旅人とわんこの日々 タイトル

旅人とわんこの日々
世田谷編 2005年Page6

世田谷(砧公園)での犬との生活をつづった写真日記です。

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9、サーキットデビュー(2005年6月5日)

お願いするイメージ(*イラスト:ちょこぴよさん)

(*イラスト:ちょこぴよさん 【イラストAC】

5月に行われた第2戦のレース前、ライダーを務めている後輩Kが、「個人的な事情で7月のレースは・・・」「家庭問題を抱えると、今後レース活動ができなくなってしまいます・・・」と、7月に行われる第3戦の辞退を申し出た。

なんと、てっきり全部のレースに出るつもりだと思っていたので、予想外の展開。まあ、義務や仕事ではなく、趣味でやっていること。他に優先しなければならないことがあるのなら、無理強いをするわけにはいかない。

お互いもういい年になり、家庭やら、仕事やら、背負うものも大きくなってきた。困ったときに助け合ったり、快く受け入れるのが、真の仲間ってもの。残念だが、次戦は不参加で、秋のレースに向けて準備をしよう。

頼むイメージ(*イラスト:ちょこぴよさん)

(*イラスト:ちょこぴよさん 【イラストAC】

そういった展開になるはずだったのが、後日、「せっかくレースに出るためにバイクを買ったのだから、できる限り多くのレースに参戦したい。第1戦の時もそうだったけど、一人では出られないんだよ・・・。順位はどうでもいいから出場してくれ。頼む。」と、友人が私に頼んできた。

「えっ、俺が出るの・・・」思ってもいなかった展開になったぞ。友人たちが走っている様子見ていて、ちょこっとだけなら出場してみたいな・・・。サーキットを走ってみたいな・・・といった気持ちはあった。しかし、いきなりレースに出てくれと言われても困る。

野球でエラーするイメージ(*イラスト:mia69さん)

(*イラスト:mia69さん 【イラストAC】

もし、「草野球で人が足りない。出てくれ。」と頼まれたのなら、迷わず「OK」の返事をしただろう。外野に立っているだけで何とかなるし、元々期待されていないから、エラーしようが、三振しようが、笑って済む。

でもレースの場合、そんな単純な話にはならない。期待されていないのは一緒でも、転倒したらリタイアになる可能性があるし、バイクが壊れたり、人間が怪我する可能性だってある。

そもそもとして、私は今まで一度もサーキットを走ったことがない。そんな初心者がいきなりレースに出ては、自分もそうだが、走っている他のライダーも危険が及ぶ。

断るイメージ(*イラスト:ちょこぴよさん)

(*イラスト:ちょこぴよさん 【イラストAC】

「いや、無理じゃない。俺、一度もサーキット走ったことないし、装備とかも持ってない。」そう言うと、「今度、知り合いがイベントの走行会を開くから、その時に練習すればいい。とりあえず、タイムが遅くても大丈夫。出てくれるだけでいいから。」と粘る。

でも、レーシングスーツとか、ブーツは・・・。そのへんは友人も抜かりがなかった。もう既に後輩Kからヘルメット以外のレース用装備を一式借りる確約をしてあった。

そこまでして出て欲しいのなら、出てみようかな・・・。まあ戦力にならないとは思うが・・・。ということで、「しょうがない。一肌脱ごう。」と返事をし、レースに出ることになった。

スポーツランドやまなし 走行会 走行後のバーベキューの様子
走行後のバーベキュー

レースの約1か月ほど前に、練習走行会+バーベキューのイベントがあった。初心者向けの走行会になり、料金的にも手ごろ。レース仲間を増やせば、今後ライダーが足りなくて困ることがなくなる。ということで、大学時代のバイク仲間に声を掛けてみると、何人か集まり、一緒に参加することになった。

その走行会でのこと。今まで友人たちがレースで走っているのを見て、簡単そう・・・とはさすがに思わないが、普段からバイクには乗っているし、友人たちとも一緒にツーリングへ行き、峠などを一緒に走っているので、俺でもそこそこいけるんじゃない?ってな自信が少しだけあった。

友人とどれぐらいの差があるのだろうか。同じバイクで、同じコースを走れば、ラップタイムという明確な数字で実力差がわかってしまう。それがサーキット走行というもの。

いきなり友人のタイムを抜いてしまったりして・・・。いや、もしかしたらコースレコードを塗り替えてしまうってことだってありえる・・・。走る前は根拠のない自信から期待が無限に高まる。

計測のイメージ(*イラスト:ニッキーさん)

(*イラスト:ニッキーさん 【イラストAC】

よしっ、俺の実力を見せてやる!と、自信過剰気味にサーキットデビュー。しかし、実際にバイクを走らせてみると、頭の中でイメージした通りに走れない。当たり前のことだが、サーキットを初めて走る人間が、いきなりレーサーのように走れるわけがない。

特に困ったのがブレーキ。根っからのツーリングライダーである私は、普段あまり強くブレーキをかけることがないので、ブレーキのかけ方に苦労し、最初のうちは何度も後輪がロックしてドリフト状態になっていた。(*バイクは自転車と一緒で、前輪と後輪のブレーキが別々の操作になっています。)

なんでこんなに簡単にブレーキがロックするんだ。普段乗っているバイクではこんなことにはならない。ブレーキの遊びが少な過ぎるような・・・。でも、友人たちは普通に乗っていたな・・・。ってことは、俺の乗り方が悪いのかな・・・。いずれにせよ、これでは怖くて思い切ってブレーキをかけることができない。

スポーツランドやまなし 走行会の様子
走行会の様子

一回目の走行を終えた後、友人などに、「コーナーの突込みで後ろのブレーキを踏むと、簡単に後輪がロックして怖いんだけど・・・、バイクがおかしいのかな。それとも乗り方がおかしいのかな。」と尋ねると、「サーキットで走るときには、前輪のブレーキを主に使って、後輪のブレーキはバランスをとるときに補助的に使うぐらいだよ。」と教えてくれた。

そうなんだ。知らなかった・・・。なんでもレース用のバイクは軽くできているし、それなりのスピードから急減速するので、ブレーキ時にはバイクが極端な前過重になる。その時には、後ろのタイヤには荷重がほとんどなく、ブレーキをかけるとロックしやすいんだとか。

しかもここのコースは下り坂でのブレーキが多く、殊更ロックしやすい環境だから、なるべく使わない方がいいとのこと。なるほど。次は気を付けて乗ってみよう。

スポーツランドやまなし 走行会の様子
走行中

二回目の走行では、前ブレーキを意識して乗ってみるものの、慣れない乗り方なので窮屈に感じる。それに慌てたり、侵入スピードに不安があると、つい後ろのブレーキを踏んで、タイヤをロックさせてしまう。なかなか今まで身に沁み付いた癖は抜けないものだ。

それでも意識しながら走らせ続けると、徐々に身体や感覚がバイクやサーキットに慣れ、最後の三回目の走行では、自分なりにいいリズムで走れるようになった。

で、最終的には友人の持ちタイムよりもちょっと遅い程度まで上げることができた。これならまずまず合格点。後輩の代役も務まるだろう。

不満なイメージ(*イラスト:ちょこぴよさん)

(*イラスト:ちょこぴよさん 【イラストAC】

私がそこそこ戦力になることが判明し、友人も喜んで・・・、はいなく、たった一日で、自分のすぐ後ろにまで私が迫ってきたことに不満顔をしていた。ラップタイムというのは残酷なものだ・・・。

とはいえ、走り終わってみると、右手の握力がなく、股関節もつり気味。モータースポーツと名が付くだけあって、サーキット走行は体にきつい。レースではもっと長い時間を走ることになるので、基礎体力をしっかりと付けておかないと、途中で走れなくなってしまいそうだ。

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今回サーキットを走っていて思ったのは、同じバイクを走らせる行為でも、サーキットの走り方と一般道での走り方は随分と違うな・・・ということ。

全日本選手権2002年モテギ レース走行の様子
全日本選手権2002年モテギ

車にしてもバイクにしても、移動を楽に行うための道具である。それを移動手段ではなく、純粋に速く走らせるのがサーキット走行になる。走らせる目的や走らせる環境が違うので、走り方はもちろんのこと、走りながら注意しなければならないポイントも違ってくる。

まず意識の面でいうと、サーキットは公道と違い、対向車はいないし、道路間際にガードレールや崖もない。いきなり道に穴が開いていたり、人や動物が飛び出すようなこともない。もちろんスピード違反で捕まることもない。余計な心配をせず、純粋に走ることに集中できる。

全日本選手権2002年モテギ レース走行の様子
全日本選手権2002年モテギ

また、エスケープゾーンが設けられていたり、衝撃緩和のバリアが設けられていたりしているので、コースオフしても、転倒しても比較的安全。なので、安心して限界付近までチャレンジを行うことができる。

と、頭の中では理解できるのだが、いきなりサーキットを走って、限界付近での走行ができるかと言うと、初心者はなかなか怖くてそうはならない。公道での癖というか、事故ったら大変だといった感覚が頭に沁み付いているので、心の中で大きなブレーキがかかってしまうのだ。

このへんは何度もサーキットに足を運んで、雰囲気に慣れていくしかない。そのうち、自身が持つ安全マージンの殻を破ることができるだろう。

スポーツランドやまなし レース走行の様子

バイクを速く走らせる為には、乗り方にも工夫やテクニックが必要になる。後輪のブレーキもそうだが、限界までバイクを倒しこんだり、ブレーキをギリギリまで遅らせたり、後輪を滑らせないようにフル加速させたりと、明らかに公道とは違った走り方が求められる。

バイクのレ-スと言うと、バイクを思いっきり寝かし込み、膝を路面に擦りながらコーナーを走っているイメージが強いと思う。バイクに乗らない人は、特に気にせず見ているかもしれないが、膝を擦りながらコーナーを曲がっていくことは、バイクに乗る人にとってはちょっとした憧れになっている。

バイクに乗っている人に、サーキットで走ったことがあるといった話をすると、決まって「膝擦って走っていたの?あれ難しいよね。」といった会話になることからも、そのことを実感する。

スポーツランドやまなし レース走行の様子
コーナーリング

この膝を擦りながらコーナーを曲がる行為は、意外と難しい。そういう走り方を心がけないとできないので、バイクに10年乗っているからといって、簡単に膝を擦れるわけではない。

簡単に解説すると、コーナーのイン側にバイクから身体を半身ずらし、地面に肩とか、肘を入れるような感じで、コーナーを曲がっていく。その過程で膝が地面にするといった感じ。決して膝だけを安易に地面に延ばしているわけではない。

バイクのレーサーのイメージ(*イラスト:フリーカットさん)

(*イラスト:フリーカットさん 【イラストAC】

この膝を擦る乗り方をすれば、そうでない乗り方よりも速くコーナーを曲がれる。実はそうでもなかったりする。コーナーリングのスピード自体は、膝を擦らなくても変わらない。むしろ膝を擦らない方が物理的には自然なので、ほんの僅か速いかもしれない。

ただ、コーナーリング中のバイクの安定感は膝を擦った方がいい。なので、侵入速度を少し間違えても微調整がしやすいし、立ち上がりの加速もしやすい。トータルで考えるなら、膝をするほうが安定して速いとなり、多くのライダーが膝を擦りながらコーナーを曲がっている。

スポーツランドやまなし レース走行の様子

だったら公道でもこの乗り方をすればいいんじゃない。なぜ教習所で教えてくれないの。ということになるのだが、この乗り方には致命的な欠点がある。

コーナーの度に体重移動をしなければならないので、足腰の疲れが半端ない。もしツーリングでこの乗り方をしていたら、目的地にたどり着くまでに疲労困憊となってしまう。そもそも限界域で膝を擦らないよりも安定しているという話で、普通の領域では全く変わらない。だったら普通に乗っていたほうがいいとなるのだ。

全日本選手権2002年モテギ レース走行の様子
サーキットの一コマ全日本選手権2002年モテギ

とまあ、サーキットでの走行は、膝を擦りながら走ることを含め、一般公道での走行と比べると、かなり特殊で、似て非なるものといった感じがする。

おまけに、かなりの速度域で走るので、精神的にも疲れるし、ブレーキやアクセルを酷使し、体重移動しながらコーナーを曲がるので肉体的にも疲れる。転んだら怪我をするし、趣味でやるには経済的な負担も大きい。

興味のない人からしたら、やるメリットがないように感じるかもしれないが、それは愚問というもの。何に面白さや楽しさを感じるかは人それぞれ。人よりも速く走らせたいことに情熱を感じる人も多い。

それに、コケたくはない。でももう少しコーナーへの突っ込みを鋭くすればタイムが縮まりそう・・・。サーキットでの走行は向上心と挑戦、スリルと恐怖が混在している感じで、とても刺激的。一度はまると、病みつきになりそう・・・。

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