尾道にゃんこ#9-3
鞆の浦と尾道にゃんこ その3
(2023年3月)
春先の鞆の浦と尾道の散策と、その時に出会ったニャンコたちのスケッチです。(*全4ページ)
§5、空き家とにゃんこ
商店街を後にすると、国道2号線を越えて崖地へ。今回は常称寺の脇からレンガ坂へ向けて登っていくことにした。
なぜこのルートを選んだのか。特に理由はなく、犬がこっちへ向かって歩いたから。風の吹くままではなく、犬の歩くまま・・・。特に当てがあるわけではないので、こういった散策もワクワク感があって楽しい。
レンガ坂に向かって歩いていると、ボロボロに崩れている家があった。このへんは空き家も空き地も多い。
近年では少子高齢化、人口減少、経済の衰退、日本沈没・・・などと、先行きの暗いニュースを見かけることが多いが、尾道の崖地ではそういったことをひしひしと感じる。
私自身、第二次ベビーブーム世代の人間になる。なので、子供の頃は日本中が子供であふれかえっていた。実際、各地で小・中学校がパンパンになり、プレハブ校舎が多く建てられていたほどである。
ちょうどバブル景気でもあり、社会全体に勢いもあった。このままの調子で日本が発展していくと、人が増え続け、人が暮らす土地がなくなってしまうのではないか。大人になった時、暮らす場所に困ってしまうのでは・・・。といった心配を真面目に学級会で子供たちが議論していた。
それがバブルが弾け、日本経済は下り坂。結婚する人が少なくなれば、産まれてくる子供も少なくなる。人口が減っていくのは必然で、自分が親の世代になってみれば、子供の時に想像していた世の中とは違った世界になっていた。
レンガ坂から大山寺の上の方まで登ってみると、昔のバイクが放置されていて、オブジェ化していた。もう放置されて10年以上は経っているだろう。サビだらけでそう簡単には動きそうにない。
崖地の空き家を撤去しようとすると、とんでもなく手間がかかるが、こういった放置バイクも、バイクは入ってこれるが、車は入ってこれない場所だと、手の付けようがない。何をするにもひと手間かかってしまうのが、崖地ということになる。
いつも立ち寄る散策スポット、御袖天満宮にやって来た。ここの門前でよく猫に遭遇するのだが、今日は姿を見つけられなかった。
ここは天神様なので、天神様の象徴である梅の木が植えられている。まだ梅の花が残っているかな・・・と、梅の花にも淡い期待をしていたのだが、ここのところの陽気で散ってしまっていた。
冬に訪れたとき、御袖天満宮で野良犬の親子に出会った。あの犬たちはどうしているだろう。無事に暮らしているといいが・・・。まさか、まだ居たりしないよな・・・。ちょっと気になって、犬が出てきた御袖天満宮のさらに奥の方へ足を運んでみることにした。
こっちへ来るのは初めて。薄暗い路地を進むと、この辺りは空き家だらけだった。それも随分前から人が暮らしていないようで、廃墟状態となっている。そういった家の前を通ると、猫臭がしてくる。今では猫の住処となっているようだ。なるほど、どうりで御袖天満宮でよく猫に遭遇するわけだ。
猫臭がするので、猫がいるはず。どこにいるのかな・・・と探すまでもなく、塀の上ににゃんこがいた。
ここはほとんど人が通らない路地。地元の人や猫に餌をやりに来る人が通るぐらいなので、猫も警戒心があまりない。にゃんか用。見かけない顔だな。といった感じで、こっちを見つめていた。
路地を歩いて猫に近づていくのだが、にゃんこはチワワに気が付いて、視線がくぎ付け。にゃんだ。あれ。といった感じ。
チワワが気になって首を伸ばしながら見送ってくれるにゃんこ。にゃんか変な生き物がいたな・・・ってな感じだろうか。お騒がせしました・・・。
いつもは御袖天満宮からロープウェイ駅や艮神社の横を通って猫の細道を登っていくのだが、今回は銀山街道を渡ると、そのまま崖の方へ進み、住宅地を抜けて猫の細道へ向かってみることにした。
路地を入っていくと、このへんは平地でも空き家や空き地が多い。そして路地には自転車やバイクが幾つも並べて置いてある。これは崖地に住む人が置いているもの。呉などでもよくある光景だ。
少し登ると、空き家が目に付くようになった。放置されている期間も長いようで、いつ崩れてもおかしくない状態になっている。いずれ行政執行で解体、撤去されるのだろうか。
更に登ると、空き家や空き地が多くなった。当然のことながら上に上がれば上がるほど、様々な面で暮らしにくくなる。年をとり、足腰が弱くなってしまうと、暮らしにくいでは済まない。暮らすのが困難と言っても過言ではない。
老いとともに、また相続を機に土地を離れていく人が多くなってしまうのは、自然な流れになるだろう。
場所によっては崖崩れを起こしている箇所もあった。近年は西日本豪雨のようにまとまった雨が降ることが多くなったので、崖地の土地を放置しておくだけでもリスクとなるようだ。
崖にへばりつくようにして建てられて家屋もあるが、今では人が住んでいる様子はなく、木に覆われ、崖と同化しつつある。この付近の廃墟率はなかなかひどいものがある。
そもそもとして、家が古くなっても法律的に建て替えるのが容易ではないし、売却しようにも買い手がつかない。はっきり言って個人でどうすることもできなく、相続放棄し、放置するしかない。
駅や商業施設から遠く、車道からも離れている崖地は、典型的な負動産となっているのが、今の現状だ。
崖地の通路を歩いていると、放置されたカブを発見。多くの人が暮らしていれば、生活道に放置されては邪魔だ。何とかしろ!ということになるのだろうが、暮らしている人が少なければ、まあいいか・・・と、時が過ぎていくのだろう。この界隈ではゆったりと物事が衰退しているように思える。
廃墟化しつつある住宅地を抜けると、猫の細道に到着した。いつもは艮神社の横を登り、左に曲がっていたのだが、右に曲がったところには猫が暮らすゲージやらが置いてあり、外で暮らす猫たちの住処となっていた。こっちへ来ることがなかったので新しい発見だった。
ちょうど観光客の人が猫のたわむれていた。チワワを連れて歩いているので、地元の人と間違えたようで、どこに猫がいますかと聞かれてしまった。まあ、ある意味私に聞くのは正解かもしれないが・・・。
猫の細道に入ると、多くの観光客とすれ違った。コロナが小康状態となり、コロナ以前の活気が戻ってきた。やっぱり観光地は賑わっていないと、面白くないし、楽しい気持も湧き上がってこない。
猫の細道を上がると、千光寺通りと合流する。ちょうどその付近にあるのが共楽園という広場。ここからの眺めはまずまずといったところ。
この広場の隅には土産屋の廃墟がある。ちょっと前までは尾道城も廃墟となっていたことを考えると、尾道は住宅も観光施設も廃墟だらけ。廃墟の町と言っても過言ではない。
尾道の崖地は空き家が多い。よくそう耳にする。空き家バンクをやっているのも知っている。でも、言うほど空き家が多いかな・・・。そんな深刻な問題ではないんじゃないかな・・・。と、今までは思っていた。
しかし、今回、いつも歩いていたルートから少し外れてみると、こんなにも空き家や空き地が多いのかと、驚いた。駅から遠く、観光客が歩かないような辺鄙な場所では、想像していた以上に廃墟化が進み、厳しい状況になっているようだ。
観光で訪れる分には、立体感があって楽しい町。坂と海のあるお洒落な町。猫のいる町などと、風情や非日常性を感じながら散策を楽しめるが、実際に暮らすとなると、坂や階段を上り下りするだけでも大変で、生活の不便さや苦労は並大抵ではない。
非日常だから楽しいことも、日常になると楽しくないということも多い。私が実際にここで暮らしたとして、散策を楽しめるかと言うと、正直解らない。