#6 八丈島スクーターツーリング
1998年3月、学生生活の最後を締めくくる卒業旅行として、友人と3泊5日の行程で八丈島と三宅島を巡ってみました。(全17ページ)
6、八丈島スクーターツーリング
さて一服したことだし、体が重くなる前に観光に出かけよう。島内には公共バスが走っているが、本数は多くない。精力的に観光をしていくなら、レンタカーやレンタルスクーターを借りる方が効率がいい。
ガイドブックによると、スクーターを借りられるバイク店が港付近にある。ここでスクーターを借り、島を一周しながら点在している見所に立ち寄っていこう。
レンタカーでなくスクーターを選択したのは、八丈島までの移動に船便を選んだのと一緒で、値段が安いから・・・。ではなく、私が離島をバイクで走りたかったからだ。離島をバイクで走る。バイク乗りにはちょっとした憧れだ。
船内で目を輝かせながら友人に提案したのかどうかは分からないが、バイクの免許を持っていない友人は、「いいよ。2人乗りで、ぜんぜん構わないよ。面白そうだし。」と、快諾してくれた。
宿のおばさんに確認すると、その店で借りられるとのこと。地元の人が言うなら安心だ。ということで、早速、地図を見ながらそのバイク屋に向かった。
バイク屋を訪れてみると、離島らしく小さくて簡素なお店だった。看板にはバイク屋の文字があるが、実際はなんでも屋さんといった感じ。自動車や自転車を含め、車輪やエンジンが付いたものの修理はなんでも扱っているようで、色んな乗り物が店先に置いてあった。
店にいたおじさんに「こんにちは」と挨拶し、2人乗りができるスクーターを借りたい旨を伝えた。おじさんはちょっと困ったような顔をし、「今これしかないけどいい?」と、隅に置いてあるボロボロの90㏄のスクーターを指さした。
うわぁ、本当にボロボロだ。1人で乗るならまだしも、2人乗りだとちょっと怖いな・・・。途中で壊れたらシャレにならん。今まで海外でレンタルバイクを借りて、パンクしたこと3回。ブレーキが故障すること1回。それなりに修羅場をくぐってきているので、故障には少し慣れている。
だからはっきりと言える。途中で故障してしまうと、時間と手間と気力がもの凄くかかる。特に周囲に何もない場所で壊れると、途方に暮れることになる。そして、大きな時間を失うことで、せっかく立てた予定も変更せざるを得なくなる。故障しないに越したことはない。
とはいえ、故障することで、人の親切心に触れることができたり、普通に旅していたら話すことのない一般の人達と出会えたりと、後々、深く思い出に残るような体験となる場合がある。なので、100%悪だとは言えなかったりもする。
旅にはトラブルがつきもの。トラブルのない旅は旅ではなく、旅行だ。トラブル、故障、旅の上級者なので、どんとかかってこい。などと豪語したくなるが、バイクの故障は簡単に自分で対処できないことが多い。それに事故につながる場合もある。なので、やっぱり故障しないに越したことはない。
友人は車の普通免許を持っていて、実家に兄の原付があり、一応原付に乗ることができる。プランBとして50㏄の原付2台借りるというのも考えていたが、「今ちょうど本土にオーバーホールに出していてね・・・・。これしかないんだ。」と言われてしまった。
このオンボロスクーターしかないのか・・・。バイクに乗って八丈島を走りたいが、これだと故障が怖い。ここは少しお金を足し、プランCのレンタカーにするか。気分的には盛り下がるが、途中で故障して、島を周れなくなるよりはいいし・・・。う~ん。とても悩ましい状況だ。
私のガッカリしたような表情から察したのか、せっかくの客を逃したくないのか、店のおじさんは「オンボロだから少し負けとくよ」と、料金の割り引きを提案してきた。
思いがけず安くなった。しかも、なかなか魅力的な値段だ。安くなるんだったらいいか・・・。ここは日本だ。日本語が通じる。しかも小さな島だ。トラブルがあっても何とかなるだろう。
「このバイクをレンタルすることにします。バイクの知識は少しあるので、何かあっても少しは対応できると思いますので、大丈夫です。」と言い、交渉は成立した。
私はかなりの貧乏性な性格をしている。なので、値引きにとても弱い。後でよくあるパターンの「安物買いの銭失い」とならなければいいが・・・。
ちょっとボロいのが心配だが、当初の予定通りにスクーターを借りることができたので、これより八丈島観光を開始。
本日の第一目標は、ひょうたん型をした八丈島を一周すること。現在地の底土港から島の外周を通っている八丈循環線を時計回りに走っていき、途中途中で観光をしながら島の一周を目指そう。
では、出発。まずは島の南側を回っていくぞ。友人を後ろに乗せ、意気揚々と走り出すものの、道を間違えて集落の奥へ入り込んでしまった。こんな小さな島でいきなり道を間違えるとは・・・。ちょっと恥ずかしい。
でも言い訳をさせてもらうと、ここには普段見慣れているものがなかったのだ。それは道路標識というか、あの青い案内板。東京都内で乗りなれていると、交差点ごとに行き先の書かれた標識が掲げられていて、無意識にそれを確認しながら走っている。
ここで暮らす人にとっては、そういったものは当たり前すぎて必要ないものだろうけど、やっぱり観光客には必要だと思う。・・・と、一生懸命友人に言い訳をしている私がいた。
気を取り直して、再出発。最初の目的地は底土港の少し南にある登龍峠の展望台。底土港から南へ登って行く道が登龍峠で、龍が昇天するように見えることからその名がついたそうだ。
登っていく龍というのはなかなか格好いい名前だが、その名前の通りにこれでもかといったぐらいに曲がりくねった上り坂だった。しかも、けっこう登りの傾斜がきつく、非力なスクーターに二人乗りしているので、思うようにスピードが出ない。
スピードメーターを見ると、アクセルを全開に回しても針が20~30キロあたりをうろちょろするだけ。気持ちはやる気満々なのに、バイクの方が思うように進まないというのは非常にじれったく感じる。
途中の道路脇の壁には、登龍峠をモチーフにしたと思われる大きな龍の絵が描かれていた。なかなか立派なもので、迫力がある。
離島といえども細かいところまで気を配っているものだな。この絵のおかげで険しい登龍峠を登っている感が増してくる。
もしかしてこれって観光客用のサービスってやつなのか。地元の人にはあまり必要そうでもないし・・・。ここは観光客として期待に応えておこう。龍の前でスクーターとともに記念写真を撮っておくことにした。
更に登っていくが、アクセルを回してもなかなか進んでいかない・・・。メーターの針は一段下がって10~20キロをウロウロとしている。
これだけゆっくりと走っているので、どんどんと車に追い越され、容赦なく排気ガスを浴びせられ・・・というお決まりの展開を覚悟するものの、一台も抜かれることなく、峠の途中にある登龍峠展望台に到着した。ここは交通量がビックリするぐらい少ない。
バイクから降りると、さっそく展望台に立った。かなり登ってきただけあって、眺めがいい。すぐ下にはさっき船が到着した底土港が見え、その奥には八丈富士が聳えている。備え付けられている案内板には、新東京百景の眺めとあった。この風景を見れば誰でもその選定に納得するはずだ。
それにしてもいい景色だ。特に周りが海に囲まれている様子がいい。この雄大な景色を見ていると、離島に来たんだな。離島を旅しているんだな。といった実感がモリモリとわいてくる。
次の目的地は八丈島の南東端にある八丈島灯台。島を一周するのに外せないチョックポイントといえば、やっぱり南と北にある灯台だ。
普通の観光客が通らないような険しい道を進んでいき、苦労してたどり着いた灯台で記念撮影する。そういった行為が冒険心を満たし、島を一周した達成感を強調してくれる。って、そんなのは単に自己満足でしかないのだが、やっぱり端っこを訪れると達成感が違ってくるのは確か。
そういった単純な理由で八丈島灯台を訪れてみると、なんと灯台のすぐ真下までバイクで行く事ができてしまった。達成感が・・・、まるでない。
もうちょっと苦労してたどり着かないと、気分的に盛り上がらないんだけどな・・・。こういった冒険心を感じる場所は・・・。それは観光客のわがままというものだけど、ちょっと拍子抜けしてしまった。
灯台自体は昭和26年に造られたもので、地元では八丈島灯台と呼ばず、この地域の名、末吉灯台と呼んでいるとか。
今日は天気がいいので、白い灯台が青空によく映えていたのが印象的だった。内部には入れないので、訪れたことの証拠となる写真を撮って後にした。
次の目的地は灯台からあまり離れていない名古の展望台。ガイドブックには、崖下に洞輪沢の漁村と八丈島南端の小岩戸ヶ鼻を見ることができ、お勧めの眺望と紹介されていた。
ただ、訪れてみると、時間的に逆光がきつくていまいちな感じ。南側に面しているので、時間や季節を選ぶ展望台のような気がする。
名古の展望台からは、先ほど訪れた八丈島灯台がよく見えた。さっきの訪れた時は、スタンプラリーのチェックポイント的な場所としか感じなかったのだが、ここから見ると断崖絶壁のような場所に灯台が建てられていていて、ビックリする。
離れて見るとより物事がよく見えるとは言うけど、あんな場所にさっきいたのか・・・。もうちょっと海の方へ歩いてみればよかったな・・・と、ガッカリもしてしまった。
#6 八丈島スクーターツーリング 「#7 衝撃的な観光」につづく