走り方が求められる。
当然そういった走りには安全のマージンが少ない。バイクの性能の限界、或いは自分のスキルの限界を越えてしまうと、曲がり切れなかったり、バランスを崩したりして転倒してしまうことになる。
転倒すると、バイクの場合は身体が投げ出されるので、ヘルメットやつなぎなどの安全装備を装着していても、怪我をする可能性がそれなりにある。もちろん、バイクが壊れ、修理代がかかるというのも痛い。
速く走らせたいけど、コケたくはない。でももう少しコーナーへの突っ込みを鋭くすればタイムが縮まりそう・・・。サーキットでの走行は向上心と挑戦、スリルと恐怖が混在している感じで、なかなか刺激的。一度はまると、病みつきになりそう・・・。

一回目走行した後の休憩中にみんなからアドバイスをもらい、2回目はそれを意識しながら走らせた。乗り慣れていない乗り方なので、最初は窮屈に感じたが、徐々に身体や感覚がバイクやサーキットに慣れ、最後の方はいいリズムで走れるようになった。
で、最終的には友人の持ちタイムよりもちょっと遅い程度まで上げることができた。これならまずまず合格点。後輩の代役も務まるだろう。でも、友人はたった一日で、自分のすぐ後ろにまで私が迫ってきたことに不満顔。ラップタイムというのは残酷なものだ・・・。
とはいえ、走り終わってみると、右手の握力がなく、股関節もつり気味。モータースポーツと名が付くだけあって、サーキット走行は体にきつい。レースではもっと長い時間を走ることになるので、基礎体力をしっかりと付けておいた方がよさそうだ。

走行会で得た経験を基に、毎日寝る前に腕立てやスクワット、そして握力の筋トレを行い、普段、自分のバイクに乗るときにも頭の中でコーナーのイメージを描きながらバイクを傾けたりと、できる範囲の準備してレースの日を迎えた。

今回は3時間耐久レース。一緒に練習走行を行った後輩Iと、名古屋でレース活動している後輩Eも出場してくれることになり、私を入れた新人3人に、今回は少しだけ走れればいいといった友人の3.5人チームで参加。
その他にも「楽しそうですね。走るのは嫌だけど、ぜひ手伝わせてください。」と、後輩Aも駆けつけてくれ、かつてないほどチームに活気がある。
レースの方も、前回の1時間耐久の時は12台しか出走していなかったが、今回は3時間耐久ということで24台と倍に増え、パドックはライダーや家族でにぎやかだった。やっぱりレースは賑やかなほうが楽しい。

このレースには予選はなく、グリッド(スタート順)は、くじで決めている。レースをみんなで楽しもうというサンデーレースなので、こういったところはほのぼのとしている。
で、なんと今回はくじ運がよく、2番手からのスタート。第一ライダーを務める後輩Eは名古屋でレース活動をしているので、ポールショット(第一コーナーに最初に侵入すること)を取れるかも・・・。もしかしたらオープニングラップも取れてしまうかも・・・。と、もの凄く期待のかかるスタート順となった。

スタート方式は、伝統的なル・マン式スタートの変則版。ル・マン式スタートというのは、マシンをパドック側に一列に並べ、ライダーはコースの反対側に並ぶ。スタートの合図とともにライダーがマシンに駆け寄り、またがってスタートするといった古典的なスタート方式。
このサーキットでは安全のため、予め第一ライダーはバイクにまたがって待機し、第二ライダーがコースの反対側から走り、第一ライダーにタッチしてスタートするようになっている。
第二ライダーは私。狙うはオープニングラップ。100m走の選手のようにスタートの合図とともに本気で走り、第一ライダーの後輩Eにタッチ。きっちりと仕事をした。
すぐに安全なピットレーンに入り、期待しながらホームストレートに戻って来る後輩を待ったのだが・・・、黄色いバイクの姿が先頭付近にいない。
もしかして転倒・・・。一瞬、嫌な予感がしたが、かなり抜かれたようで、中団グループの中にいた。もしかしたら・・・と、期待が大きかっただけに、ガッカリ。
もっとも、普段レース活動をしているとはいえ、彼にとってはこのサーキットで最初のレースだし、乗り慣れていないマシンだったので、パワーの出方が分からなく、もたついたところを後続車に雪崩のごとく抜かれ、コースの隅の方へはじかれてしまったそうだ。

順調に周回数を重ね、まもなく第二ライダーの私の出番。自分が走る番がせまってくると、やっぱり緊張する。ヘルメットを被るなど、緊張しながら走る用意をしていると、後輩Eが他のバイクと接触してしまったようで、緊急でピットに入ってきた。
特にダメージはなく、計測機器が外れかかっていたので、ガムテープで補修し、すぐにスタート。バタバタと慌ただしく交代したので、あまり緊張することなくコースインすることができた。

(*イラスト:モタツーさん 【イラストAC】)
最初の1、2周は転倒しないように押さえて、その後はペースを上げて・・・。色々と考えていたが、走っているとあまり先のことを考える余裕がない。次から次へと目の前に迫ってくるコーナーを必死になってこなしていくという感じだ。
バイクの場合、頭をヘルメットで完全に覆うので、外界と遮断されているような感覚になる。一人でツーリングしている時に、孤独だな・・・と感じることがあるが、レースでもやはり同じこと。自分の息遣いを感じながら淡々とコーナーをこなしていくといった感じ。
代り映えのしないコースをグルグルと回り続けるので、ツーリング以上に孤独とか、淡々としたという表現がふさわしい。

最初は集中して走っていたが、15分くらい経つと集中力が落ちてきた。手や足に痛みを感じてきて、走りにくい。今何位だろう。自分が走ってから順位はどれくらい下がったのだろう。手が痛い。そのうち握力がなくなり、ブレーキを失敗してしまわないだろうか・・・。コーナーに集中しないといけないのに、段々と気が散っていく。
練習走行の時と今日のレースの違いは、順位があること。時間の長い耐久レースだし、マシン差、ライダーの実力差が大きいので、同一周回で走っているチームは少ない。なので、速い上位チームには何度も抜かれていくし、遅いチームは私でも追い抜ける。
2周に一回、抜いたり、抜かれたりするが、実際に自分の順位が変わることはほとんどない。でも抜かれると、順位が下がったのだろうか・・・と、すごく気になる。
このへんは走り慣れてくれば気にならなくなるのだろうが、まだ最初のレース。抜かれてばかりいると、「また抜かれた・・・」と気が動転・・・とまではいかないが、少々焦りが生じてくる。

(*イラスト:モタツーさん 【イラストAC】)
もう抜かれたくない。もっと早く走りたい。頑張って順位を上げてやる。気の焦りから集中力がなくなり、操作が散漫になったところで、コーナーリング中にグリップを失って転倒。そのままコースオフしてしまった。
滑るように転んだので、怪我はなく、バイクも大きな損傷はなかった。ただレギュレーションで、転倒やコースオフした場合は自力でコースに戻ることが禁止されている。コースに砂が入るのを防ぐためだ。
ではどうするかというと、オフィシャルの作業車が来るまで待って、その作業車にバイクごが載せられてピットまで運ばれることになる。このロス時間が大きく、確実に10周以上の周回数を失ってしまうことになる。
この私の転倒が一番響いたのだが、他のメンバーのペナルティー、ピットストップでの不手際などがあり、今回のリザルトは24台中、21位。またしても惨敗といった結果になってしまった。

この秋には6時間耐久というメインイベントがある。チームとしてそれに焦点を合わせているので、今回の転倒やペナルティーはいい経験となったと前向きに考えよう。
それに新しいライダーが乗ったことで、ライダー層が厚くなったし、新たなバイクの問題点も発見できた。結果は悪かったが、未来につながるレースになった・・・と頭の中で理解しているが、やっぱり転倒したのが悔しいし、後に走るライダーに迷惑をかけてしまったので、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。何より自分が出場して、順位が悪いというのが腹立たしく、なかなか割り切って考えられない。
「参加することに意義がある」と、世間ではよく言う。今回はサンデーレースながらバイクのレースに参加でき、とても貴重な経験ができた。友人たちとの親睦も深まり・・・と定型文が続くのだが、モータースポーツに限って言うなら、この言葉はあまり当てはまらないと思う。

(*イラスト:ちょこぴよさん 【イラストAC】)
成績がよくなければ、参加しても悔しいだけ。そういった負けず嫌いな人間じゃないと、危険が伴うサーキット活動をしないし、それなりの金額をかけてわざわざレースに参加したりもしない。
逆にそういった熱い部分をもっていなければ、レース活動をしても面白くないはずだ。それがサーキットの理ってなもの。なので、この悔しさをバネにして次回は・・・。って、また走ることがあるのか、俺。
世田谷編 2005年(4/8) 2005年(5/8)につづく