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旅人の歯医者日記

第2章 折れてしまった前歯
#2-11 親知らずが生えてきた!

1999年5月~6月

すくすくと生えてきた親知らず。口の中に新しい仲間が増えた・・・と歓迎される存在とはなりませんでした。(*第2章は全16ページ)

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30、親知らずが生えてきた!

スキーで事故のイメージ(*イラスト:acworksさん)

(*イラスト:acworksさん)

スキーに行って不運にも折れてしまった前歯は、4カ月ちょっとの病院通いと、17万円もするセラミックの差し歯を取り付けたことで、見た目にも、機能的にも、なんとか元に近い状態に戻った。

でも、最後の診察を終えた時、「これで完治した!もう歯医者に来ることは当分ないぞ・・・」とは、思えなかった。また近い内に歯医者を訪れることになるのでは・・・といった予兆があったからだ。

歯並びのイメージ(*イラスト:Take2さん)

(*イラスト:Take2さん)

その予兆というのは、前歯から数えて8番目の歯、歯並びの一番奥に位置する親知らず。親知らずというのは、永久歯、いわゆる大人の歯の中で一番最後に生えてくる歯で、一般的には20歳ころから生えてくる。

正式な名称は第三大臼歯とか、智歯というのだが・・・、親知らずの呼び方が浸透しすぎて、この呼び方は歯医者関係の人とか、親知らず関連の病気になった人ぐらいしか知らないと思う。

それにしても・・・、親知らずとは随分と思い切った名を付けたものだ。昔の短命だった時代には、成人式を迎える頃にはもう親が他界していて、親の存在を知ることなくこの歯は生えてきたということなのだろう。

葬式のイメージ(*イラスト:s*******************mさん)

(*イラスト:s*******************mさん)

真っ先にそう思ってしまったのだが、調べてみるとそうではなく、親に知られることなく生えてくる歯だから、こういう名になったそうだ。昔は20にもなると、家元を離れ、親から独立していたからなのかな・・・。

現在でも反抗期を過ぎると、積極的に親とコミュニケーションを取ることがなくなり、「歯が生えてきたよ!」などと子供じみたことをわざわざ親に報告する人は少ない・・・と思う。そういう意味では、今でも共感できる呼び名となるだろうか。

顎のイメージ(*イラスト:筒井よしほさん)

(*イラスト:筒井よしほさん)

で、その親知らずの何が問題になっていたかというと、事故で前歯が折れた時、上の奥歯の親知らずにも痛みを感じていた。

最初の診察の時に、「親知らずもなんだか痛いのですが、大丈夫でしょうか・・・」と、先生に尋ねてみたのだが、「レントゲン写真を見る限りでは、特に異常は見当たりません。恐らく、この痛みは親知らずというよりも、顎全体の打撲によるものではないか・・・」との事だった。気絶するほどの強い衝撃を受けたので、恐らく顎にもかなり強い衝撃を受けたのだろう。

親知らずに関しては、事故に遭う前から少し生えかけてはいたのだが、非常にゆっくりとしたペースで、顔は出してみたものの、恥ずかしがって出てくるのをやめてしまった・・・といった状態だった。

スイッチオンのイメージ(*イラスト:Cranberryさん)

(*イラスト:Cranberryさん)

しかし、強い衝撃を受けたことでスイッチが入ってしまい、俄然、やる気モードになってしまったのか。それとも、「スキーで前歯が折れ、親知らずも痛い・・・」と親にその存在を告げたので、親知らずという呪縛から解放されてしまったのか。

或いは、親知らずが痛いな・・・と、日々その存在を気にかけるようになったので、愛情を受けていると勘違いしてしまったのか。そのへんの事情はよくわからないが、その事故以降は急激に伸びてきた。

ぴゃしらずが生えてくるイメージ(*イラスト:ひとりごとさん)

(*イラスト:ひとりごとさん)

もちろん、親知らずが生えてくること自体は正常なこと。なので、普通の人にとっては口の中に新しい仲間が増えるというだけで、何も問題はない。

しかし、私のように歯並びが悪く、ちゃんと歯が生えてくる場所がない場合は、生えてくることによって何かしらの問題が生じる可能性が高い。

31、矯正が必要な歯並び

私の顎は歯並びに対して小さく、うまく大人の歯が生え揃わなかった。全体的に凸凹と不揃いだが、上あごは外側に一本、下あごは内側に一本、大きく歯並びからズレた歯がある。

小学校での歯科検診の際には、毎回「矯正したほうが将来のためにもいいのでは・・・」と言われ、もらって帰る健康診断の紙にも、「矯正が望ましい」と書かれていた。

歯科検診のイメージ(*イラスト:ましろようさん)

(*イラスト:ましろようさん)

さすがに親も心配になったようで、小学校高学年の時に母親に連れられて矯正歯科を訪れたのだが、私ほど歯並びが悪いと歯を動かす量が多くなるので、期間は年単位になり、最低2年、いや、恐らく3年はかかり、その後もリバウンド対策のケアが必要になるかもしれないと言われた。

期間の長さに驚いたのだが、それ以上に驚いたのが、費用が100万円かかること。小学生の私にとっての100万円は、大判小判がざっくざっくといった金額。それを歯並びを整えるために使うなんて言われれば、額の大きさに腰が抜けそうになる。というより、歯並びを治すのに100万円かかると言われて、その金額に驚かない小学生はいないと思う。

大判小判のイメージ(*イラスト:やじきた道中さん)

(*イラスト:やじきた道中さん)

もちろん小学生の私がそれを払うわけではない。払うのは親になる。親の給料とか、貯蓄の額とか知らないので、親にとっての100万円がどういう金額になるのかよくわからないが、この昭和60年頃のカローラ(トヨタの一般大衆車)が120万円ぐらいなので、100万円あれば安い車が買えてしまう額になる。

小学生の私ほど大きな金額とは感じないだろうが、決して小さな金額ではない。いや、うちの母親にとっては十分大きな金額だったようで、先生から見積もり金額を聞いた際には、「えっ、そんなにかかるの・・・」というようなひどく驚く顔をしていた。

この日は簡単な歯並びの検査と矯正の説明を受けただけで、「主人とよく考えて決めます。」と見積もりとパンフレットをもらい、親子ともども金額の大きさにおののきながら歯医者を後にした。

見積もりにおののくイメージ(*イラスト:ちょこぴよさん)

(*イラスト:ちょこぴよさん)

夕食の時に、帰宅した父親を交えて私の矯正について話し合うのだが、いくら可愛い子供のためとはいえ、絶対治さなければならない健康上の問題ならまだしも、歯並びを整えるために100万かかると言われれば、子供の私が悩む以上に親は色々と考えてしまうのだろう。話す口調が重い。

もし私の親が歯並びで苦労してきたのなら、100万払ってでも自分の子供には同じ苦労をさせたくないということになるだろうが、そうでもない。ここのところの景気上昇で給料が増えているとのことだが、100万をためらいなしにポンと払えるだけの高収入をもらっているわけでない。

20~30万ならともかく、家を建てたばかりで100万は・・・といった感じで、現実と子供のためという親心が複雑に交錯し、悩める父親と母親になっていた。

悩む夫婦のイメージ(*イラスト:tomoeさん)

(*イラスト:tomoeさん)

そんな両親の会話や、病院では金額を聞いたときの母親の驚く顔を見てしまったので、私としても自分から積極的に矯正したいとは言いにくい。

そもそもとして、現状で凄く困っているというわけでもないし、食事だって普通にできる。周りの大人たちは「将来のため・・・」とか、「大人になったら困る・・・」と言うが、そんなに困るものなのだろうか。そのへんのところ、いわゆる100万の対価が全く見えてこないので、100万が無駄に高く思えてしょうがない。

私的にはわざわざ100万払ってまで・・・と遠慮していたのだが、親が自分の親に事情を話すと、資産家の祖母が可愛い孫のためなら出してあげると言ってくれ、費用面の心配はなくなった。

なので、矯正をしてもよかったのだが、ここからは私の強いこだわりが邪魔をした。歯の矯正治療では、歯並びを整えるためにワイヤのような金具を歯に取り付けることになる。私の場合は上下ともに矯正が必要なので、上下の歯に取り付けなければならない。

歯の矯正のイメージ(*イラスト:ののさん)

(*イラスト:ののさん)

このワイヤーみたいな金具を取り付けた様子が、まるでロボットみたいでカッコ悪いのだ。あれを自分が付けた姿を想像すると、寒気がしてくる。

この時代で言うなら、まるでキン肉マンに出てくるステカセキングみたい。ウオーズマンならまだしも、そんな変なあだ名を付けられたら堪らない。というか、実際にそうからかわれている同級生がいた。

その彼は上の歯だけだったので、上下の歯に付けたらそれ以上に酷いことになってしまいそう。そういった不幸が自分の身に降りかかってきたら大変だ。

何を大袈裟なと言うかもしれないが、今と違ってこの時代はまだ歯の矯正は世間では一般的ではなかったので、やっている人はもの凄く目立っていた。なので、「何それ」「何のためにやっているの」「痛くない?」「邪魔じゃない?」「矯正ってなに?」と注目の的となるのは必定だった。

歯の矯正をしたイメージ(*イラスト:あぶくさん)

(*イラスト:あぶくさん)

しかも、1カ月とか、数か月ならともかく、2、3年かかるということは、少なくとも小学校に在学中はずっとあのワイヤーを付けた状態で、そうステカセキングのような恰好で過ごさなければならない。それは考えただけで苦痛だ。

それに、みんな「将来のために歯を矯正した方がいい」と言うが、現状で特に困っているわけではない。歯並びが悪いのも個性ってことでいいではないか・・・。とまあ、後の利益よりも目先の快適さといった感じで、「お金がもったいない」「特に困っていない」などと断ってしまった。

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そういった矯正を必要とするような私の窮屈な歯並びの中に、新しく親知らずが生えてくるとなると、正常に生えてこれるはずがない。少し外側に飛び出るような感じで、斜めに生えてきていた。

最近では歯磨きを真面目にやっているとはいえ、歯が出っ張っていると奥まで歯ブラシが届きにくく、いずれ虫歯になってしまいそう。それに外側に飛び出ているので、食事中に口の中を噛むことも増えた。

親知らずのイメージ(*イラスト:swaroさん)

(*イラスト:swaroさん)

でもまあ、あるのとないのとを比べると、ない方が快適に過ごせるのだろうが、もの凄く邪魔とか、生活に支障をきたすほどではない。それに、生えてくることに痛みはなかったし、他の歯に悪さをする感じでもない。

なので、急いでどうのこうのするのではなく、ある程度生えた後、あまりにも邪魔だったら抜歯してもらおうかと思っていた。

で、事故に遭ってから約3か月後、仮止めだが前歯に無事に差し歯が入り、ようやく治療が一段落した。その頃には親知らずが結構伸びてきていて、ちょっと邪魔に感じていた。

そろそろ前歯の治療が終わるし、また改めて歯医者にくるのも面倒だし、先生に「親知らずが結構伸びてきて、斜めに生えているからちょっと邪魔に感じるのですが、どうしたらいいですか。」と相談してみたのだが、「酷く他の歯に干渉をしているわけではないので、今無理に抜く必要もない気がします。そのうち歯並びが整って、今よりましになる可能性もありますし、ちゃんと生えてから考えてもいいのでは・・・」とのことだった。

説明を聞くイメージ(*イラスト:ちょこぴよさん)

(*イラスト:ちょこぴよさん)

私的には、けっこう邪魔になってきたので、今すぐ抜いてくれるとうれしいな・・・といった感じでの相談だったのだが、先生的にはそんなに邪魔になっているとは感じなく、抜くほど大袈裟な状態ではないとの判断だった。

そんなものか・・・。まあ、もの凄く邪魔というわけではないし、今後落ち着いてくれるならそれはそれでいい。ちょっと歯磨きがしにくくて困っているけど、仮に虫歯になったとしても抜いてしまえばいいことだし、とりあえずこのままほっておくか・・・。と納得し、歯医者を後にした。

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第2章 折れてしまった前歯
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