旅人が歩けばわんにゃんに出会う
国内編 島根県
島根県で出会った猫の写真を載せています。
1、墨付け祭りとにゃんこ(松江市美保関町片江 2017年1月)
宍道湖や中海、出雲大社がある島根半島。この半島は、神様が陸地を沖の方へ引っ張って造ったという凄い歴史を持っている。って、そんな突拍子もない話を信じるのは、島根県人だけだろう。この話は、いわゆる国引き神話というやつになり、出雲風土記に記載されている。
半島の生成の真実はさておき、島根半島の西の端に出雲大社があり、半島の西端には国引き神話ゆかり稲佐の浜や、出雲神話ゆかりの日御碕神社や日御碕灯台がある。反対側の東端に位置しているのが、美保関。ここにも由緒ある美保神社がある。
この他にも半島には由緒のある神社が多くあり、古来からの個性的な祭りや、伝統芸能も多く受け継がれている。神話の舞台となったことにふさわしい土地柄と言える。
その島根半島の東部、美保関町の日本海に面したところに片江漁港がある。小さな集落ではあるが、毎年1月の初旬の日曜日に墨付けとんど祭りが盛大に行われている。
このとんど祭りでは、無病息災の願いが込められた巨大なトンドが作られる。そのとんどを祝うように威勢のいい神輿が町内を練り歩き、その神輿とともに地区の女性たちが、神輿を出迎える人など顔に墨を塗りつけていく。
なぜ墨を付けるのか。この墨をつけられると、この1年間は風邪をひかず、海難にも遭わないと言われているから。で、神輿が町内を一周すると、集落のみんな顔が真っ黒になるといった面白い祭りになる。
港の祭りらしく、クライマックスは大勢の観客に見守られながら神輿が海へ入っていく。真冬の日本海は寒いが、担ぎ手たちの熱気が勝る。なんでも海に入って気合を入れないと、一年が始まらないんだとか。海の男らしい・・・。
とても楽しい祭りなので、県内外から見物に訪れる人も多い。当然、そういった人たちも顔が真っ黒。楽しく福をもらって帰ることができる。ただ、忘れずに墨を落として帰らないと、途中で道の駅やスーパーなどに寄った時に凄まじい視線を浴び、赤面することになるだろう。
私的にお勧めなのは、振舞いの味噌汁(豚汁)。薄いと感じる人もいるかもしれないが、これぞ松江の味。京風の上品さがあって、とてもおいしい。
出雲・松江地域は少々特殊で、東方弁のような出雲弁を使い、西日本にあって蕎麦が有名だったり、みそ汁の出汁が京風だったりと、文化に飛び地性を感じることが多々ある。
さて、祭りの合間に小雨が降る片江の集落を散策していると、路地の奥に猫らしき動物がいるのを発見。お寺らしき門のところにたたずんでいる。これは行ってみなければ・・・。
ゆっくりと近づいていく。やっぱり猫だ。雨のかからない門の下で雨宿りしているのだろう。驚かせないように慎重に路地を進んでいった。
門の近くまで行くと、猫はこちらの存在に気が付いた。反射的に逃げないところをみると、人間には慣れていそうだ。
とはいえ、いつも出会う人とは違った雰囲気を感じるのか、にゃんこはひどく戸惑った様子。固まった状態で、私の様子を伺いながら一生懸命思考していた。さあ、にゃんこ。集落外の人間にはどう反応する。
どうもいつも見慣れている人間とは雰囲気が違うぞ。さては他所者だな。よそ者は好かん。いつでも逃げれるようにしておこう。そんな感じなのだろう。敷居から降り、門の中から少し硬い表情でこちらを伺い始めた。
これ以上近づくと逃げてしまうかもしれない。ちょっと離れて写真を撮ることにした。警戒心からか、まるで緊張し、ガチガチになって証明写真を撮っている学生のよう・・・。
それよりも、頭髪に目がいってしまう。なかなかユニークな頭髪をした猫だ。まるでモヒカンのような髪型・・・。いや、今日は墨付け祭りの日。墨のついた手で頭をなでられてしまったのかな。その方が話のネタになりそうだ。
2、黒丸印のにゃんこ(松江市美保関町笠浦 2017年1月)
島根半島の片江で行われた墨付けとんど祭りを訪れた前日、同じく半島東部の笠浦で行われた龍神祭も訪れていた。
笠浦も片江と同様に日本海に面した小さな漁港で、赤い石州瓦の日本家屋が建ち並ぶ様子が美しい。
笠浦の龍神祭は、毎年1月7日に行われる行事で、お七日さんとも呼ばれている。祭りのシンボルとなるのは、藁と糸と竹釘だけで作った長さ1m60㎝ほどの藁船、龍神丸。
この藁船に海神や船神の幟を立て、船内に供養物の白米、神酒、みかん、そして、すりこ木のような棒(手名槌、足名槌)が入れられる。
神事、直会を行った後、龍神丸を担いで町内を練り歩いていく。先払いを先頭として、龍神丸の神輿と足名椎・手名椎の役が続き、後ろは婦人がお供えなどを持って歩く。
足名椎(あしなづち)・手名椎(てなづち)は、日本神話のヤマタノオロチ退治の説話に登場する老夫婦で、稲田姫(クシナダヒメ)の親になる。
神輿が町内を巡行している途中、手名椎、足名椎の役は男性器を模した「しゃくとり」と呼ばれる木の棒を持ち、子孫繁栄を願うコミカルな踊りを行ったり、若い女性を見ると、その棒を構え、逃げ回る女性達たちを追いかけたりする。
この男形の棒に触られると、子宝に恵まれるとされているが、現在では立派なセクハラ罪になりそうである。とはいえ、少子高齢化、過疎化の波には逆らえず、そもそもとして若い女性がいない・・・。というのが、現実のようである。
地区内を一周回ると、港に戻り、龍神丸は船に乗せられる。地域の人々が見守る中、船は笠浦の湾内を数周し、港内の中央付近で龍神様の許までたどり着きますようにと祝詞を奏上し、龍神丸を海に浮かべる。
龍神丸は波にのって湾外へ流されていく。その様子を見送ると、海上安全と豊漁祈願の神事は終了。最後は餅撒きではなく、ミカン撒きが行われてお開きとなる。
龍神祭が始まる前、集落にある日御碕神社へ向かって歩いていると、神社へ曲がる角でにゃんこに遭遇した。
私的には、他の地域から来た人に「神社はここを曲がった奥ですよ」と、案にゃいしているかのように見えたが、いつもは静かな集落が今日はなんかざわざわしているぞ。にゃんだろう。と、見晴らしのいい角で様子をうかがっていたというのが真実かもしれない。
それにしてもこのにゃんこ。顔に目立つ大きな黒丸がある。片江の墨付け祭だったら、顔に墨を塗られてしまった猫と解釈できるのだが、そうではない。これが地の模様なのだろう。
ユニークといえばユニークだし、愛嬌があるといえばそうだし・・・、個性的といえばそうだし・・・。ちょっと感想に困る。ほんと、どうしてこうなっちゃったんだろう・・・。世の中には色々な模様をした猫がいるものだ。
3、温泉津温泉のにゃんこたち(大田市温泉津 2023年1月)
左右に細長い島根県。その中央付近に大田市がある。普通の人は気にしないことだと思うが、島根から関東に引っ越すと、大山を「だいせん」と読むのか、「おおやま」と読むのか、漢字で大田市(島根県:おおだ)と書くのか、太田市(群馬県:おおた)なのかを、時々混同してしまったりする。
同じような思いをしている人はまれかもしれないが、点が入らないけど、「た」に濁点が付く島根の大田市といえば、なんといっても石見銀山。現在は閉山しているが、日本最大の銀山となり、2007年には世界遺産に指定された。
石見銀山は、戦国時代後期から江戸時代前期にかけて最盛期を迎え、その最盛期には世界の銀の数割を産出するほどだったとか。
銀の積み出しの港となったのが、温泉津。「おんせんつ」なんて読んでしまいそうだが、「ゆのつ」と読む。名の通り温泉街となっている。
温泉津温泉は、古い建物が並ぶ趣きのある温泉街で、「温泉津町温泉津伝統的建造物群保存地区」の名称で国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されていたり、世界遺産の「石見銀山遺跡とその文化的景観」にも組み込まれている。
さぞすごい温泉街なんだろう。世界遺産にもなっているし。そんな期待を込めて訪れると、ガッカリするかもしれない。温泉街につきものの歓楽街はなく、簡素で、湯治場といった雰囲気に近い。というより、非常に地味な温泉街で、あまり活気を感じない・・・。
温泉津温泉といえば、映画「男はつらいよ」の第13作目、「寅次郎恋やつれ(1974年)」の舞台として使われたことでも知られている。今も撮影当時のまま・・・というわけではないが、あまり変わっていないので、歩いているとそれに近い雰囲気を感じることができる。
作中に立派な登り窯が登場するが、それも実在している。この地ではかつて焼き物が盛んに行われ、温泉津焼が有名だったとか。
現在ある登り窯は2つ。どちらも江戸時代中期に造られた窯ではあるが、後年になって復元したものになる。窯の長さは20mで、内部は10段に分かれている。全国でも最大級になるそうだ。訪れると、その大きさや存在感に圧倒されることだろう。
隣接する温泉津やきものの里では、温泉津焼きの展示の他、土ひねりや絵付けなどの陶芸体験をすることもできる。
温泉津温泉を歩いていると、子供たちとにゃんこを発見。訪れたのは、元旦。歩いている様子から、地元の子供たちというよりは、帰省してきた子供たちのように感じる。
にゃんこは、普段見かけない子供たちの姿に不安を感じたのか、子供たちから逃げるように道路を疾走してきて、私の姿を見つけると、すぐに横の建物の陰に入ってしまった。
温泉津温泉の海側は漁港になっている。銀の積み出しに使っていたのはここではなく、500mほど離れた沖泊という小さな入り江になる。
その沖泊に向かう途中、漁港の横を通ると、猫がウロウロしているのを発見。ちょっと寄っていこう・・・。
私が近づくと、茂みに入って、見かけない奴だにゃ。何者だろう。害をなすものなのか、そうでないのかを伺っていた。
こっちには黒猫が二匹。のんびりとした土地柄。猫がたくさんいるようだ。
黒猫たちの方へ少し近づいてみる。人に慣れているようで、警戒する仕草はするものの、逃げ出したりはせず、私の様子をうかがっていた。
黒猫が二匹並んでこちらを見つめてくる様子は、なかなか威圧感がある。目付きが鋭く感じるからだろうか。なかなか顔立ちが凛々しい猫たちだ。
しゃがんで二匹の黒猫たちの写真を撮っていたら、私たちの写真も撮ってくれよ!といった感じで、最初の猫たちが尻尾を立てながら寄ってきた。
こいつは悪いやつではなさそうだ。遊んでくれにゃいかな。いや、何かおやつをちょうだい。といったところだろうか。
こっちの猫の方は顔つきが丸っこく、愛嬌があるというか、二匹の黒猫に比べてしまうと、すこし抜けた印象を受ける。まだ幼いからだろうか。何にしても尻尾を立てながら寄ってこられると、歓迎されているようでうれしい。
頭をなでてやると、身体を擦り寄せながら喜んでくれるのだが、その様子を見ていた二匹の黒猫のうちの一匹がこっちにやって来て、何やらただならぬ雰囲気となった。
ここは俺らの場所だ。立ち去れ。というような縄張り争いになるのか。二匹でいちゃいちゃするな。といった恋のもつれなのだろうか。いまいちよくわからない。
様子をうかがっていると、何やら説教モードになってしまった。凛々しい黒猫が親で、幼く見える猫たちはその子供みたい。
で、「あなたたち。あれほど教えたでしょ。むやみやたらと人間に近づいてはいけません。特にあのようなおっさんには近づかないのよ。誘拐されたり、全裸の写真を世界中に拡散されてしまうよ。気を付けなさい。」などと、言っていそう・・・。
近年、カメラを提げたおっさんは肩身が狭いからな・・・。そんな状況が違和感なく頭の中で再現できてしまう・・・。
国内編 島根県