極寒のモスクワ散策記1997 ~風の旅人旅行記集~
極寒のモスクワ散策記97'

#1 モスクワでのトランジット

<1997年12月3日(水)>

1997年12月、飛行機の乗り継ぎを利用して、極寒のモスクワ市内を半日ほど散策した時の旅行記です。(*全12ページ)

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1、モロッコへの旅

飛行機の着陸のイメージ(*イラスト:イラストスターさん)

(*イラスト:イラストスターさん 【イラストAC】

私の乗っている飛行機は、間もなくロシアの首都モスクワにあるシェレメーチエヴォ国際空港(シェレメチェボ)に到着しようとしていた。徐々に高度が下がっていく感触を体で感じながら、着陸の時を待った。

今回の旅の出発は、1997年の11月。海外旅行に出るのには微妙な季節になるのだが、大学4年生だった私は、色々と感傷的に思うところがあり、また時間も融通が利いたので、勢いで旅立ってしまった。

旅の目的地はここモスクワ・・・、ではなく、北アフリカのモロッコ。モロッコはアフリカ大陸の北側、ちょうど地中海の出口に位置していて、スペインとジブラルタル海峡を挟んでいる。

地理院の地図

国土地理院地図を書き込んで使用

なぜモロッコを旅しようと思ったのか。実は深い理由はなく、一年遅れでルパン三世のTVスペシャル第8作「トワイライト☆ジェミニの秘密」をレンタルショップで借りてきたら、作品の舞台がモロッコで、見終わった後、無性にモロッコへ行きたくなっていた。ほんと、それがキッカケだった。

ちなみに、私がこんなにも旅好きなのは、アニメのルパン三世の影響・・・というのは、ちょっと言い過ぎだが、世界各国でルパン一行が活躍するTVアニメシリーズは好きで、いつかはルパンのように世界中を旅してみたい。大人になったら世界一周をするぞ。と、夢に描くキッカケになったのは、確かである。

地球の歩き方モロッコの写真
モロッコのガイドブックの写真
地球の歩き方モロッコ

話を戻すと、アニメでは、モロッコはなかなかエキゾチックで、面白そうな国に思えたが、あくまでもそれはアニメの中での話。

実際はどんな国だろう。旅はしやすいのだろうか。あまり馴染みのない国なので、色々と頭に思い描いてみるものの、よくわからない。

一般的には、イスラム教の国で、結構イスラム色が強い国と言われている。やっぱり色々と行動に制約が多いのだろうか。言葉とか、食べ物とかはどうなのだろう。もちろん治安面も心配だ。

翌日、本屋に行き、高ぶる気持ちを押さえながらモロッコのガイドブックを立ち読みした。この時代はインターネットという便利なものがないので、本屋での立ち読みが一番手っ取り早い情報収集の手段だった。今振り返れば、図書館は「知の殿堂」、本屋は「知の泉」といった感じになるだろうか。

モロッコの宮殿の写真
宮殿
モロッコのオアシスの写真
オアシス

ガイドブックを読むと、モロッコは日本人にはあまり馴染みがなく、未知の国といった印象になるのだが、ヨーロッパの人からすると、地中海を挟んで手軽に行ける異文化、イスラム教の国ということで、それなりに人気の観光地となっているようだ。

その為、ヨーロッパからの観光客がとても多く、イスラムの国でありながら比較的観光客に開かれていて、異なる宗教の人間でも旅もしやすいとのことだった。以前訪れたことのあるエジプトと似た感じになるだろうか。

国土は、地中海沿いにはヨーロッパ的な港町やリゾート地があり、内陸部には砂漠やオアシスがある。そして、その間を立派なアトラス山脈が隔てているといった、実に多様な地形や気候を有している。地理的にもなかなか面白い国だ。

モロッコのカスバの写真
モロッコのカスバ

モロッコらしい部分でいうなら、土壁の伝統的な建築物のカスバがあったり、町並みや市場などでの混沌とした情緒が楽しそうだ。

それに名作映画の「カサブランカ」とか、「カスバの女」などの舞台でもあり、エキゾチックなところも、今の心境的にふさわしい。

そもそも感傷的な理由で旅立つ時は、目的地はどこだっていいものだ。じっくりと真剣に考えるようなものではなく、今すぐそこへ行ってみたいと思うインスピレーション(直感)が全て。

あとは、気が変わらないうちに思い切って旅に出るだけ。こういった思い付きの旅は、行きたいと思う情熱があっという間に冷めてしまうもの。鉄は熱いうちに叩けというのと同じで、すぐに行動に移ることが大事だ。

シェレメチェボ空港のアエロフロートの写真
アエロフロート(ロシア航空)
エンジンが後ろにある飛行機 アエロフロートの写真
エンジンが後ろにある飛行機

早速、格安航空情報誌「AB-ROAD」でモロッコまでの安いフライトチケットを探してみると、断トツで安かったのがアエロフロート(ロシア航空)だった。

シーズンオフだったので、全般的に航空料金は他の時期に比べて安かったが、他に運行しているのはヨーロッパ系の航空会社ばかり。そのためアエロフロートの安さが際立っていた。

モロッコから遠く離れたモスクワ経由でもいいか・・・。ロシアは政情が不安定で、政治的にもあまり印象がよくないけど、トランジット(乗り継ぎ)ならそういったことはあまり関係ない。やっぱり安いが一番。と、アエロフロートで行くことに決め、すぐに馴染みの代理店に向かい、航空券の手配をしてもらった。

2、モスクワでのトランジット

モスクワーモロッコの飛行機 アエロフロートの写真 
モスクワ-モロッコ間の飛行機

そのモロッコへの旅を終え、後はこの飛行機がモスクワに到着したら、日本行きの飛行機に乗り換えるだけ。

もう旅が終わるところなので、本来なら何もドラマチックなことが起きる場面ではないのだが、困ったことに、このモスクワ経由のフライトは、乗り継ぎ時間がとても長い。

往路の場合は、夜、モスクワに着いて、出発が朝だった。乗り継ぎ時間は約12時間。乗り継ぎ客にはトランジットホテルを用意してくれる航空会社もあるが、アエロフロートでは用意されていない。泊まりたかったら、自前で空港内のホテルへどうぞってなものだ。

だから安いと言えばそうなのだが、空港内にあるトランジットホテルに泊まってしまうと、安いというメリットが薄まるだけではなく、乗り継ぎには時間がかかるし、週2便しか飛んでいないので、スケジュール的にも融通がきかないしと、デメリット方が大きくなってしまう。

トランジットのイメージ(*写真:なのなのなさん)

(*写真:なのなのなさん 【写真AC】

「ホテルに泊まってはアエロフロートに乗った意味がなくなるぞ!」と、往路は空港内で過ごすことにしたのだが・・・、実際にやってみようとすると、連れでもいればまだしも、一人でやるのはなかなか心細い。

旅初めの不安に、まだ手元にたっぷりとある旅費。やっぱりホテルに泊まってしまおうかな・・・という強烈な誘惑に惑わされながらも、覚悟を決めることにした。

寝る場所を探して空港内をウロチョロすると、2階に上がった奥のスペースは人通りが少なく、邪魔にならなそうだ。ここには先客が10人ぐらいいて、もう既に横になって寝ていた。

どこ国の誰とも知らない人たちだけど、仲間がいるのは心強い。旅は道連れってなもので、ご一緒させてもらおう。と、私も持参した寝袋や、空港のパンフレットなどを床の空いたスペースに敷き、横になった。しかしだな・・・。これって、モスクワ空港でホームレス体験ってやつでは・・・!?

野宿のイメージ(*イラスト:なのなのなさん)

(*イラスト:なのなのなさん 【イラストAC】

覚悟を決めて横になったものの、普段からこんな場所でいきなりぐっすり寝られるほど、逞しい生活をしているわけではないので、なかなか寝付けない。荷物の盗難も心配だ。何度も目覚め、そしてウトウトすることの繰り返しだった。

何とか無事に朝を迎えてみると、当然というか、睡眠不足。そして、床の上で寝たので、体の節々が痛い。覚悟はしていたものの、あまり楽しくない一夜を過ごすことになってしまった。

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復路は往路以上に乗り継ぎ時間が長く、14時間もある。そのうえ、到着が朝5時過ぎで、出発が19時と、昼間の時間に待たなければならない。なので、往路のように隅っこで寝ているわけにはいかない。

14時間も空港のベンチでただ座って過ごすというのは、とんでもなく退屈だ。狭い空港内をウロウロと散策したとしても、すぐに飽きてしまうだろうし、退屈しのぎに日記でも書いたとしても、2時間が限界だろう。

その退屈を回避できるかもしれない方法があった。ガイドブックには、空港内のビザオフィスでトランジットビザを取得できると書いてある。

社会主義のロシアなので、この方法は確実ではないようだが、世界最強と言われる日本のパスポートだし、トランジットを証明できる航空券もきちんとあるので、きっと大丈夫のはず。

日本のパスポートのイメージ(*イラスト:imacveryさん)

(*イラスト:imacveryさん 【イラストAC】

ロシアはビザの取得が厄介で、なかなか気軽に訪れることができない。この機会にロシアに入国したい。モスクワの町を見てみたい。そう思うのは旅人として自然な成り行きだ。

アエロフロートは値段が安いのも魅力だったが、赤の帝国と恐れられた旧ソビエトの首都モスクワに、ちょこっと途中下車ができるかもしれないという部分も魅力を感じていた。

もちろん日本で事前にビザを取得しておくことが一番確実で、安心な方法となる。もし時間があったのなら、東京タワーのすぐ近くにある六本木の領事館を訪れ、ビザの取得を試みただろう。そしてモスクワに一泊するという旅程を組み直したかもしれない。

しかし、ロシアのビザは取得に最低一週間はかかるので、ふと思い立って旅立ちを決めてしまった今回は、出発までに間に合わなかった。

きっと何とかなるだろう。トランジットを証明できる航空券があるし、半日立ち寄るだけだし・・・。まあ、もし取得できなかったとしても、最大14時間の退屈に耐えるだけだ・・・。と、空港でビザが取得できることにかけることにした。

3、早朝の到着

やがて「ドスっ」と軽い衝撃があり、飛行機は無事にモスクワの空の玄関、シェレメーチエヴォ空港に着陸した。

窓の外はまだ暗闇が支配していたが、照明に照らされた滑走路の脇には、雪がしっかりと積もっていた。

さすが北国のモスクワ。比較的暖かかったモロッコからやって来たので、窓一枚隔てた向こう側は、想像もつかない極寒の世界に感じる。

モスクワ シェレメチェボ空港の写真
モスクワの空の玄関
シェレメーチエヴォ空港(2001年訪問時)

時計を見ると午前5時過ぎ。律儀なことに定刻の到着だった。まだ大半の人が寝ているような時間なので、こんな時間に到着してもすることがない。

とはいえ、いつまでも飛行機の中に居られるわけではない。大半の乗客が席を立った後、ゆっくりと座席を立ち、飛行機から降りた。

飛行機から空港の建物に入ると、「トランジット(乗り継ぎ)」と書かれた案内板に従って進み、簡易チェック所でパスポートや航空券のチェックを受け、免税店などがある出発ロビーに入った。1ヶ月前に一晩明かした場所なので、少し懐かしく感じる。

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まずはビザを取得しよう。ビザを発給してくれるイミグレーションのオフィスを探してみると、奥の方にイミグレーションオフィスと書かれた扉があった。

ありきたりな感じの扉で、恐らく中は普通の部屋になっていそう。もっと大きな窓口というか、入りやすいオフィスのような受付を想像していたので、ちょっと戸惑う。

それよりも問題なのは、ドアがびっちりと閉まっていること。勝手に開けていいのだろうか。というより、どうも営業していない雰囲気。24時間営業ではないんだな・・・。普通に考えたら午前5時半では開いているわけないか・・・。

開けにくいドアのイメージ(*イラスト:acworksさん)

(*イラスト:acworksさん 【イラストAC】

それにしてもなんだか開けにくい雰囲気のドアだな。一応ノックしてみるか。いやいや。ドアを叩いたりしたら「うるせ~何時だと思っているんだ!」なんて怒鳴られ、ビザが発行されなくなってしまうなんて事にならないだろうか・・・。

仮に営業しているとしても、こんな早朝にビザをもらっても外でする事がない。・・・。ビザの係りの人はいない事にしよう・・・。面倒なことは後回しだ。隅っこの椅子で横になり、少し時間を潰すことにした。

極寒のモスクワ散策記97'
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