旅人とわんこの日々 タイトル

旅人とわんこの日々
世田谷編 2003年Page20

ワンコのいる日常と旅についてつづった写真ブログです。

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27、帰国2周年に感じた現実(2003年10月中旬)

ユーラシア大陸を横断のイメージ(地理院の地図)
ユーラシア大陸横断のイメージ

国土地理院地図を書き込んで使用

ユーラシア大陸横断から帰国して2年が経った。このユーラシア大陸横断にあたっては、旅費として100万円ちょっと用意した。これを旅の資金とし、期間は特に決めてはいなかったが、1年を目安に旅立った。

実際にいくら使うかは旅をしてみないとわからない。旅を進めながら出費を調整し、足りなければ1年よりも短くなったり、途中で帰国ということになる。想定通りだったり、うまく調整できれば1年ぐらいでゴールのロカ岬に到着できる。

逆に、出費を抑えることができれば、もっと長く旅ができるかもしれない・・・ってな感じで、旅の長さはもちろんこと、成否や濃淡に至るまで、全ては手持ちのお金次第という旅だった。

大切なお金のイメージ(*イラスト:kogaさん)

(*イラスト:kogaさん 【イラストAC】

今ではクレジットカードや銀行カードのキャッシング、スマホ決済などが主流になっているが、この時代はスマホはなく、各種カードのキャッシングはぼったくりのような両替レートだったし、引出しの上限も低く、提携先も限られていた。

複数の国をまたいで旅行したり、インフラが整っていない国を訪れる場合には、一般的な方法にはなりにくく、緊急用とか、それなりに高級なホテルやレストランでの使用に使う程度。手持ちのお金こそが全てと言っても過言ではなかった。

では、旅のお金はどうしていたのか。旅費の全部を現金で持っていたのか。いやいや、そんな危険なことはできない。盗難にあったら一発で旅が終わってしまう。

トラベラーズチェックのイメージ(*写真:sakurachanneさん)

(*写真:sakurachanneさん 【イラストAC】

この時代で最も一般的だったのは、紛失したり、盗難にあった時に再発行できるトラベラーズチェック。いわゆる旅行者用の小切手を使用していた。

と言っても、実際は旅行中に盗難に遭っても、すぐに再発行してもらえるとは限らないので、盗難に遭うと旅が終わってしまったり、旅程の妥協を大幅に変更せざる得ないという点ではあまり変わりがなかったりする。旅行用保険と一緒で、後から損害分が戻ってくるといった認識の方が正しい。

「そのトラベラーズチェックって何?聞いたことがないんだけど・・・」という人も多いと思う。時代の流れを感じるが、もう今では使用されていない(日本では2014年廃止)ので、知らない人も多いことだろう。

トラベラーズチェックは、その額面通りに使用できる小切手で、建前としてはどこでも使用できるが、基本的には銀行や両替所で現地通過に両替するのが一般的だった。

大切なお金のイメージ(*イラスト:zigzagさん)

(*イラスト:zigzagさん 【イラストAC】

両替に当たっては、その場で小切手にサインをし、パスポートで本人確認をして使用する。扱っていな銀行もあったり、使用に手間や不便さはあったが、現金よりもレートが良かったし、盗難・紛失の際に再発行ができるといった安心感があるので、多くの旅行者が使用していた。

しかしキャッシングやクレジットカードが使いやすくなり、一般的な方法になっていくと、使用者は激減。現在ではもう過去の遺物となってしまった。

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トラベラーズチェックの話が長くなってしまったが、私の旅に話を戻そう。実際に旅を始めてみると、ベトナムでホームステイをしたり、物価の安いインドネシアでの滞在が長かったおかげで、思いのほかお金が減らなかった。

ベトナムで結婚式に呼ばれたときの写真
ベトナムで結婚式に呼ばれたとき

おかげで旅を長く続けることはできたが、困ったことに旅のペースも上がらず、出国して1年経ってもまだアジアを抜けきれず、ネパールに滞在していた。

1年旅をしてユーラシア大陸の半分の地点。この後どうしよう。残りの資金を考えると、物価の高いヨーロッパを横断してユーラシア大陸の最西端のロカ岬にたどり着くのは厳しい。

あまり寄り道をせずに、ぱっぱと向かえば行くことも可能だが、ロカ岬は陸続きでしっかりと旅して行かなければ、きっと単なる大西洋に面した岬としか感じないだろう。

親に無心してロカ岬を目指すこともできるが、限られた時間と限られた資金で旅することに意義があるってなもの。自分の中で色々と考え、中東までしっかりと旅をして帰国することにした。

旅費がなくなるイメージ(*イラスト:romaromaさん)

(*イラスト:romaromaさん 【イラストAC】

帰国を具体的に考えたのは、1年と半年経った夏前。予算の底も見えてきたし、好きな国であるトルコ一周を行い、自分らしい旅の締めくくりもできた。

後は日本に戻りながらタイで暮らす友人宅や、往路でホームステイしたベトナムの家族、そして香港の友人の所に寄りながら、のんびりお金をかけずに滞在しよう。帰国は今年中にしよう。そうだな。年が明ける前、12月の初旬が色々と都合がいい。

私の旅が半年延びようと、仮に何年旅をしていようと、親以外には迷惑がかけるわけではない。なので、最後に少しのんびりと海外滞在を楽しんで帰ろう。そう漠然と思っていた。

結婚式の招待状のイメージ(*イラスト:yu2さん)

(*イラスト:yu2さん 【イラストAC】

しかし、私の帰国を首を長くして待っている後輩が一人いた。その後輩は10月に結婚式を行う予定にしていて、ぜひ私に出席して欲しいと思っていたのだが、帰国がずるずると延びて、このままでは式の前に帰って来そうにない。

慌てて10月に行う結婚式を行います。ぜひ参加して欲しです。それまでに帰国してくださいと、催促とお願いのメールが届き、実家には結婚式の招待状が届いた。

さてどうするか・・。うん、まあ、仕方ないな・・・。これもまた巡り合わせという奴だろう。と、結婚式に合わせて10月に日本に帰国することにした。

後輩の結婚式の一コマの写真
後輩の結婚式の一コマ

先日、その私に早期帰国を決断させた後輩から連絡があった。「無事に子供が生まれました。ぜひ会いに来てください」とのこと。わざわざ知らせてくることから、余程うれしかったに違いない。

まあ時間はあるし、久しぶりに会いに行ってみるか。ちょうど帰国して2周年。彼らが結婚しても2周年になる。同じく結婚式に呼ばれた友人とともに、その後輩が暮らす群馬までツーリングに出かけることにした。

水沢観音で友人と記念撮影した写真
水沢観音
榛名湖の写真
榛名湖

せっかく群馬に行くのだからと、榛名湖や水沢観音に立ち寄ってみた。なぜ榛名湖なのか。それはアニメ頭文字D(車の走り屋系のアニメ)の影響・・・ってやつ。

バイクサークルに所属していたので、周囲には走りに熱い人間が多い。我々の中では昔からよく頭文字Dは話題に上っていたので、まあ聖地巡礼ってことになるだろうか。

さすがに寒い時期だし、天気もいまいちだったので、頑張って走ったりはしなかったが、紅葉はきれいだったし、ワカサギ定食もまずまずおいしく、楽しむことができた。

後輩とジュニアの写真
後輩とジュニア

その後友人宅を訪れ、ジュニアと初対面。のろけながら「どっちに似ているか?」などと聞かれても、生まれて間もないと、父親に似てるとか、似ていないとか、返答に困る。

こういうことはお世辞で言っておけばいいのだろうけど、私の中で感想に困ってしまう理由がもう一つあった。

夢と現実のイメージ(*イラスト:カフェラテさん)

(*イラスト:カフェラテさん 【イラストAC】

私がユーラシア大陸横断を行う時に、夢か現実かで迷いに迷った。世界を股に掛けるような旅をすることは、小さなころからの夢だった。しかし、現実には仕事をやめなければ、それを行うことはできない。

夢をとれば現実を失う。現実を優先すれば夢は諦めなければならない。どっちの選択をすることが自分にとって最善なのだろう。どっちが後悔しないだろう。いわゆる究極の選択になる。

で、どちらを選んでもいずれ後悔しそうだ。だったらやって後悔したほうがいいのでは・・・。最終的にそう決断し、仕事を辞めて旅立つことにした。

世界を旅するイメージ(*イラスト:ジュンズ10さん)

(*イラスト:ジュンズ10さん)

波乱万丈な1年9カ月ほどの旅を終え、充実した気分で帰国した。多くの経験を積んだので、これを役立てていけば、私の未来は開けている。なんて思いつつ、日常に戻ろうとするのだが、思っていた以上に自分が世の中から取り残されていることを悟り、ショックを受けた。

私自身は出発して数か月後に帰ってきたぐらいの気持ちなのだが、地に足を付けて過ごしていた人には、しっかりと2年近い月日が流れている。色々とギャップを感じてしまうのも無理もない。

出世をしている人。給料が上がっている人。色々と資格をとっている人。まあ上げればきりがないが、そういった話を聞くと、自分が取り残されている感を感じる。

特に人の心の変化は大きく、もう忘れられた存在というのは大袈裟だが、いわゆる浦島太郎状態になってしまっていた。

浦島太郎のイメージ(*イラスト:はりうーさん)

(*イラスト:はりうーさん 【イラストAC】

今から挽回するのは大変だが、色々と挽回していかなければ・・・。帰国してからしばらくして就職し、一から生活を立て直すのだが、ずっと真面目に働いていた人との差はなかなか縮まらない。いや、むしろ開く一方ではないか。

でも、年収が100万違ってもそこまで気にはならない。それ以上の経験をしてきたし、その経験を活かすことができれば逆転も可能だろう。それに旅行記を書いたり、写真を売ったりすればお金も入ってくるかもしれない。

主任になっていたり、係長になっていたりと、立場が開いているのも気にならない。自分らしさを大事にしているので、そんな肩書など気にならないし、多くの人に会い、多くの文化を体験し、多くの困難を乗り越えてきたので、いずれひっくり返すこともできるのではないか。

マイホームのイメージ(*イラスト:うさぎやさん)

(*イラスト:うさぎやさん 【イラストAC】

いい車や家を購入している同僚もいる。うらやましいにはうらやましいが、お金で買えるものにそんなに価値を見出さない。プライスレスな体験こそが本当に価値があると私は思っている。

強がりも入っているが、こういったことはある程度覚悟して旅に出ているので、そこまで気にはならなかった。

でも、子供の場合は違う。ある意味、堅気に生きている人達の象徴的な存在であり、私が最も大切にしているプライスレスな存在。実際に後輩の子供を目の当たりにすると、埋められない絶望的な差を見てしまったようで、とても複雑な心境になってくる。

赤ちゃんと幸せな夫婦のイメージ(*イラスト:Bonkoさん)

(*イラスト:Bonkoさん 【イラストAC】

旅をした1年と9カ月。そして帰国してから2年が経った。現実よりも夢を大切にして旅に出たものの、その選択は本当に正しかったのだろうか。

夢を追った結果、理想の現実からはどんどんと離れ、世間と差が開く一方なのではないか。実際に私が失ったものは想像以上に大きかったのではないだろうか。赤ん坊の顔を見ていると、強烈な現実を喉元に突きつけられたような感覚に陥る。

日々真面目に生きている人間からすると、自由に生きている旅人は憧れる存在になるようだが、フラフラと旅をしている人間からすると、堅気に生きている人間の日常に憧れていたりするものだ。まあどちらもないものねだりというやつになるのだろう。

でも、映画「7人の侍」ではないが、最後に笑うのは堅実に生きている人間の方なのだろう。赤ん坊の笑顔がそれを物語っている。

赤ちゃんを抱っこする男性のイメージ(*イラスト:halechanさん)

(*イラスト:halechanさん 【イラストAC】

後輩が「ぜひ抱っこしてやってください。旅人のいい運をください。」と、赤ちゃんを抱っこすることになった。

落としたら大変だ。恐る恐る小さな体を抱っこするのだが、私の腕の中に収まっても、泣かずに無邪気に笑っていた。

その様子を見ていると、様々なことがフラッシュバックしてきて、自分の価値観が一気に崩壊していくような感覚に陥った。実際、一瞬意識が飛びそうになってしまうほど、強烈な体験だった。

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