#5 八丈島での宿探し
1998年3月、学生生活の最後を締めくくる卒業旅行として、友人と3泊5日の行程で八丈島と三宅島を巡ってみました。(全17ページ)
6、八丈島での宿探し
昨夜22時に芝浦港を出港したフェリーは、早朝に三宅島を経由し、八丈島の底土港にほぼ定刻通りの8時過ぎに到着した。
船から降りると、すがすがしい朝日と青空に迎えられた。ちょっと風が強いけど、空は広く晴れ渡り、絶好の旅日和。八丈島が我々を歓迎してくれているかのようだった。
航海中はそんなに揺れは感じなかったが、やっぱり10時間も船に乗っていると胸のあたりにちょっとした不快感が残るもの。まずは朝食を食べてから・・・といった気分ではない。
体のバランス感覚も少しおかしくなっているようで、歩くと地に足が付いていない感触。なんだか雲の上を歩いているようだ・・・。少しおぼつかない足取りで桟橋を歩き、フェリーターミナルの出口に向かった。
八丈島に着いたら、今晩の宿を決め、その後スクーターを借り、島内の見所を巡りながら島を一周する。そう船の中で話し合って決めた。
ということで、まずは宿探しだ。ガイドブックを見ると、港から少し歩いたところに比較的固まって宿がある。まずはこのエリアに向かって歩いていこう。
港から宿が多くある地域へは真っ直ぐな道が延びていた。 広々として開放感がある道で、南国らしく街路樹には椰子が植えられている。
少し強めに吹く風は、東京に比べて生暖かく、少し南国っぽい匂いもする。10時間も船に乗っただけあって、やっぱり東京とは違うな・・・。歩きながら南の島、八丈島に来たんだなという実感が伴ってきた。
宿が集まっているエリアまで来ると、道の脇に変わった建物を発見。パッと見は高床式倉庫なんだけど、なんかちょっと雰囲気が違う。茅葺の屋根が大きく、しかも深めに帽子を被るようにのっかているからか。
説明を読むと、江戸末期の倉庫で、八丈島独特の建物になるようだ。足が六本あることから六脚倉とも呼ばれているとか。ちょっと南国っぽく感じる建物だ。せっかくだから記念撮影しておこう。
六脚倉から少し歩いたところに、ガイドブックでお勧めとあり、値段を含めてよさそうな感じのペンションがあった。
さっそく呼び鈴を押すと、すぐ宿の人が出てきたのだが、「今やっていないよ」と少し迷惑そうな顔で断られてしまった。
そ、そうなのか・・・。残念。では近くにある別のペンションへ行くか。
ちょっとつまづいてしまった気分だったが、まあこういうことはバックパッカーをしているとよくある。次の宿へ向かおう。しかし、近くにある別のペンションを訪れても、同じように断られてしまった。
乗ってきたフェリーの閑散ぶりから考えると、あちこちの宿が満室になるほど多くの人が訪れているようには思えない。我々の人相が悪く、遠回しに宿はやっていないと断っていたりして・・・。島というのは閉鎖的でもあるからな・・・。
「このままだと今夜は野宿になってしまうかも・・・・。最悪、さっきの高床式倉庫で寝かせてもらうか・・・。」と、力なくぼそっと呟くと、「それは名案だ」と友人が楽しそうに答えた。
友人はバックパックを背負って一人で海外を旅する私の話を聞くのが好きだ。そして、そういったことに少し憧れて今回の旅にやってきている。だから私の心配をよそに、何か冒険的なことが起きることを期待している節がある。
まあ・・・、それはそれでいい思い出になるかもしれないけど、寝袋などの野宿用の荷物は持ってきていないぞ。第一トイレはどうするんだ・・・。
2軒断られたぐらいで、下を向いていてはいけない。就職活動では桁が違うほど断られている。めげずに3軒目を訪れた。
今度は今までとパターンを変え、旅慣れた私ではなく、友人にベルを押させた。彼の方がいかにも観光客っぽいので、相手に与える印象がいいはず。
扉の前で待っていると、すぐに中からおばさんが出てきた。そして友人が宿泊したい旨を伝えたが、結果は同じで、またも断られてしまった。また駄目か・・・、いったいこの島はどうなってるんだ。本当に高床式倉庫行きになるかも・・・。
ただ、おばさんは私たちの落胆した様子を見て、「今はシーズンオフなので開いている宿は少ないんだよ。ちょっと先に大手代理店が使う大きめの民宿があるからそこに行ってごらん。年中やっているから。」と、気の毒に感じたのか、丁寧に場所を教えてくれた。
我々が断られたのは人相とか、雰囲気のせいではなかったのだな。当然と言えば当然だが、ちょっと安心した。
要は滅多に来ない客のために宿の準備をしているよりも、完全に閉めて副業に専念する方がいいようだ。なるほど。八丈島は観光だけで成り立っているわけではないもんな。教えてくれたおばさんにお礼を言い、その宿へ向かった。
教えてもらった宿へ行くと、ようやく八丈島での宿泊許可が下りた。って、本来はそんな大袈裟なことじゃないけど、3軒も断られたので、そういった心境だった。
やれやれ就職活動を思い出してしまう・・・。最初はどうなるかと思ったけど、これで一安心だ。
部屋に荷物を置き、部屋においてあるお茶を飲みながら、「宿決めがこんなに大変だとは・・・」「島旅はやっぱり一筋縄ではいかないな・・・」などと盛り上がりつつ、ひとまず一服してくつろいだ。
#5 八丈島での宿探し 「#6 八丈島スクーターツーリング」につづく