旅人が歩けばわんにゃんに出会う
国内編 岩手県
岩手県で出会った猫などの写真を紹介しています。
1、水車とにゃんこ(遠野市土淵町 2002年8月)
岩手県の山間部に遠野という町がある。これぞ日本の田舎とか、ザ・農村といった日本の原風景が残る地域で、古くからの伝承が多く残っていることで知られている。
遠野地域の伝承をまとめたのは、民俗学の第一人者、柳田国男。その著書「遠野物語」といえば、民俗学や伝承などに興味がある人で知らない人はいないというぐらい知られている。
遠野物語では、昔話らしく山姥、カッパ、座敷童などといった妖怪が登場したり、動物が擬人化されて登場する。そして、神隠しなどといった実際にあってもおかしくないような不思議な体験や、土着的な信仰が描かれている。
簡潔に遠野物語を解釈するなら、日本で古来からある自然界への畏敬や信仰に根付いた昔話の基礎的な存在となるだろう。
昔話の世界観が残っている遠野では、幾つかの象徴的な場所がある。その一つが山口の水車。昔の水車と水車小屋が保存されている。
水車は昔の農村風景に欠かせない。このような農村の原風景が多く残っているのが遠野なので、昔話の情景を求めて訪れる人も多い。
とはいえ、都会から訪れる人には、水車を含め農村風景が素朴だったり、珍しい風景と感じるだろうが、農村部に暮らしている人には、そこまで面白味のある風景だと感じないんじゃないかな・・・と、思ってしまう。
山口の水車を訪れたときのこと、水車のすぐ近くで可愛い猫が出迎えてくれた。人懐っこい猫で、水車の向かいにあるお宅で世話をしているようだった。
猫と水車。水車の前を歩いてくれたりすると、昔話とか、日本の農村といった情景になって素敵だが、出会ったばかりの猫がそう都合よく動いてくれたりはしない。岩の上がお気に入りのようで、ここから動きそうになかった。
童謡に「犬は喜び庭かけまわり 猫はこたつで丸くなる」とあり、猫は寒さにもの凄く弱いイメージがある。
この地域は冬になると雪が多く、気温も低い。この地で、猫はちゃんと暮らせるのだろうか。この猫のように人に面倒を見てもらっている猫はまだいいが、野良猫はちゃんと冬を越せるのだろうか。環境に合わせ、寒さに強い個体ばかりが生き残っているのだろうか。色々と気になってしまう。
この水車があるのは土淵山口集落。この地域では屋根の上に更に小さな屋根がのっかっているような特徴的な建物を多く目にする。これは遠野だけではなく、おそらく岩手県の多くの地域で建てられている。
こういった建物のことを、岩手ではマンサード屋根とか、マンサード小屋と呼んでいるそうだ。なぜ岩手県で流行っているのかはわからないが、下部は牛舎だったり、メインの作業スペースになっていて、上部の屋根は簡単な作業部屋とか、物置部屋になっている。日当たりがいいので、乾燥部屋として使用される場合もあるようだ。
建物の仕組みや構造から考えると、もともとこの地にあった大がかりな合掌造りの建物の簡易版といった感じになるだろうか。
道路のすぐそばにマンサード屋根の牛舎が建っているので、ちょっとかがんで中を覗いてみると、内部の様子や飼育されている牛たちの様子を伺うことができたりする。
この建物では一階部分は小規模な牛舎となっていた。驚いたのが、昔ながらにほぼ木製だということ。太い木材を使った梁などを見ると、大きな蔵といった感じ。
このような木製の牛舎だと、家畜も家族の一員といったような温かみを感じていいものだ。実際、牛にはちゃんと名が付けられていて、手前の牛は「やすこ」と、人間と同じ素敵な名が付けられていた。きっと子供のようにかわいがってもらっているのだろう。
二階部分はどのように使用しているのか。一階で家畜を飼う場合は干し草とか保管しているのだろうか。興味が湧いてくるが、外からはわからなかった。
のどかな風景のなかに珍しいものを発見。タバコの葉を干している農家があった。この地ではタバコの葉も栽培しているようだ。
天気などによっては、マンサード屋根で乾燥させたり、葉の選別を行ったりするのだろうか。興味が尽きない。
遠野にはカッパ淵という場所がある。常堅寺裏を流れる小川の淵にはカッパが多く住んでいて、人々を驚かし、いたずらをしたそうだ。
そのカッパ淵の近くにある常堅寺には人面犬ならず、カッパの顔をした狛犬がいる。多くの伝承が残る遠野らしい狛犬だ。ユニークとみるか、妖怪みたいで不気味と感じるかは人それぞれだろう。
遠野では猫やら牛、そして素敵な農村風景、更にはカッパの狛犬と、素敵な出会いが多くあった。出会う事はなかったが、所々にクマ出没や注意を喚起する看板が置いてあった。この地では運が悪ければ熊にも出会えてしまうようだ。
散策していると、時々犬や猫に出会う。時としてシカやイノシシ、タヌキなどの野生動物に出会う事もある。偶然の出会いはなかなか楽しいものだし、ちょっとしたハプニングとしていい思い出になることもある。しかし、熊だけには出会いたくないものだ。とっさに対処できる自信がない・・・。
2、山猫軒 (岩手県花巻市 2002年8月)
花巻出身の童話作家、宮沢賢治はご存知だろうか。名前は知らなくても、「セロ弾きのゴーシュ」「注文の多い料理店」「銀河鉄道の夜」「風の又三郎」などといった代表作は、耳にしたことがあるのではなかろうか。
彼が暮らした花巻には、宮沢賢治記念館、宮沢賢治イーハトーブ館、宮沢賢治童話村といった宮沢賢治に因んだ施設が多くあり、彼の作品や当時の生活ぶり、また童話の世界観を感じることができる。
また、作品のモデルになったスポットには、作品の名や作中の呼称が付けられていたりと、彼とその作品が地域で愛されているというのがよくわかる。
宮沢賢治の作品では多くの動物や植物が、擬人化されて登場している。このことは同じ県内、比較的近くにある遠野に残っている伝承、遠野物語にも通じるものがある。
日常的な感覚で日本古来からの自然界への畏敬とか、信仰に基づいた世界観を具現化したのだろうが、そういったファンタジー色を感じる土地を歩くと、人以外に物に出会えるのではないかといった期待感が膨らみ、歩く足取りも軽くなる。
花巻にある宮沢賢治所縁の施設の中で、私的に一番面白かったのが、宮沢賢治記念館にある山猫軒というレストラン。これは注文の多い料理店に出てくるレストランをモデルにしたもの。
注文の多い料理店は有名な話なので、多くの人が話のあらすじを知っているとは思うが、少しだけ書くと、二人の男性のハンターが山の中で小ぎれいなレストランを見つけ、お腹もすいたことだしと訪れてみると、服を脱げとか、体を洗えとか、あれこれと張り紙で注文を受ける。
怪訝に思いながらも、ここは格式の高い店で、客への要望がうるさいのだろう。きっと素晴らしい料理が出てくるに違いない。と、不快に感じながらも指示し従っていたが、なんと自分たちが料理される側、いわゆる食材で、下ごしらえをさせられていると気が付き、慌てて退散するといった話になる。
実際の山猫軒では、あれこれと要求を突きつけられたり、食べられそうになったりすることはないが、そういった世界観を持ちながら訪れると、気分的に楽しいし、食事もおいしく感じる。
何より山猫軒というだけあって猫をテーマにした展示が多いので、猫が好きな人はさらに楽しめることだろう。
宮沢賢治の作品には、よく猫が出てくる。アニメ化された銀河鉄道の夜でも、猫が主人公となっていたので、宮沢賢治といえば猫といったイメージを持つ人も多いかと思う。
なぜ猫の登場が多いのか。色々な人が論じているが、あまりはっきりとしていないようである。ただ、猫などの動物が主人公になることで、人間が主人公よりも刺々しさがなく、風刺も読みやすくなるといったメリットがある。いじめを描いた「猫の事務所」がそうである。
文学と猫。夏目漱石の「吾輩は猫である」を筆頭に、多くの作品に猫が登場している。猫の役割も様々。エドガー・アラン・ポーの「黒猫」のように、猫のミステリアスな部分から推理小説にもよく出てきたりもする。
気まぐれな性質を持つ猫というのは、不確定要素満載な存在。文学と、いや、もっと広く、想像力のある芸術関係と、色々と通じるものがあるのだろう。などと、気まぐれな旅人がもっともらしく推測してみる。
ちなみに、文学と猫を感じられる町といえば、尾道が頭に浮かぶ人も多いと思う。尾道が猫の町として注目されるようになったのは、実は宮沢賢治やここ花巻に関係があったりする。
芸術家の園山春二氏。彼は宮沢賢治と縁があり、宮沢賢治が理想としていたイーハトーヴ(理想郷)を尾道の崖地に創った。猫の細道と呼ばれている一帯である。
このプロジェクトは世間の関心を集め、元々野良猫が多い土地だったこともあり、世間に尾道が猫の町として知られるようになっていった。
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