#10 一日の終わり
1998年3月、学生生活の最後を締めくくる卒業旅行として、友人と3泊5日の行程で八丈島と三宅島を巡ってみました。(全17ページ)
10、一日の終わり
登山を無事に終え、スクーターで山を下っていった。登りでは苦しそうに走っていたスクーターも、下り坂だと機嫌がいい。
でも油断は禁物。登りで苦労しただけあって、坂の傾斜がかなりきつい。一人で乗っているのならまだしも、二人分の体重とスクーターの重さがあるので、ビックリするほどブレーキの利きが悪い。いつもと同じ感覚でブレーキを握ると、わぁ~~、とまらない・・・、といった感じで、ちょっと慌てる。
普段あまり意識しない重力というものを強く感じながら慎重に山を下っていくのだが、バイクのブレーキよりも大変だったのが、私の腕。ハンドルを持つ腕に後ろに乗る友人の体重もずっしりと加わるので、まるで腕立て伏せをしながらバイクに乗っているようだった。
このままだと腕が耐えられないかも・・・。足に続いて腕までもギブアップか・・・という目前で、坂が緩やかになった。そして無事に山を下りることができた。
よく頑張ったぞ。オンボロスクーターと私。なかなか苦労した八丈富士への山登りと山下りの道中、そして登山だった。恨めしく八丈富士を見上げると、そんなこと知ったことかといった感じで、動きの速い雲たちとじゃれ合っていた。
山から下りると、作戦会議。スクーターの返却時間まで、まだそこそこ余裕がある。どこかへ行こうと思ったら行けるけど・・・、どうする。
私的には、行きたいとチェックしていた場所を一通り回ったし、今からどっか行ってスクーターが壊れると、「あ~やっぱりな・・・」といった感じで、もの凄く後悔しそうだし、今日は島を一周し、登山もしたのでもう十分かな。
頑張っても原付ほどしかスピードが出ないので、原付の運転ができればこのスクーターなら何も問題ないだろう。「行きたいところがあれば行ってきていいよ。」と友人には伝えたが、私よりも元気そうな友人も、「今日は沢山見れたので、もう満足かな」といった感じだった。それならバイク屋にスクーターを返しにいこう。
バイク屋を訪れると、朝対応してくれたおじさんがいた。我々を見つけると、店の中から出てきて、すぐ「スクーター、大丈夫だった?」と聞いてきたところをみると、半信半疑で貸したのだろう。
最後の方はエンジンの音が少し変な感じがしていたけど、面倒なので「なんとか大丈夫でした・・・。」と言い、バイクを返却した。
宿に戻ると、今日一日の観光は終了。部屋でお茶をすすりながら一服した。やれ疲れたな。腕と足が痛い。これもよく頑張った証拠だ。そして頑張った分、楽しかった一日だった。
スピードの出ないスクーターに合わせながらのんびりと八丈島を満喫でき、色々と見て回ることができた。風さえ強くなければよかったけど、まあそれはしょうがないこと。こういう日もあるし、それもまた思い出だ。
思い出といえば・・・、人捨て穴は衝撃的だったな。八丈島の思い出としてずっと忘れられないだろう。
しばらくは今日の出来事を話したりしていたが、落ち着くと風呂に入って一日の汗を流した。
その後は楽しみにしていた夕食。昼食を経費節減でスーパーの弁当で済ませたし、山登りをしてカロリーも消費した。夕食を美味しく食べる条件は整っている。
広間に行くと、島で採れた海の幸を使った料理が並んでいた。まずは乾杯。充実した一日を過ごすとビールがうまい。更に料理がうまい。そして登山の疲れから酔いが回るのも早い。
昨夜は船の中であまりぐっすりと寝られなかったのもあって、夕食後は瞼がしょぼしょぼしてたまらない。今日は早く寝ることにしよう。
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