#4 八丈島への船旅
1998年3月、学生生活の最後を締めくくる卒業旅行として、友人と3泊5日の行程で八丈島と三宅島を巡ってみました。(全17ページ)
4、八丈島への船旅
今回の卒業旅行は、八丈島や三宅島を訪れることを目的とし、友人との島での滞在や散策を楽しみにしているわけだが、島へ向かう道中の船旅もかなり楽しみにしていた。そう、船旅には冒険心をくすぐるような魅力がある。
日本は世界でも有数の島国で、全ての人がどこかしらの島に住んでいる。島をまたいで旅をしようとすると、船での移動が不可欠・・・と言いたいところだけど、それはずっと過去の話。
今では日本人の大部分が暮らす本州と、九州、四国、北海道との間には立派な連絡橋や海底トンネルが建造され、日本を構成する主要な4島間は船を使わずに移動することができる。
各地に空港ができ、飛行機の航路もどんどんと増えている。沖縄や離島にしても各所から飛行機でひとっ飛びで行けるようになった。おまけにそんなに料金が高いわけではない。
ほんと移動に関しては便利な世の中になったものだ。おかげで、島国に暮らしていながら船に乗って旅をする機会がほとんどなくなってしまった。
八丈島にも飛行機に乗れば短時間でスイッと行けてしまう。行けてしまうけど、せっかく船旅を行う数少ないチャンスを逃すのはもったいない。
旅は道連れ、世は情け。良き友は旅路を短くするとも言う。時間はかかってしまうが、船旅には船旅の良さや情緒がある。更に言うなら大海原に繰り出すといった男のロマンも感じられたりする。
それに船の中で語らいながら旅路の時間をつぶす。こういった学生らしい旅は今後できないかもしれない。そう考えると、船旅というのは卒業旅行にピッタリな移動手段に思える。
なによりも飛行機より大幅に運賃が安いというのは、理屈抜きに魅力的に感じる。色々と含めて飛行機の半値程度(*1998年時)と、お財布にやさしい。
飛行機だと高くて旅行に行けない。ってほど旅費に困っているわけではないが、飛行機よりも旅費が浮くと思うと、その分を他へ割り振り、せっかくだからあれをしよう。ちょっと贅沢をして・・・といったことがやりやすくなる。
とはいえ、値段が安いというのは紛れもない事実だが、実際のところは時間や体力はその分かかってしまうので、トータルでみたら本当にお得かどうかは分からない。
でも、旅費を節約しながら旅をすることは、例えるなら少し青臭い高校野球のようで、「俺たちお金を節約しながら旅をしています。」「節約して旅するほど旅好きです。」「一生懸命旅を頑張っています。」というような気分に浸れ、旅をしていて楽しく感じるのだ。
もちろん、そう感じるのは、時間に余裕があり、体力にも自身があるからこそ。こういった貧乏旅行を楽しめるのは、若者、とりわけ学生の特権というやつになるだろう。
それに移動を楽しむのが旅。移動にこだわりや時間をかけることで、旅への本気度や真実味が増すというもの。移動にどこまでこだわり、手間をかけられるか。やっぱりそこが旅を楽しむ核心なんじゃないかなと思う。
八丈島への船が出航しているのは、JR浜松町駅から少し歩いたところにある竹芝桟橋。ここからは伊豆大島や小笠原などへの船も出ている。
出航時間の1時間前に竹芝フェリーターミナルの入り口で友人と待ち合わせをした。時間に間に合わせて到着してみると、友人の方が先に来て待っていた。いつもの待ち合わせと同じ光景になる。
まずは乗船券を購入しておこう。ターミナルビルに入ってみると、ターミナル内は閑散としていて、まるで深夜の駅といった雰囲気だった。
フェリーを運航している東海汽船の窓口を訪れてみると、乗船券を求める人の列はなく、窓口の奥で係の人が暇そうにしていた。
多くの人が船の出発を待っている賑わいとか、これからの旅に興奮している人々の笑顔で溢れている。そういった旅らしい情景を期待していたのだが、全くと言っていいほどない。
高校時代の卒業旅行は、友人などと安いスキーツアーに参加した。集合場所は新宿駅前のバス乗り場で、訪れると多くの人でごった返し、これからの旅に胸をときめかす若者の活気と笑顔であふれていた。
そこまで賑やかではないにしても、それなりに長距離の航路だし、金曜日の夜の便だし、卒業旅行シーズンでもある。そういった光景がそれなりにあるだろう・・・と思い描いていたので、あまりのギャップに唖然としてしまった。
こんなに閑散としているとは思ってもいなかった・・・。あまりの閑散ぶりに少し旅心が萎えてくるが、もう旅は始まっている。四の五の言ってもしょうがない。乗客が少ないのなら、快適な船旅になるのではないか。いいように考えよう。
友人と窓口に向かい、係の人に旅程を伝え、今日の八丈島までの乗船券、それから八丈島から三宅島、そして東京までの乗船券をまとめて購入した。
購入したのは一番安い二等船室。いわゆる自由席となるのだが、長距離フェリーの場合は座席ではなく、雑魚寝できるスペースとなる。
八丈島までの乗船時間は約10時間。これだけ閑散としているので大丈夫だとは思うが、万が一、狭いスペースでずっと体育座りってことになったらしんどい。何が何でもゆっくりと横になれるような快適な寝床のスペースを確保したい。
ということで乗船時間よりも早めに乗船口に行き、列に並んだ。といっても、10人程度しか並んでいなかった・・・。
しばらく待っていると乗船時間になった。乗船の列を振り返ってみると、さっきから列が伸びていない。全部で、20人ぐらいか。大型の船なのに、長距離バスの列に並んでいるかのよう。あまりにも人が少な過ぎる・・・。
でもまあ、人は少なくても、確実に2人分の場所を確保しなければ。と、勇んで船に乗り込んでみたものの、乗る人の全部が2等船室の客ではない。2等船室を訪れてみると、ガラガラだった。いや、ガラガラというか、本当に人がいない状態だった。
おそらく夏のピーク時には10人寝ていると思われるスペースを2人で専有して使うことができた。他のスペースも同じ状況で、他の人に気兼ねなくくつろげるのはうれしいが、本来密度が濃いはずの空間に人がいないと、広々というよりはスカスカ感を強く感じてしまう。旅心まで寂しくなってしまいそうだ。
シーズンオフとはいえ、週末にここまで人がいないとは・・・。他の人には八丈島や三宅島は旅行先として魅力的とはならないのだろうな・・・。
「八丈島に何しに行くの?」などと、みんなから言われたのも、この船内の状況を見れば納得というもの。でも他人と同じ場所を同じように旅しても面白くない。あまり人が行かないところを旅してこそワクワクするというもの。それに情報や雛型が少ないので、その分、頭を使うし、純粋に自分らしい旅もできる。
ピンチはチャンスというわけではないが、この状況は旅をするのに理想的な環境だ。そう考えると、俄然とやる気が湧いてくる。
フェリーは定刻の22時に芝浦港を出港した。今回はどんな旅になるだろうか。旅立ちには期待と不安がつきものだが、今回は国内だし、一人旅ではないので、不安はほとんどなく、期待ばかりだった。
船が出航すると、せっかくなので海の上から東京の夜景を楽しむことにした。とはいえ、荷物を置きっぱなしにして外に出てしまうと、盗難などの心配がある。何かあると面倒なので、交代で外のテラスに出た。
しばらくすると外に出ていた友人が戻ってきて、もうすぐレインボーブリッジをくぐると教えてくれた。すぐにカメラを持って外に出ると、船がちょうどレインボーブリッジをくぐるところだった。
晴海ふ頭からレインボーブリッジを見るというのがデートスポットとして有名だ。何度か見に行ったことがあるが、真下から見るというのも迫力があっていいかもしれない。
船はレインボーブリッジをくぐるまでは頻繁に舵をとっているようで、常に揺れている感じがあったが、橋を通過すると船の揺れが落ち着いた。
しばらく外で東京の夜景を楽しんでいたが、いつまでも外にいては寒い。それに友人をほったらかしにしたままだ。船内へ戻った。
客室に戻ると、旅立ちならではの気分が高揚している状態。ここは旅立ちを祝し、これからの旅の無事を祈ってビールで乾杯だ!と、のんべえ的にはいきたいところ。
しかしながら私には苦い過去があり、以前飛行機に乗ったときに、アルコールと乗り物酔いのダブルパンチをくらったことがある。その時に生きた心地がしないほど苦しい思いをし、それからは乗り物では絶対アルコールを飲まないようにしている。
ということで、友人には悪いけど、ここはジュースで乾杯。お菓子をぼりぼりかじりながら、旅立ちを祝い、そして到着してからの計画を練り始めた。実はほとんど無計画の我々だった。
いや、下調べは色々としたけど、行くと決めてからあまり時間がなく、お互い会って話す機会がなかったのだ。
少なくとも着いてからどうするかは着くまでに決めておかないと・・・。「どうする?」「やりたい事や行きたい場所の目星はつけてきた?」などと図書館で借りてきたガイドブックを見ながら話をしていると、だんだん気持ち悪くなってきたりして・・・。
げぷっ。船の揺れを馬鹿にしてはいけない。船の揺れに慣れていない人は普通に座っていても気持ち悪くなるのだから・・・。
乗り物酔いにあまり強くない身としては、気持ち悪くなる前に大人しく寝てしまうのが一番。ということで、ゴロンと横になって寝ることにした。
#4 八丈島への船旅 「#5 八丈島での宿探し」につづく