八丈島、三宅島卒業旅行記 1998 タイトル
八丈島、三宅島卒業旅行記

#9 八丈富士への登山

1998年3月、学生生活の最後を締めくくる卒業旅行として、友人と3泊5日の行程で八丈島と三宅島を巡ってみました。(全17ページ)

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9、八丈富士への登山

本日の第一目標であったバイクで八丈島一周のミッションは、無事に完遂することができた。風も強くなってきたことだし、宿に帰って風呂に入り、土地の料理を食べながら一杯始めますか・・・。といきたいところだけど、まだやるべきことがある。

登山のイメージ(*イラスト:みずなやさん)

(*イラスト:みずなやさん 【イラストAC】

それは八丈島のシンボルである八丈富士に登ること。本日の第二目標にしているのは・・・、私ではなく友人の方。とても張り切っていたりする。私的にはバイクで八丈島を一周できたので、もうそれで十分満足。山は登れなかったら別にいいかな・・・という感じだった。

でも、一人で行っておいでというわけにもいかない。一人で宿に戻ってもすることがないし、何より友人に旅慣れていると思われているのが、実は大したことないんじゃない。海外での武勇伝も作り話だったのでは・・・と思われかねない。

山頂を目指すイメージ(*イラスト:poosanさん)

(*イラスト:poosanさん 【イラストAC】

ここでいい加減な口実で逃げてしまっては、旅人のメンツやプライド、友情にも関わる。ということで、友人とともに底土港付近から八丈富士への登山道路をスクーターで登っていった。

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スクーターで坂道を登っていった。最初は「またきつい坂だよ。」「最初に苦労した登龍峠以上だな・・・」「バイクが進まないや・・・」と笑っていたのだが、どんどんと傾斜がきつくなっていき、あまり笑えない状況になってきた。

レンタル用の古いスクーターなので、パワーがないのは仕方ないけど、アクセルスロットルをめいっぱい開けても、全然前に進んでいかないのには、閉口。

針が動かないスピードメーターのイメージ(*イラスト:ウィスパさん)

(*イラスト:ウィスパさん 【イラストAC】

スピードは時速にして10キロ以下。エンジンは一生懸命唸っているけど、スピードメーターを見ると、止まっているときの0キロのラインところから針がピクピクと振動するだけ。なかなか上の方に上がってこない。今までバイクに乗ってメーターがこんな変な動きをするのは初めてだ。

ジョギング程度のスピードしか出ていないので、友人が溜まらずに「降りて歩く?」と進言するものの、さすがに歩くよりは幾分速いし、歩くとその分疲れるので、ここは我慢してトロトロと登っていった。

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人間とバイクが忍耐、我慢、根性とあらゆる気合を入れて登り続けると、八丈富士牧野ふれあい牧場にたどり着いた。

ふぅ~、とりあえず休憩だ。よく頑張ったぞ。スクーター君。人参でも・・・、いや高級オイルでも飲ませてあげたい気分だった。

八丈富士牧野ふれあい牧場 八丈島、三宅島卒業旅行記の写真
八丈富士牧野ふれあい牧場

先端に展望台があります。

八丈富士牧野ふれあい牧場は、八丈富士の中腹にある牧場で、日当たりのいい南側のなだらかな斜面をうまく利用している。

牧草地は広く、きれいに芝が刈られていて美しい。その真ん中には展望台へ続く歩道が設置されていて、少しだけ牧場内を歩けるようになっている。

この歩道がなかなか気持ちがいい。斜面の下に真っすぐ延びているので、歩くと、山の下に吸い込まれていくような感覚になる。まるでなだらかなスキーのジャンプ台を歩いているかのよう。

童心に戻って、開放感のある坂道を全力で走りたい衝動に駆られるが、この後に登山が控えているので、我慢我慢。

牧場から見た八丈富士 八丈島、三宅島卒業旅行記の写真
牧場から見た八丈富士

先端にある展望台に到達。標高が高いので、とても眺めがいい。あれはさっき通った大坂トンネルだな。あっ、空港も見えるといった感じで、島の南側がよく見えた。

ここは眺めもいいし、開放感があって素敵な場所だな。広々とした空間と眺望に癒されていたが、そういえばここは牧場だったな・・・と思い出した。そういった目線で周囲を眺めてみると、牛が3頭いるだけだった。

広々としている割には牛が少ないな。離島だとこんなものなのかな。それとも牛舎でお昼寝中とか?季節によって増えるとか?よく分からないけど、牛が沢山いたほうがにぎやかだし、訪れるほうも楽しくなるはず。牧場という部分ではちょっと物足りないかな。

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牧場の背後には八丈島のシンボルである八丈富士の山頂がすぐそこに・・・。いやいや、まだまだ充分高い位置に見える。

ガイドブックによると、標高は854mで、伊豆諸島中では最高峰の山になるとか。そして火口には原生林が生い茂っていて、地下森林と呼ばれる不思議な風景となっていると書いてあった。

山を制覇するイメージ(*イラスト:サトミさん)

(*イラスト:サトミさん 【イラストAC】

伊豆諸島最高峰の山ということなら、この山を制覇したら伊豆諸島の山は制覇したようなものだ。そんな単純なものではないけど、そういったことに心躍らせてしまうところが私の行動の源だ。それに地下森林というのにもちょっと興味があるし、もうちょっと高い場所までバイクで行ける。頑張って登るぞ。

ということで、牧場から更にスクーターで山道を登っていった。相変わらずトロトロと進んでいくのだが、ずっとアクセルを開きっぱなしで動かしていたせいか、アクセルを回すスロットル部分の反応がちょっと悪くなってきた。ワイヤーが伸びてしまったのかな・・・。

それとともに、エンジン音もさっきよりもドモッた感じがして、不穏な雰囲気を感じる。酸素が薄くなったからか・・・。って、そんなにビックリするほど高い場所に来ているわけではない。富士山に登っているわけではないのだから・・・。

何にしてもそろそろバイクの限界が近い気がしてきた。この登山が終わったら、壊れる前にさっさと返してしまったほうがいいかもしれない。

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登山口には小さな駐車場が設置されていて、車が2台停まっていた。先客がいるようだ。我々の他にも観光客が来ているんだな。飛行機で来たのだろうか。船の中からほとんど観光客に会わなかったので、同じ島流しの仲間がいるんだ・・・といった変な連帯感みたいな感情がわいてくる。

八丈富士登山道入り口 八丈島、三宅島卒業旅行記の写真
八丈富士登山道入り口

登山道の入り口には、「山頂まで40分、1280段、頑張ろう」と書かれた案内板が立っていた。千段以上もあるのか・・・。絶望感を感じるほど長くはないが、それなりに長く、大変な道のりだな。

やれやれと思いながら屈伸なんぞして気合いを入れてみる。まあ40分程度なら不健康に過ごしている人間でも、気合と根性を入れれば何とかなるだろう。為せば成るだ。

「よし、出発だ。頑張るぞ。」「おう!」友人と気合を入れた後、登山道を登り始めた。登山をする時に山頂まで何kmと書かれていることは多いが、ここのように1280段と段数で書かれているところは少ない。

登山道を登っていくと、ちゃんと段数で書かれているだけあって、石段がずっと続いていた。これは登りやすい。誰でも安心。楽ちん仕様の登山だな。

最初の10分ぐらいは友人と話ながら登る余裕があったものの、階段になっていても登りは登り。きついものはやっぱりきつい。次第に余裕のない顔つきに変わっていった。

息が上がる様子のイメージ(*イラスト:雪藻さん)

(*イラスト:雪藻さん 【イラストAC】

これは結構しんどいぞ・・・。階段ばかりといってもやっぱりちゃんとした登山だ・・・。いや当たり前か。山に登っているのだから・・・。脳内酸素が薄くなり思考が回らない。

私がぜぇぜぇとしんどい思いをしながら登っているのに対し、友人の方は不公平なほど息が乱れていない。なんなんだこの差は・・・。

やっぱり最近タバコを吸いすぎだよな・・・。移動するのもバイクばかりで歩かないし・・・。伊豆諸島最高峰という肩書は伊達ではなく、日々不健康に過ごしている人間には甘くはなかった。

登山道の途中で 八丈島、三宅島卒業旅行記の写真
登山道の途中で

しばらく歩くと、観光客と思われる中年夫婦が降りてきた。離島の登山。お互い親しみがわくというもので、元気よく挨拶をし、挨拶がてら「後どれくらいありますか?」などと聞いてみると、「まだ20分ぐらいあるかな~。頑張ってね。」と、その笑顔とは裏腹に恐ろしい答えが返ってきた。

まだそんなにあるの・・・。徐々に足が止まっていき、「先に行っていていいよ。自分のペースで登るから・・・」と、情けない事に私はダウン。

息が上がってダウンするイメージ(*イラスト:poosanさん)

(*イラスト:poosanさん 【イラストAC】

友人は、「別に急いでいるわけではないし。俺もゆっくり登るから大丈夫だよ」と私のペースに合わせて登ってくれた。

「わるいね。ありがとう。」と言いながらも、かなりの負けず嫌いなので、次に山に登るときは逆のセリフを言わせてやるぞ・・・と心の中で思うものの、リベンジする機会は訪れるのだろうか・・・。

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登れば登るほど足が痛くなり、息も苦しくなっていくのが、登山の困った部分。しかもまた同じ道を降りなければならないと思うと、気が重い。

「腰が痛い・・・」「足が痛い・・・」と呻きながら、苦しい道中を耐え続けると、なんとか山頂に到着。いや頑張った。本当に・・・。

八丈富士の山頂 八丈島、三宅島卒業旅行記の写真
八丈富士の山頂

大きなカルデラとなっています。

カルデラ内の原生林 八丈島、三宅島卒業旅行記の写真
カルデラ内の原生林

ここ八丈富士の山頂は大きな噴火口が開いていて、山のてっぺんといった感じの山頂ではない。とても大きなカルデラで、尾根に沿って一周できるようになっている。そして火口内には樹木が生い茂っていて、これがガイドブックに書かれているヤマグルマなどが生い茂る地下森林となるようだ。

なかなか広々としていていい眺めだ。そして火口内が樹木で覆われているというのも不思議な光景だ。苦労して登ったかいがあったというもの。この景色を見たら疲れが吹き飛んでいく・・・なんてことは絶対にありえないが、ここまでの辛かった道中が少し報われる気がした。

お鉢巡りの道 八丈島、三宅島卒業旅行記の写真
お鉢巡りの道

尾根沿いを一周歩けるようになっています。

ただ困った事に風が強い。風を防ぐものがない山頂なので、「ごうごう」という轟音とともに、横から、足元からと、強烈な風が不規則に通り抜けていく。

あまりの風の強さに腰を低くしていないと、その場に留まっていられないほど。というより、立っていると身体が風であおられ、飛ばされてしまいそうになる。いや、大袈裟に言っているのではなく、本当に危険な状態だった。

風で飛ばされるイメージ(*イラスト:poosanさん)

(*イラスト:poosanさん 【イラストAC】

それに私は中学生時代に強風に飛ばされ、危うくサッカーゴールの下敷きになって死にかけたという変な過去を持っている。なので、強風は他の人よりも苦手。だからこの状況は洒落になっていないというか、恐怖そのもの。

岩にしがみついてかなりへっぴり腰になりながら記念写真を撮って、八丈富士登山の任務完了。

登山の記念撮影 八丈島、三宅島卒業旅行記の写真
登山の記念撮影

怖くて岩にしがみついています・・・(笑)

本当はゆっくりと火口を一周、いわゆるお鉢巡りをしたいけど、この状況ではもってのほか。火口に落ちるか、山の下に落ちるかの二択しかない。

火口の原生林に降りるのなら風の影響は少ないけど、結構深いので却下。きっと私は登ってこれない・・・。だったら長居は禁物。というより、本気で怖いので早く下山したい。飛ばされるかもしれないという恐怖心から早々に下山する事にした。

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