#8 ランチと島の一周
1998年3月、学生生活の最後を締めくくる卒業旅行として、友人と3泊5日の行程で八丈島と三宅島を巡ってみました。(全17ページ)
8、ランチと島の一周
時間は昼過ぎ。お腹もすいたし昼食にしよう。現在地はひょうたん型をしている八丈島の中央部。このエリアには役場や飛行場があり、島の中で一番栄えている。店もそこそこ多いので、手ごろな食堂を探しながらスクーターで走ってみた。
しかし、都内で見慣れているファミレスとか、コンビニといったものは一切ないし、手軽な感じの食堂も見つけられなかった。途中でも感じたのだが、観光客が手軽に食べれる場所がないというのが、八丈島の食事事情のようだ。
あるのはスナックを兼ねた喫茶店とか、居酒屋、そして民宿に併設された食堂ぐらい。大人の雰囲気が漂う喫茶店でスパゲティーというのも、学生の身分だとちょっと敷居が高く感じる。
いや、もしかしたら南国らしく素敵なマダムが相手をしてくれるかも。寅さんに出てくるリリーさんみたいな人が出てきて、人生のうんちくを・・・。って、昼間だし、大学生の若造だと、眠そうな顔で軽くあしらわれるのがオチってものだ。
ちょっと高級っぽい食堂もあったが、昼間っから奮発して刺身定食というのも、あまり気が進まない。民宿に泊まっているので、夕食はそれに近い郷土料理が出てくるはず。確実に夕食の満足度が2割減してしまう。
富士宮焼きそばとか、喜多方ラーメンとか、大阪や広島のお好み焼きみたいに、気楽に食べられる「ザ・八丈島」といったソウルフードがあれば迷うこともないのだが、特にそういったものもない。
だったらこの後は南原千畳岩に行く事にしているから、スーパーで土地のものっぽい弁当でも買って、手軽に済ませてしまおう。荒々しい溶岩に囲まれながら食べれば、なんでも美味しく感じるはず。そして安く上がった分は、夜のビール代にしよう。
先ほど見かけたスーパーへ向かった。バイクで通り過ぎたときは、そこそこ大きなお店に見えたが、実際に店の前にバイクを停めてみると、入り口から一番奥の棚の商品がはっきりわかるほど奥行きがなかった。
思っていたよりも小さいスーパーだったな・・・。弁当、売っていないかもしれないぞ。もしなければ、菓子パンでも買うか・・・。そう話しながら中に入ってみると、数は多くないが手頃な弁当が幾つか置いてあった。
意外と弁当の需要があったりするのだろうか。そのへんの離島の事情はよくわからないが、お互い好みのものを購入した。そして後ろに乗る友人が斜めにならないように持ち、南原千畳敷に向かってゆっくりとバイクを走らせた。
八丈島の西側の港、八重根港の北西一帯に広がっているのが、南原千畳敷。この付近の海岸線は荒々しい溶岩で埋め尽くされている。この溶岩は八丈島の北側にそびえる八丈富士が噴火したときに流れ出たもの。火山で形成された八丈島らしい風景の一つと言える。
到着すると、海岸に設置されているベンチに座り、弁当を広げた。目の前は溶岩の海岸。沖には八丈小島が浮かんでいる。そういった自然味溢れる絶景の中で弁当を食べる。本来なら至福のランチタイムとなるはずなのだが、あいにくと今日は風が強い。
バイクで走っている時も、時々風が強いなと感じていたけど、海岸に座るとかなり強烈に感じる。というよりも、一段と風の威力が増しているのではないか。
こんな風が強い中で弁当を広げようとすると、色々なものが風で飛ばされそうになる。辺りには手ごろな溶岩石が転がっているので、ビニールや弁当のふたなどを押さえるのには困らないが、油断していると手に持っている弁当まで飛ばされそうになる。ほんとに厄介な風だ。
海辺を見ると、こんなところでよく食べるな・・・と、鳥たちがこっちを見ている。いや、何か飛んでこないかと待っているのか。
「あぁ~~」と友人が声を上げた。弁当の中で中身を分けている緑色のビニールが、溶岩の海岸へ飛んでいった。拾いに立ち上がろうとすると、今度は割りばしが・・・。こりゃかなわん。急いで弁当の中身を胃の中に流し込んだ。
結局、風が強すぎて海岸には5分程度しか座っていられなかった。物が飛んだり、体が冷えてきたのもあったが、波しぶきが風に混じって飛んでくるのが一番厄介だった。眼鏡や髪などがべた付き始め、このままいると全身海水まみれになってしまう。長居は無用。さっさと撤収しよう。
楽しいランチとなるはずだったのが、強風のおかげで台無し。まあ我々の作戦ミスだったともいえる。それにしても・・・、この風、どんどん強くなっているのでは。このままだと大変なことになるのでは・・・。強くなっていく風に懸念を感じた最初の時でもあった。
食べ終えた容器を購入したスーパーのゴミ箱に捨てに行った後、八丈島一周の再開。今度は島の北側を走破していこう。南原千畳敷から島の西側を北上していった。
次の目的地は・・・。北側はガイドブックを見ても、観光パンフレットを見ても目ぼしいスポットがなさそう。でも、走ってみると何かあるかもしれない。いつでも停まれるようにゆっくりとバイクを走らせていくものの、やっぱり目ぼしい場所はなく、一気に北側の端っこ、大越鼻灯台まで来てしまった。
灯台付近は大越園地と名付けられていて、簡易休憩所や永郷展望台が設置されている。特徴的なのが、道沿いの斜面にはアロエがたくさん植えられていること。辺りはアロエだらけといった感じで、健康に良さそうというか、刺々しいというか、不思議な空間になっていた。
永郷展望台に上がってみると、八丈小島がよく見えた。海面が太陽の光をキラキラと反射させていたので、光の中にたたずんでいるといった感じ。なかなか素敵な光景だった。
白い大越鼻灯台もここから見えた。ただ、緑の中に埋まっている普通の灯台といった感じ。行っても見晴らしがよくなさそうだし、わざわざ行かなくてもいいか・・・。困ったことに八丈島では灯台を訪れる感動があまりない。
これで北側も制覇。ってことにしよう。南原千畳敷で体が冷えてから、観光熱も冷めてしまったようで、ちょっといい加減。
この後も何かあれば立ち寄ろうと思いながら、ゆっくりとスクーターを走らせるものの、特に何もなく、ほとんどイベントのないまま八丈富士の聳える北側をぐるっと回り、スタートした底土港近くまで戻ってきた。
北側はガイドブックにも何も載っていなかったので、こんなもんかな。ちょっと最後があっけなかったけど、これで本日の第一目標だった八丈島一周を無事に達成。
満足感の方は・・・、想定していたよりもあっけなく達成できてしまったことが不満だが、途中には眺めのいい展望台があったり、人捨て穴という強烈なスポットもあったし、何より友人とともに冒険心を感じながらバイクで走ること自体がとても楽しかったので、十分満足のいく八丈島一周ツーリングだったといえる。
#8 ランチと島の一周 「#9 八丈富士への登山」につづく