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旅人の歯医者日記

第2章 折れてしまった前歯
#2-10 復活した前歯

1999年5~6月

出来上がった差し歯を差すと、久しぶりにあるべき場所に前歯が復活しました。(*第2章は全16ページ)

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27、念入りな型取り

震えるイメージ(*イラスト:サウナ猫さん)

(*イラスト:サウナ猫さん)

説明を受けた次の診察の時に、「セラミック製にします・・・」と、金額が金額だけに少し震えるような声で先生に伝えると、「そうですか。そのほうがいいですよ。」と笑顔で言われ、治療が始まった。

今日の治療は、そのセラミックの差し歯を作るための型取りを行うのだが、その前に土台部分を少し削り、最終的な仕上げを行うとのこと。まずは歯の状態を確認し、それから麻酔を打たれた。前歯への麻酔は相変わらず痛いが、我慢我慢。きっとこれが最後になるだろう。

麻酔が効いたら、土台となる部分の形をドリルで削って整え、最後に歯の表面の研磨を行って、最終仕上げが終わった。

歯の型取りのイメージ(*イラスト:浅水シマさん)

(*イラスト:浅水シマさん)

続いて型取り。型取りは歯科衛生士の担当になる。ピンク色の粘土みたいなものをこねくり、プニプニになったら金型に付け、その金型ごと口の中に入れ、固まるまで待つといった流れになる。

虫歯の治療で、削ったところに金属の詰め物をする場合には、必ずこの型取りを行って、詰め物を制作する。今まで何度となく型取りをしてきたので、いつものやつね・・・といった感じで気楽に構えていたのだが、今回はちょっと様子が違った。

始める前に先生が、「前歯は一番前にあり、物をかみ切ったりととても重要な役割をしています。それだけではなく、一番目立つ場所にあるので、見た目も大事です。だから歯型やかみ合わせにきちんと合う前歯を作らなければなりません。そのため前歯の部分だけではなく、口全体の型取りを何回か行います。」と言っていたが、口全体のもの、上顎だけのもの、前歯の部分と、都合、5回も型を取る粘土みたいなのを口に入れられたのには、閉口。

ストップウォッチのアラームが鳴り、固まった型を口から出したと思ったら、「次はこれです」と、すぐに別の型を口の中に入れられるから堪らない。口の中はゴムっぽい香りが充満し、3回目を終えると、さすがに気持ち悪くなってきた。

歯の型取りのイメージ(*イラスト:改築工房さん)

(*イラスト:改築工房さん)

型取りをしている間は、ただじっとしているだけなので、楽といえば楽なのだが、喉の奥の方へ金型を突っ込まれるし、口の中に大きなものが入った状態でジッとしているのも息苦しいし、そこまで香りは強くないが、ゴムのような嫌な風味が口の中に広がるしと、1回やるのならそう苦痛に感じないが、何回も続けてやるのは楽ではない。

これが最後です。と、最後の型取りが終わると、ようやく終わった・・・と、安堵。今回の前歯の差し歯の治療では、他の歯と同じような治療をするにしても、辛さが何倍増しといったことが多い・・・。

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型取りが終わると、型取りの後始末・・・。何気に、このピンクの粘土みたいなものは粘着力があるので、口の周りや口の中にぺたぺたと引っ付く。

後処理も大変で、口の周りにご飯粒のように引っ付いているものをとったり、餅のように口の中に引っ付いているのを取ったりと大変。最後にうがいをすると、ピンク色の破片が沢山出てきて、なんだか吐血した病人みたい・・・やれやれといった感じ。

それにしても、今回は随分と念入りな型取りだったな・・・。物が高いだけに歯医者の方も失敗すると大損を被る事になるのかな。いや、まてよ・・・。昔、奥歯の型取りをしているときに寝てしまい、型がずれて銀歯がはまらなかったことがあったな。もしかしてそれを覚えているのだろうか。

回想するイメージ(*イラスト:ちょこぴよさん)

(*イラスト:ちょこぴよさん)

実はカルテに「型取り要注意人物!」なんて書かれていて、普通の人よりも一回分余計にとっているとか・・・。あまりの回数の多さに疑念がもたげてくるが、きっとこういうものに違いない・・・ということにして、このことは深く考えないようにしよう。

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型取りが終わると、型を取った後に何かが起きてはいけないということで、前歯の部分を覆うようにパテで簡単な前歯を作ってもらった。ちょっといびつな感じの前歯だったが、久しぶりに前歯が復活。前唇に歯が当たる感触がうれしい。

これで前歯が使える。きっと食事もおいしく感じるのだろうな・・・。真っ先にそう頭に浮かんだのだが、頭の中を見透かされたように、「これは仮のものです。取れたり、変な力が加わって神経を傷めるといけませんので、食事の時にはなるべく使わないでください。次回の差し歯を取り付けるまでの辛抱です。」と、先生が一言付け加えた。

なんだ・・・。残念。でも、前歯があるべき場所にあることがうれしくてしょうがない。歯医者からの帰り道も、前歯がある感触がうれしく、何もしないでもニタニタと笑みがこぼれてくる。

やっぱり前歯があるっていいな・・・。気分爽快って感じだな・・・。あまりのうれしさに、歩みが自然とスキップになっていた。

スキップするイメージ(*イラスト:ちょこぴよさん)

(*イラスト:ちょこぴよさん)

28、前歯の復活

17万もする特注品のセラミック製の差し歯。値段も高いし、物がものだけに、出来上がるまでかなり時間がかかるのだろう・・・と思ったのだが、意外にも1週間でできあがるとのこと。

「次回の予約は1週間以上開けてください。」と言われれば、付けるなら早いに越したことはない!ということで、型取りをした一週間後の予約を入れた。

そして今日がその日。歯医者を訪れる前に、銀行のATMに立ち寄り、17万円もの大金を口座から下ろし、そのお金を鞄に忍ばせ、いざ歯医者へ。

ATMでお金を下すイメージ(*イラスト:ささくれさん)

(*イラスト:ささくれさん)

いよいよ前歯が出来上がる・・・。これで前歯が完全に復活する・・・。まるで子供が遠足に行くときのような興奮状態で、歯医者へ向かった・・・と書きたいところだが、その対価が17万円と高額では、少し冷めた感じになってしまうものだ。うれしいにはうれしいが、落ち着いた足取りで歯医者へ向かい、自動ドアを開けた。

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名前を呼ばれ、診察室に案内されると、診察椅子の横にあるテーブルに見慣れないものが置いてあった。それは石膏の歯型。よく見ると、上あごの前歯の部分が差し歯になっている。ということは、これは前回の型取りで作った私の顎の全体の模型か。

石膏の歯の模型のイメージ(*イラスト:acworksさん)

(*画像:acworksさん)

これは凄い。自分の歯型が丸々模型になっていることに感激。あれだけ念入りに型取りをしただけあって、本当によくできている。

自分の歯をレントゲンや鏡越しには見たことがあるが、こう立体的で精巧な模型として見るのは初めてだ。というより、こんな状態で自分の歯型を見たことのある人は、ごく少数だろう。

これは記念にぜひ欲しい。後で先生に頼んでみよう。と、最初は思ったのだが、先生が来るまでまじまじと眺めていたら、感動でのぼせあがっていた頭が冷静に戻った。

気が付くイメージ(*イラスト:ネムACさん)

(*イラスト:ネムACさん)

これはすぐにゴミ箱行きになりそうだ・・・。なにせ私のいびつな歯型がリアルに再現されているので、あまり見た目が美しくない・・・。おまけに前歯の差し歯をとってしまったら、肝心の前歯が歯抜け状態になってしまうので、みっともない・・・。

それに、これって・・・、わざわざ歯の模型ごと納品しなくても、奥歯の時のように差し歯だけの方が手間が省けていいのでは・・・。冷静になってみると、そう疑問がもたげてきたが、まあ17万円も払うので、高級品のパッケージに重厚感や高級感があるように、こういう豪華な演出があっても悪くないかもしれない。

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先生がやってきた。早速、先生に歯型の模型の凄さに感動したことを伝えると、「前歯の差し歯をつくる時には、口全体の模型を作って、その歯型から口にあったものを推測し、作っていくので、手間がもの凄くかかっているんですよ。」と解説し、「こういう歯を作っている人を歯科技工士といって、いつも頼んでいるところは優秀な人が多いんですよ。歯に関しては何でも作ってしまうぐらい、もの凄い技術を持っていて、我々も助かっています。」とも教えてくれた。

歯科技工士のイメージ(*イラスト:ありなか本舗さん)

(*イラスト:ありなか本舗さん)

なるほど。歯科技工士という職業の人が歯を作っているんだ。私のようないびつな歯型だと、担当になった歯科技工士はさぞ作るのに苦労したことだろう。その技工士に感謝しなければな。

話が終わると、椅子が倒されて、治療が始まった。まずは前歯に付けていた応急の被せ物を外し、土台部分を洗浄や消毒をした後に、いよいよ差し歯の取付。でも、いきなり接着剤を付けてがっちりと取り付けることはせずに、まずは仮止めという形で取り付ける。

仮止めにするのは、まだこの段階で完全に神経が安定していないので、とりあえず付けてみて、もし取り付けた事で炎症を起こしてしまったら、すぐに外して神経を取る治療をできるようにするため。

もしそんなことになってしまうと、せっかく差し歯をさせるところまで進んだ治療が、一気に後退。更に治療期間が延びてしまうので勘弁して欲しい。

歯がそろうイメージ(*イラスト:ごまめさん)

(*イラスト:ごまめさん)

差し歯を取り付けてみると、見事に2つともぴったりと歯にはまった。先生が「隣り合わせの歯が二つ同時だと、なかなか合わせるのが難しいんですよ」と言っていたが、すごい精度で造られていて、付けた感じの違和感も全くない。本当に作ってくれた人はいい仕事をしてくれた。

取り付けた後は、噛んだり、歯ぎしりをしながら軽くかみ合わせを調整し、歯の表面を磨いて、今日の治療は終了。

仮止めとはいえ、久しぶりに前歯が前歯のあるべきところに戻ってきた。先週取り付けてもらった先生の手製の前歯も良かったが、ちょっといびつな形をしていたし、表面もちょっとザラっとした感じだったので、正規のタイヤとは違う予備のスペアタイヤみたいな感じだった。

でも今日取り付けてもらったのは他の歯と同じようなツルっとした舌触りで、光沢もばっちり。舌で触った感じが心地いい。この感触にはただただ感激。

ピカピカの差し歯のイメージ(*イラスト:mmikさん)

(*イラスト:mmikさん)

前歯があるっていうのはいいもんだ・・・。他の歯に比べると少し白い前歯をきらりと輝かせながら歯医者からの帰り道を歩いた。

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差し歯を付けたその日はうれしさしか感じなかったのだが、付けて三日も経つと、少し不満を感じてきた。

差し歯を入れる前は、せっかく17万円もする差し歯を入れるのだから、何か変わるきっかけにしようなどと思ったのだが、実際に差し歯を付けてみたところで、たいして高揚感が湧いてこない。そう、17万のセラミック製の差し歯を装着してみたものの、全てにおいて普通とか、当たり前なのだ。

前歯の歯並びのイメージ(*イラスト:acworksさん)

(*イラスト:acworksさん)

なにか世界が変わって見える事もなければ、趣味や見聞が広がったり、ステータスが上がるようなこともない。普通、17万も投資すれば所有欲を満たされたり、世界が変わって見えるようなものを買えるのだが、今回は元の状態に近い形に戻っただけ。

他人から、「お~プラスチックではなく、セラミック製だね。いいもの使ってるね。」といったような事を言われることもなければ、自らアピールする場面もない。

トイレの便器にTOTOとロゴが入っているように、歯にもメーカーのロゴでも入っていれば、「おっ、TOTOの歯を入れたんだ。高いけど、耐久性があっていいよね。」とか、「ナイキを使ってるんだ。今流行ってるよね。センスいいね。」といった話にでもなるのだが、それもない。

一味違う歯のイメージ(*イラスト:きゃなぽさん)

(*イラスト:きゃなぽさん)

ほんとうに何の変哲もないただの歯。差し歯として歯がそろったことには感動したが、17万円もするセラミックの歯を入れたことに対しては、ちょっと不満を感じてしまう。

こんなことなら無理してでも金歯にすればよかったかも。金歯だったらすぐ気が付いてもらい、「おっ、金歯入れたね。高かったでしょ。」などと必ず聞いてくるはず。って、そんな考えをしまうのは貧乏性の人だけだろうか・・・。いや、そんなことはない。

というより、高すぎるんだよ。セラミックの差し歯。入れた後に言うのもなんだけど、やっぱりそこが強烈に不満に感じる。

29、とりあえず治療終了

仮止めの状態で1ヵ月近く過ごし、神経の炎症が見られなかったので、正式に取り付ける事になった。

「では差し歯を一旦外します。」と、先生が金具とペンチみたいなものを使うと、すぐにポロっと外れてしまった。今までがっちりと付いている気がしたが、仮止めというだけはある。

差し歯を外すイメージ(*イラスト:丑蟻さん)

(*イラスト:丑蟻さん)

差し歯が外れると、かなりの悪臭が口の中に漂った。一か月間、ずっと履きっぱなしの靴下の臭いといったところだろうか。自分のものとはいえ、なんともひどい臭いだ。

口の中は雑菌の集まりとはよく言う。歯を磨かないと口臭がきつくなったり、ストレスなどで環境が悪くなると、きつい口臭がするというのも、この強烈な臭いを嗅ぐと分かる気がする。

外した差し歯を洗浄し、土台となっている部分も洗い、消毒をした後、接着剤のようなものを入れて、そっとやちょっとでは取れないように固定した。

これで長かった差し歯の治療はほぼ終わり。今回の治療では、強烈な痛さを伴う麻酔を何回か打たれたので、どうも痛い思い出が多い。あの痛い麻酔から開放される事が何よりうれしいい。思えば歯を折った時は気持ちよく気絶していたので、一番痛くなかったかもしれない・・・。

現在はまだ冷たいものを飲んだりすると、若干歯が沁みたりすることがあるけど、それもそのうち治まってくるらしい。そうすれば一件落着・・・、かな。

笑う歯のイメージ(*イラスト:Cranberryさん)

(*イラスト:Cranberryさん)

最後の治療で、「これで差し歯の治療は終わります。前歯の神経は絶対に大丈夫だといった確かなことは言えませんが、今のところは落ち着いているのでおそらく大丈夫だと思います。ただ何かあったら直ぐに来てください。」と念を押され、差し歯の治療が終わった。

やれやれようやく治療が終わった。大きな口を開けてもみっともないということはなくなったし、食事の際にも前歯が普通に使える。後は何事も起こらないことを願うのみ。

事故に遭ったのは不幸だったが、考えたところで、前歯が生えてくるわけでもない。ちゃんと歯がそろったことだし、もう考えないようにしよう。

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いつも受付にいる笑顔の素敵なお姉さんに最後の診察料を払うと、診察カードの予約日を書き込む記入欄が一杯になったので、「今日で治療は終了なので、次回の予約はありませんが、新しいカードを作っておきます。」と、新しいカードを新調してくれた。

これって、また来いということか・・・笑。いや、なにか縁という糸がつながっている感じがしていいかも・・・。と、ちょっと勘違い気味にトキメキを感じてしまう私がいたりして・・・。

診察券のイメージ(*イラスト:01さん)

(*イラスト:01さん)

でも、現実的には苦しい思いをして歯医者に通っているので、カードが一杯になると一回分無料とか、500円引きなどといった、レンタルビデオ店やクリーニング屋のようなサービスがあったほうがいいかも。

受付で売っている歯ブラシを一本でもいいかな。って、そういったサービスを行っている病院を聞いたことがない。まあそんな小手先のサービスよりも診察に力を入れてくれるほが、患者としてはうれしいとなるだろう。

何にしても、これで3枚目の診察カードに突入。歯医者に通い始めてからかれこれ2年以上が経っているので、診察回数も診察経験もどんどんと積み上がってきた。そろそろ歯医者通いの中級者を名乗ってもいいのではないだろうか。

レベルアップのイメージ(*イラスト:ちょこぴよさん)

(*イラスト:ちょこぴよさん)

でも、そんな称号を得るよりも歯医者にかからないことの方がうれしい。お金も時間も無駄にかかってしょうがない。いい加減、歯医者から卒業したいな・・・。そう思うものの、まだ卒業っていう気分ではなかった。

差し歯の治療はとりあえず終わったけど、先生が言うには、神経はまだ100%完全に安定しているとは思えないとのこと。今後、神経が悪さをし出して、差し歯の治療をやり直さなければならない可能性も少なからずあるそうだ。それに口の中でまた別の問題も起きつつあった。困ったことに、私の歯医者生活はまだ続いていきそうだ。

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第2章 折れてしまった前歯
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