佐渡島一周ツーリング記
#16 トキに会いに行く
2003年8月、友人と2人、1泊2日の行程で佐渡島一周を試みた時の旅行記です。(全17ページ)
26、トキに会いに行く
第一目標であった佐渡島一周を無事に完了した。これにて佐渡での旅行は一応完了となる。ただ、味噌工場からはたいして観光をしていないので、予定していたよりも早くゴールしてしまった。
さてどうするか。フェリーの出発までまだ2時間以上ある。予め時間に余裕を持たせていたので、それなりに時間が余っている。
もう旅行は終わったと、このままフェリーターミナルに向かい、ダラダラと過ごすというのは時間の無駄遣いというもの。2時間もあるのなら、佐渡でしかできないことをした方がいい。恐らくもう来ることはないだろうし・・・。
佐渡のイメージといえば、金山。そして、トキだよな。純国産のトキは絶滅が確定したらしいけど、トキに会いに行ってみよう。それがいい。たらい舟に乗れなかったので、トキに会うことを繰り上げて第三目標にしよう。
ちょうどいい目的地が見つかった。友人も喜んで賛成するだろう。ということで、友人に意気揚々と「佐渡といえばトキだよ。トキ保護センターで中国産のトキが見られるみたいだから、トキを見に行こう。」と提案してみるのだが、「日本のトキはもう絶滅したんでしょ。俺は興味がない。別の場所へ行きたい。」と、即拒絶。
「せっかくだから見に行こうよ・・・。佐渡まで来たんだぞ。」と、もう一度勧誘してみるものの、微塵も心が揺らぐ様子はない。言葉通り、全く興味がないようだ。
たらい舟の時もそうだったが、彼はなかなか頑固な性格をしている。これは説得するのは無理だな。それに無理に一緒に行ってつまらなそうにされても気まずい。
だったら、ここからは別々の道を歩もう。それがお互いのためというもの。君とは方向性が違う。君と一緒に旅をしていては私の旅がブレてしまい、世界一の旅人になる夢が叶わない。ここでツーリングコンビは解散だ!
というような音楽バンドみたいなことをしてもしょうがない。旅は自由だ。それぞれ自主的にやりたいことがあれば、それをやればいい。その方が思い出に残るというものだ。ということで、船の出発前の昼まで自由時間にして、それぞれ行きたい場所に行くことにした。
友人と別れ、トキ保護センターに向かった。急に一人になってみると、寂しさとか、何か物足りさを感じるが、どちらかというと友人に気を使わずに行動ができ、開放的で身軽になったといった気分の方が強い。ユーラシア大陸を一人で横断してきた旅人としては、一人で行動する方が気楽で、落ち着くのかもしれない。
順調にバイクを走らせ、トキ保護センターに到着。到着してみると、想像していたよりも立派な施設で、駐車場も広かった。しかし、広い駐車場には車が2台しか止まっていないといった閑散ぶり。あまり流行っていないようだ。友人が来たがらなかったのもわかる気がする。
まずはトキの資料館に入ってみた。トキの生態とか、ここでの飼育の歴史などが展示してあった。
しかし野生のトキが絶滅してしまった以上、もう過去の生き物といった扱い。現在の分布図を見ても、世界的にほぼ絶滅状態。過去にどこに生息していたといったような展示が多く、展示に力強さが感じられない。
(*2003年は純国産の最後のトキが死んだ年になり、日本国内に中国からのトキが10羽程度いるだけでした。人工ふ化、放鳥などもされていませんでした。)
保護センターの敷地には大きな鳥の檻がずらっと並んでいる。もう絶滅したので中は空っぽ・・・ではなく、今では中国から寄贈されたトキが飼育されている。
日本産でなければ、飼育しても意味がない。と、檻の中の鳥たちを見ながら思ってしまうのだが、実際のところは日本産も外国産も素人が見る分には見分けがつかなかったりする。そもそも鶏肉や海産物などでも、中国産を国内産と産地偽装して売られていても気が付かない人が多い・・・。
あまり気にすることではないのかな。まあ、同じトキには変わりがない。とりあえず生きたトキが見られたので、佐渡、そしてここに来たかいがあった。そう納得することにしよう。
とはいえ、檻の中に閉じ込められている鳥を見ても、あまりテンションが上がってこない。トキという以前に、捕まってしまった自由のない鳥に見えてしまう。
最近はペットでも珍しい種類とか、話題になるもの、そしてお金になる種類をどんどんと人間が繁殖させている。トキにしても同じこと。動物園に展示するような感じで増やす意味はあるのだろうか。
乱獲が原因の一端とはいえ、自然界に定着できずに滅んでいったものを、人工飼育で増やし、再び自然界に放ったとしてもまた同じことになるのでは・・・。人間が急激に少なくなっていけばまた別かもしれないけど・・・。多額の費用や労力をかけ、虚しい努力をしているようにも感じてしまう。
トキに会いに行くぞ!と、張り切ってトキ保護センターにやって来たものの、トキへの情熱は感じられたが、何かこう・・・、ときめく感じとか、夢やロマンといった類のものを感じることはなかった。それは、私の中でトキの明るい未来というものを想像できなかったからだろう。
27、桃太郎って感じの日吉神社
まだ時間が余っているので、トキ保護センターのほど近く、地元で山王さんと親しまれている日吉神社を訪れてみた。
日吉神社は地域の郷社になっていて、大きな境内を擁している。設置されている案内板によると、佐渡へ配流となった順徳上皇のために、1226年に近江の「日吉大社」を勧請したのが始まりになるそうだ。
境内に入ろうとすると、ん、なんか変だ・・・。狛犬が両方とも右を向いている。私もつられて右を向いてみたが、木が茂っているだけで特に何もない。右向けホイに引っかかってしまった気分。
この狛犬、尻尾がえらく豪勢なのも目を引く。まるで山盛りのごはん状態。きっと毎日油揚げなどをお供えしていれば、そのうち夢に出てきて、尻尾をブンと一振り。すると、尻尾から大判小判がザックザックってな展開になりそう。なかなか面白い狛犬だ。
この神社の特徴は犬よりも猿にあって、「見ざる・言わざる・聞かざる」で知られる三猿像がいたるところで見ることができる。しかも木製だったり、石像だったり、置いてある場所も鳥居だったり、拝殿だったり、参道だったりと、様々。
日吉神社の神使いが猿になるのだが、これだけ「神使いの猿」がいるのも珍しい。沢山いる猿の中でも一番立派なのは本殿の賽銭箱の上、頭貫上に座っている正装姿の三猿像となるようだ。
犬、猿ときたら、次はキジというのが、物語の流れ的にはふさわしい。しかし残念ながらここにはキジはいない。しかし、佐渡らしく拝殿に大きなトキの絵馬が奉納されていたりする。ってよく見ると、絵馬の形をしているけど、小さな絵馬を掛けるための絵馬掛けにもなっている。なかなか面白い。
桃太郎の物語のように、入るときに犬、境内で猿、そして建物の中でトキ(鳥)に出会え、思いのほか楽しめた神社だった。なんだか佐渡ヶ島に鬼退治に来たような気分で、神社を後にした。
#16 トキに会いに行く 「#17 さらば佐渡」につづく