尾道にゃんこ#8-1
冬の朝の尾道にゃんこ その1
(2023年1月)
冬の朝の尾道散策と、その時に出会ったニャンコたちのスケッチです。(*全4ページ)
§1、イントロダクション ~寒い冬~
この冬はとても寒い。というより、雪が多い。北陸の日本海側を中心に各地で大雪の被害が出ている。
滅多に雪が積もらない広島の瀬戸内沿岸でも、12月中旬にうっすらと雪が積もり、更にはクリスマスイブにも積もった。「12月に雪が積もるのでさえ珍しいのに、2度も積もるなんて・・・、こりゃえらい異常気象だ。地球温暖化ではなく、寒暖化しとるのでは・・・。」と、町では戸惑いの声が多かった。
雪が積もって喜ぶのは、無邪気な子供と暇な写真好きなおっさんぐらい。多くの人は交通障害が起きるし、歩くのが大変だしと、数年に一回、休みの日にちょこっと積もってくれる程度でいい・・・なんて思っていることだろう。
でも、せっかく雪が積もったのなら、雪の情緒を楽しむのも一興というもの。カメラおじさんの典型的な行動パターンとして、張り切って朝早く起き、珍しい雪の積もる広島市内の写真を撮って歩いてみた。雪が積もっていると、いつも見慣れた光景もドラマチックに感じて楽しい。
もし、こういった雪の積もった日に尾道を訪れることが出来れば、いつもとは違った情緒に出会え、さぞ散策も楽しいものになるに違いない。
そう思い描くのだが、雪が積もったとしても、日が照りだすとすぐに溶けてしまうのが、瀬戸内沿岸の雪事情になる。
暗い早朝に慣れない雪道を運転するのは大変だし、朝一の電車に乗ったとしても、到着する頃には既に溶けている可能性が高いので、遠方から雪の日に合わせて訪れるのは、あまり現実的ではなかったりする。
それにしても・・・、近年は気候が不穏に感じる。夏は、観測史上最高気温とか、連続真夏日や猛暑日を更新といったニュースに新鮮味を感じないほど、強烈に暑い。その上、まとまった雨がドカッと降り、土砂災害になることも多い。
冬は、温暖化の影響を受けて、全体として考えると暖かく感じるが、強烈な寒波が北から降りてきて、寒い日はビックリするほど激寒。おまけに、日本海側を中心に災害級の大雪となることが増えた。
気温の幅が上下に広がり、普通に暮らしていても体に堪えるし、何よりまとまった雨や雪が多いことから災害が多い。一昔前よりも暮らしにくくなってしまったと感じている人は多いだろう。
原因は、よく言われている二酸化炭素なのか、森林破壊などの環境問題なのか、もっと人知の届かない天体などの問題なのかわからないが、一昔前と明らかに気象が変わっている状況を考えると、10年後、20年後の未来に不安を感じてしまう。
外で暮らす野良猫、まあ野生生物全般に言えるが、夏の暑さ、冬の寒さは、当然、体に堪える。特に冬の寒さはどうしのぐかが死活問題になる。
人間でも貧困、認知症などの問題もあり、夏に冷房を入れられずに熱中症で亡くなってしまったといったニュースを、近年よく耳にすると思う。当然、その逆の低体温症で亡くなる人もいる。こちらはあまりニュースにならないが、実は熱中症死よりも多かったりする。寒さの方が深刻なのだ。
人間から温かい環境を与えてもらえている野良猫は幸せだが、そういう猫はほとんどいない。というより、それだと野良猫ではなく、外飼いの猫といった定義になるだろう。
寒い時期に散策していてよく見かけるのは、普段猫たちが寝ていると思われる場所に段ボールや毛布が置かれているといった場面。簡素な段ボールハウスでも、ないよりははるかにまし。外気や冷たい地面から身体を守ることができる。
とはいえ、これだけでは気休めにしかならない。後は仲間内で体を寄せあったり、寝床で身体を丸く固めるなどして、寒さをしのぐしかない。
実際のところ、冬の寒さ、そして夏の暑さと高湿度は、外で暮らす野良猫の健康面に大きなダメージを蓄積させている。
外飼いの地域猫は、餌はもらえるので、飢える心配や栄養的な部分はクリアーできるが、衛生面や健康上の問題からあまり長く生きられない。それが野良猫の現実である。
冬の尾道ニャンコたちはどう過ごしているのだろう。冬の朝はやぱり寒さに凍え、与えられた寝床で丸くなり、姿を見かけることはないのだろうか。それとも餌をもらう為に、冬の朝でも精力的に動き回っているのだろうか。
冬の朝っぱらから尾道へ行くのはしんどいが、二度の雪を経験すると、猫のことが心配になって尾道に行きたくなってくる。
それに、現状、尾道の町からどんどんと猫の数が少なくなっている。来年の冬には更に猫が少なくなっていて、散策しても猫に出会える機会が激減、ということになっているかもしれない。
後悔のないように、行けるうちに行っておこう。と、今回は冬の朝の尾道に出かけてみることにした。
§2、冬の早朝
冬の早朝は、道路が凍結していることがあって怖い。交通量の多い国道2号線を走っていくので、そんなに心配をすることではないかもしれないが、念のために少し早めに出発した。
安全第一。道中はゆっくりと走るつもりだったが、余りにも道が空いていて、気が付いたらいつものスピードで走っていたりして・・・。で、想定していたよりも早く尾道に到着してしまった。
まだ日が昇るまで時間がある。暗くては猫を見つけられないだろう。かといって仮眠するほど眠くないし、車の中でジッとしていても退屈なだけ。寒いけどしょうがない・・・。消去法で早朝の町へ繰り出すことにした。
静まり返った飲み屋街を歩くと、暗闇と凍えるような冷たい空気に包まれていた。肌を刺すようなひんやりとした空気感からか、夏の朝とは違った情緒を感じる。
商店街には、古くから酢を醸造している醸造所がある。尾道といえば尾道ラーメンが有名だが、実は醸造酢も有名だったりする。
醸造所付近の通りを歩くと、酢の独特のにおいが漂ってくる。この酢のにおいを嗅ぐと、尾道に来たなと感じるのは、何度も尾道に足を運ぶ人間の感覚になるだろうか。
そしていつも思う。せっかくいい酢があるのだから、地元の酢と柑橘類を使った尾道冷やし中華(ラーメン)なんてあればいい話題になるのでは、と。
それはさておき、醸造所の隣は居酒屋になっていて、その店先のショウウインドウには少し色あせた人形が飾られている(上の写真の左下に写っているやつ)。これが暗い中で見ると、かなり不気味。寒さも相まり、ゾクッと身震いしてしまった。
路地では人影も猫影もなかったので、人通りのありそうな本通り商店街へやってきた。ここにはお店が多く並んでいるので、朝の配送やゴミ収集をする人達の姿がちらほらとあった。
猫のいる八百屋を訪れてみると、店主がせわしくなく作業をしているのを尻目に、ストーブに張り付くように猫が暖をとっていた。ボサボサの感じが寝起きのお母さんってな感じ。なんともほのぼのとした光景だ。
更によく見てみると、机の引き出しにも猫がいる。ストーブの熱で猫焼きになってしまわないだろうか。ちょっと心配になってしまう位置関係だが、寒い時間帯だとちょうどいい温かさになっているのかな。
以前から店の横に置いてある古い机の下に、古臭いストーブが無造作に押し込まれているのが気になっていたが、こういう風に使っていたのかと、これにて納得。よく見ると、ストーブが新しくなっていたりする。にゃんこたちのために新調したのだろうか・・・。
海岸沿いに行ってみると、ちょうど船が出航するところだった。うっすらと霧のような靄がかかっているのが、いい感じ。早朝の海上は特に冷えそうだ。
この船会社が面倒をみている猫が、この付近でよくウロウロしているが、きっとまだ寝床で寝ているのだろう。
まだ夜が明けるまで時間がある。商店街を歩いていても猫に出会わない。だったらと、海岸沿いをいつも訪れない東の方向、尾道大橋の方へ向かって歩いてみた。
尾道大橋近くまで歩いてみたが、この付近は漁港となっていて結構古い建物も残っていた。商店街や崖地とは違った情緒があっていい。少し明るんできた空と、桟橋の情景。なにか映画に出て来そうな風景だ。
漁港といえば猫。猫がいそうな雰囲気でもある。いや、猫がいたら素敵な情景になりそうだ。猫はいないかな・・・と、キョロキョロしながら歩いてみるのだが、寒い朝だからなのか、この付近にはいないのか、姿を見つけることはできなかった。
空が明るくなってきたので、一旦車に戻ることにした。商店街に戻ると、路地はうっすらと明るくなり、先ほどとはまた違った雰囲気となっている。
駐車場に向けて歩いていると、ニャンコを発見。寒さからか餌置き場の前で固まっていた。もう餌をもらったのだろうか。それとも餌をくれる人がやって来るのを待っているのだろうか。寒々とした様子に同情の念が込み上げてくる。
それにしても・・・。寒さの影響なのだろうか。さっきのストーブのところにいた猫にしても、この猫にしても、冬の朝の猫は毛が逆立つような感じでボサボサしていて、あまり可愛くない・・・。