尾道にゃんこ#4-1
夏休みの尾道にゃんこ 前編
(2021年8月)
夏休み期間中の尾道散策と、その時に出会ったニャンコたちのスケッチです。(*全2ページ)
§1、イントロダクション ~東京オリンピックとコロナ禍~
世間は相変わらずのコロナ禍。終息する気配がない。東京オリンピック2020は、一年遅れでこの夏に無観客で開催されたが、盛り上がりに欠ける微妙な大会になってしまった。
オリンピックが終わると、お盆。昨年は自粛の嵐で、ビックリするほど静かなお盆だったが、今年は世界中から人を集めてオリンピックをやっておきながら、自国民に国内移動の自粛要請を行っても、全く筋が通らない。2年連続で自粛していられるか!といった感じで、人の動きは活発となった。
オリンピックやお盆の副産物と言っていいのかわからないが、ここのところ感染者数が爆発的に増加し、第5波の到来となっている。そして、広島を含め、幾つかの県では、8月後半から三回目になる緊急事態宣言が発動されることとなった。
緊急事態宣言が発令されようが、されまいが、私としてはそこまで暮らしに大きく変わりがないのだが、介護施設に預けている母親は影響が大きい。ただでさえ外出やレクリエーションも制限されているのが、一層厳しい状況になる。ほんとうに楽しみのない生活をしているようだ。
面会もガラス越しなどで行うことができるようになったが、感染者数が増えたり、非常事態宣言が発動されると、収まるまで当面、恐らく数か月は休止となる。
閉鎖された環境の中で、要介護者の集団感染が発生したら大惨事になるので、これはしょうがないこと。諦めるしかない。
最近ではリモート面会という手段を取り入れている施設もあるが、会話もできないほど重度の認知症の母親を画面越しに見ても、ただ悲しくなるだけ。私はやりたいとは思わない。
施設の近くに住んでいる私は、コロナが収まった頃合いを見計らって面会することができるが、東京に住む妹やその子供の場合はそうはいかない。学校を長く休める夏休みぐらいしか、なかなか広島までやって来る機会がない。
昨年は自粛して会っていないし、母親もいつ死ぬかわからない。この夏に会っておかなければ、もしかしたら後悔することになるかも・・・。ということで、非常事態宣言が発令される前に妹が子供を連れてやって来ることになった。
移動は、新幹線か飛行機ということになるのだが、飛行機の方が乗っている時間は短いし、人の出入りが少なく、感染しにくそうだ。それにLCCだと安い。ということから、飛行機を選んだ。
飛行機は速くて便利な乗り物なのだが、難点は飛行機に乗るまでに手間がかかること。特に広島の場合、空港が市内からかなり離れた東広島市の山の中にあるので、飛行場に行く時間や手間を考えると、東京への移動は新幹線の方が楽だし、早いという人が多い。
海外や北海道に行くのなら、空港が少々不便な場所にあってもしょうがない・・・となるのだが、一番のドル箱路線となる東京行きで、新幹線といい勝負では、広島空港の存在意義や経済効果が薄い。実際、広島市内からだと岩国空港も選択肢に入ってくるので、広島空港の利用客は伸び悩んでいる。
山の中にあるので離着陸もしにくいみたいだし、「なんでこんな辺鄙な場所に造った!」って思っている人は多いが、空港建設には必ず騒音問題がセットなるので、なかなか難しい問題でもある。
とまあ、話がそれてしまったが、広島滞在を終えた妹たちが東京に帰る際に、飛行場まで車で送っていくことになった。飛行場の近くには伝統保存地域になっている竹原があるが、マッサンブームの時に連れて行ったことがある。今回はもっと先の尾道まで足を延ばしてみることにした。
§2、子供たちとニャンコ散策
尾道に到着すると、姪や甥が猫に会いたいというので、今まで猫に出会ったスポットを巡ってみることにした。
まずは商店街。春に訪れたときに猫がいた場所を歩いてみたが、今日は姿がない。あまり時間がないし、ここは昭和的な大人の飲み屋街。子供たちにレトロ感満載の情緒が理解できるはずもないので、崖地へ向かった。
常称寺の踏切から登っていくと、レンガ坂の途中に出てしまった。あれっ、こんな場所に出るとは思わなかった。御袖天満宮はどっちだっけ・・・。
一人なら迷子上等といった感じで気ままに歩くのだが、連れがいる場合はそうはいかない。「尾道は任せておきなさい」と言いながら、迷子になっていては信用問題にかかわる・・・。
散策地図を見ながら立ち止まって考えていると、私たちの姿を見つけたにゃんこが、レンガ坂をのそのそと登ってきた。今日最初のにゃんこになる。
「わぁ~、猫だ~」「こっちおいで~」と待ち受ける子供たちに向かって猫がゆっくりとやって来る。なんて人懐っこい猫だ。
ニャンコは、待ち受ける子供たちのもとへやって来て、撫でてくれと催促・・・という展開にはならず、素通り。いや~、待ってよ。こっちにおいでよ。と、子供たちが回り込むものの、あまり子供たちには関心が無さそう。
それよりも私など大人の方を見ている。しかも、何か物欲しそうな顔をしている・・・。
このコロナ禍の中、大久野島のウサギは、来島する観光客が減ったことで、その数が減少しているという。ここの猫たちも、美味しいおやつにありつける機会が減っているのだろう。いかにも観光客っぽい私たちを見つけ、もしかしたら久しぶりにチュルにありつけるのでは・・・。と期待してやってきたような感じだ。
レンガ坂の猫に別れを告げ、大林宣彦監督が手がけた尾道三部作の一つ、映画「転校生」のロケ地で知られる御袖天満宮へやって来た。前回はここで猫に会っている。
拝殿前にはいなかったので、転がり落ちる場面で有名な階段を下りていく。この階段は映画「転校生」の舞台となった有名な階段だよ。転ぶと身体が入れ替わるから気を付けなさい・・・と、今の子供たちに伝えても、「なにそれ」ってな反応。分かるはずがない。
階段を下り、山門をくぐると、下の方の階段で猫さんがくつろいでいた。早速子供たちが寄って行くが、あまり歓迎している様子ではない。いや、むしろ迷惑そう。
猫さんの表情から察するに、階段で寝ていたのは失敗だったな・・・。最近人が少なくて、お気に入りの場所になっていたのに・・・。上の静かな場所に移動しよう・・・。ってなところだろう。
くつろいでいる猫さんの邪魔をしては悪いので、撤収。猫さんは、やっと去ったか・・・と、ホッとした表情になった。というより、近づいてくるならチュルをくれ!ってなものだろうか。
子供たちは猫に会えると期待してやって来たが、もう飽きつつあるようだ。坂が多いし、なかなか猫に出会えないし、出会っても思い描いていたほど猫に愛想がない・・・。
そう、以前訪れた大久野島のウサギは愛嬌があって、歩いているとワラワラと寄ってきた。尾道の猫もそんな感じでフレンドリーに寄ってきて、楽しい時間を過ごせるんじゃないかと期待していたみたいだが、現実はそうでもない。まあ、基本的に猫とはこういうものである。
レトロな雰囲気の御袖天満宮の参道を下っていき、ロープウェイ駅のすぐそばにある艮(うしとら)神社へ。ここには巨大なクスノキがあり、その存在感には子供たちも「凄い!」と驚く。
そのクスノキを仰ぎながら境内を抜けていき、その奥にある猫の細道にやってきた。この路地では道の随所に猫のアートがあり、福石猫という石の猫も置かれている。ジブリチックと表現するのが分かりやすいだろうか。何にしても子供たちが喜びそうな道になる。
以前、私が訪れたのは4月。4月に比べて、今回の方がコケなどの緑が濃く、雰囲気がより引き立っているように感じる。ただ、きつい上り坂を登らなければならないので、暑さと湿気がより堪える・・・。
それにしても・・・、まだ夏休み期間だというのに、観光客の姿がない。さっきから誰とも出会わないし、尾道を訪れる観光客の多くが訪れるここ猫の細道でも、全く人の気配がない。
コロナ禍による移動自粛で、観光地が大打撃を受けているとテレビで報道されているが、状況は想像していた以上に深刻なようだ。
これだけ人がいなければ、観光業の人はやっていられないだろうな・・・。訪れる方としても、空いていていいと思う反面、歩いていても活気がないので、歩きがいとか高揚感が湧き上がってこない。
なので、どうもいまいち気持ちの盛り上がりに欠け、楽しさも六分とか、八分といった感じ。ほんと、早く元通りに戻ってほしい。
猫の細道の途中には、尾道アート館、福石猫神社の案内板が掲げられている門がある。ちょっと怪しい雰囲気がするので、勝手に入っていいのだろうかと迷ってしまうが、営業時間内なら入っても構わない。
中に入っていくと、そこは廃墟を利用した秘密基地のような空間となっている。実際、空き家を利用した施設になり、尾道アート館では、映画のロケについての資料などが展示されているそうだ。
福石猫神社には、丸石に猫の絵が描かれた福石猫がたくさん飾られている。この福石猫は芸術家の園山春二氏が製作し始めたもので、この石を路地に置いたことが始まりで、猫の細道が誕生したというエピソードがある。
福石猫神社の敷地内で黒猫さんに遭遇。出窓の前でのんびりとくつろいでいた。風景と一体化していて、なんかいい感じ。
ただ、抜け毛が多いようで、体毛がまだらな状態になっていた。体調も悪いのか、傍に近寄ってもあまり反応がない。
人の管理下にある半野良猫は、食べるものに苦労しないので、長く生きそうに思っている人も多いようだが、外で暮らすことは様々な病気や外敵との戦いになり、あまり長くは生きられなかったりする。