旅人が歩けばわんにゃんに出会う
東京編 世田谷7(東京農大)
世田谷区にある東京農業大学で出会った動物たちの紹介をしています。
13、東京農業大学(世田谷区桜丘 2009年など)
世田谷通りの馬事公苑付近に、日本を代表する農業大学、東京農業大学の正門がある。昔はよく箱根駅伝に出走していて、応援団が大根踊りで盛り上げている様子が話題になっていたので、全国的にその名を知っている人が多いのではないかと思う。
農大は、明治24年(1891年)、榎本武揚氏によって設立された徳川育英会、育英黌農業科が起源となり、最初は千代田区にあった。2年後、育英黌から独立し、東京農学校と改称され、その後、広い場所を求め、渋谷常磐松町に校舎を構えるようになった。
1911年、私立東京農業大学と改称し、初代学長に横井時敬氏が就任した。横井氏の「稲のことは稲に聞け、農業のことは農民に聞け」といった格言は、今なお東京農大の教育の根底に息づいているそうだ。
太平洋戦争中には、戦火によって常盤松の校舎が焼失。戦後、陸軍機甲整備学校であった現在の世田谷キャンパスへ移転し、再建を行った。
現在では、厚木キャンパス、オホーツクキャンパスと二つのキャンパスが増設され、学科も従来の農業や畜産、醸造だけに留まらず、バイオサイエンスや国際バイオビジネスなどといった時代の流れとニーズに合った科が新設されている。
「農業後継者や地域社会の担い手の育成」を最大目標としているだけあって、通っているのは農家の子息、或いは農業や農業関連企業を目指す学生が多いそうだ。
農業分野では、東京農大に通っています。と、胸を張って学校名を言えるエリート校になるのだが、あいにくと、ここはこじゃれた東京。しかも農業にあまり縁のなさそうな世田谷。通っている学生たちは、結構コンプレックスを持っていたりする。農業は地味で田舎臭いと。
私が大学生の頃、この界隈に暮らしていて、バイト先には農大の人が多かった。農大の学生と話していると、よくこの話題になった。
そんなに気にすることかな・・・。農大って個性的でいいと思うのけど・・・。などと、聞いていて思うのだが、明治大学の農学部みたいな形態ならよかったのに・・・、と、大学の名前にそのまんま農業が入っていることが、他の大学生と話すときなどに、強くコンプレックスとなるようだった。
農大のキャンパスと世田谷通りを挟むような形で、「けやき広場」がある。ここは便宜上、広場と名がついているが、元々は世田谷通りから馬事公苑へアプローチする道。とても立派なケヤキが並んでいて、秋の紅葉時には素敵な光景になる。
この「けやき広場」の途中に、目を引くカラフルな鳥の像がある。この鳥の像の後ろにある建物は、東京農業大学「食と農」の博物館。2004年に開館した施設で、大学の研究成果や関連分野の展示や、「食」と「農」に関する啓蒙活動、そして大学のビジターセンターとしての役割を担っている。
入場料は無料で、館内には様々な展示がある。圧巻なのは、常設展の鶏の剥製が並んでいる様子。鶏の先祖とされる野鶏3品種、天然記念物の指定を受けている17品種を含む日本鶏45品種、外国種11種類の計115体の剥製が展示されている。
半年ごとに展示内容が変る企画展も凄く、その内容の充実ぶりはなかなかのもので、とても見ごたえがある。が、お酒好きとしては、卒業生の蔵元で扱っている酒瓶がずらっと並んでいる様子に、一番魅力やロマンを感じてしまったりする・・・。
また、農大の講師などによって、食や農にかかわる企画講座や講演が行われたり、購買所では、農大オリジナル商品や企業と共同開発した商品、時々農大のOBが作った珍しい農作物やお米などが企画販売されている。
この博物館の隣には、大きな温室が付随している。いわゆるバイオリウムで、動物園、植物園、水族館といったくくりを取り去った「生きもの空間」になる。
温室内には、サボテンなどの南国の植物が所狭しと植えられていて、檻の中には南国のサルが飼育されている。更には、地面には巨大なリクガメがのしのしと歩いていたりと、世田谷でプチ南国気分を味わうことができたりする。
冬場に訪れると、サウナのように暖かく、まさに南国気分。暖かくてホッとしたりするが、ちょっと獣臭いのが難点でもある・・・。
そこまで大きな施設ではないので、過大な期待をして訪れなければ、こんなところに珍しい猿がいる・・・。でっかい亀が歩いている・・・。サボテンがかっこいい・・・などと、偶然の出会いや体験に心躍ることだろう。
農大といえば、文化の日付近に行われる収穫祭が有名だ。いわゆる学園祭といった部類になるのだが、なんと関東の学園祭の盛り上がりランキングでは、常に上位に入っている。
なぜ、地味なイメージのある農大の学園祭が、こんなにも人気となっているのか。それは、訪れる方にメリットがあるから。実際に収穫祭を訪れてみると、収穫祭と名がついているのも納得で、食と食材に関する出店が多い。そう、模擬店の多さと質の高さが人気となっているのだ。
とりわけ目を引くのは、ここは農協かと思うような野菜の販売店が並んでいるエリア。取れたて野菜、産地直送、有機農法野菜、農家指定、幻の・・・、とまあスーパー顔負けの宣伝文句が並んでいる。
これらの野菜は農業に携わる先輩から送ってもらったり、農業研修で訪れた先の農家から送ってもらったりして集めたものになる。
いわゆる最近流行の農家の顔がわかる野菜であり、売る方としても自信を持って売れる品であり、買う方もそれをわかっていて訪れているので、売り切れ続出の大盛況となっている。
また、醸造科、畜産科などもあることから、味噌やジャム、ハムなどといった学生の手作り加工品も人気となっていて、購入する人の長い列ができている。なかには販売と同時にあっという間に売り切れてしまう品もある。
飲食店の種類も多い。定番のものから、日本だけではなく、世界各地から学生が集まっていることから、それぞれの郷土料理の屋台もあり、ショッピングモールのフードコート以上に選ぶのに苦労する。
収穫祭の凄いところは、子供が来ても楽しめるように、ふれあい動物園が設置されていたり、子供が楽しめるスタンプラリーなどといった事も行われていること。
とりわけ、学園祭にふれあい動物園があるというのは、農大ならでは。他の大学ではまずない。実際、農大には畜産課などがあるので、多くの動物を飼育している。
とはいえ、ふれあい動物園のウサギなどの小動物たちは業者などによるもの(たぶん・・・)。ヤギやわんこは農大で飼育しているものになる。
子供連れで訪れても、色々な体験をさせられるし、農作物なども買える。収穫祭を訪れる人の満足度が高いというのも、実際に訪れてみると、素直に納得できてしまう。
さて、宗教や文化が違う人と話すと、価値観が違うなと感じることが多いが、農大などといった家畜(生産動物)を扱う科に通っている学生や、獣医大学に通う学生と話をすると、同じ日本人で、同じ大学生なのに、価値観が違うなと感じることがある。
日本人は建前と本音と分けるというか、都合の悪いことは誤魔化したり、曖昧にする。動物愛護みたいなこともそうで、口ではきれいごとしか言わないが、言ったことを行動する人は少ない。
生産動物や実験動物を扱っている学生は、そのへんは割り切っていて、ストレートに言ってくる。命は大事だが、世の中、きれいごとを言っているだけでは回らない。肉や卵などを食べている以上、現実的に考えないといけない。と。
例えば、海外では今でも動物を生贄にした祭礼が行われている。そういった祭礼を訪れた体験を話すと、普通の人は残酷だよね・・・とか、ひどい話だね・・・となるのだが、畜産の学生などは、家畜はそういった運命だからしょうがない。人の役に立って死んだのなら・・・。と違った反応が返ってくる。
もちろん、彼らは動物が嫌いなわけではない。いや、むしろ好きなのだ。でも、畜産、酪農、獣医などといったことに携わると、私のようにただペットが可愛いとか、偶然出会う動物が可愛いという薄っぺらい感情だけでは務まらない。もっと深い部分で関わらないといけないのだ。学生時代、農大の人達と話し、色々と考えさせられたのは、いい経験となっている。
東京編 世田谷7(東京農大) 世田谷8(園芸高校)につづく