尾道にゃんこ#10-1
桜雨と尾道にゃんこ その1
(2023年4月)
桜を散らす雨が降る中、尾道と竹原を散策した様子と、その時に出会ったニャンコたちのスケッチです。(*全6ページ)
§1、イントロダクション ~二つの春~
新型コロナウィルスの流行が始まってから、3年が経った。あっという間の3年間だったか、長く辛い3年間だったかは、年代や職業、それぞれの感じ方によって違うだろう。
3年間といえば、丸々中高生の学園生活の期間にあたる。しかも、成長過程の多感な時期。この世代の子供たちは、本当に大変な3年間を過ごしたと思う。
振り返れば、2020年が明けると、コロナの脅威が本格的に伝わってくるようになった。2月の春節(中国の正月)を過ぎると、中国を中心に感染者数が激増。得体のしれない病魔に、世界全体が徐々にパニック状態となっていった。
3月になると、ヨーロッパで感染が爆発。ウイルスを持ち込ませるな!と、各国が国境閉鎖するようになり、全世界がヒステリー状態になった。
感染を避けるために、密を避けろ。人が集まってはいけない。ソーシャルディスタンスを取れ。と、治療法や感染対策がよくわからないなりに、国の指針が出て、入学式は取り止め。学校も当面休校となった。
少し落ち着いた後も、授業がインターネットによるリモートで行われるなど、混乱と異様な雰囲気の中で新しい学園生活が始まり、少し状況が落ち着いても、マスクの着用が日常だったり、運動会や修学旅行などの行事が中止になったりと、多くの制約や我慢を強いられた3年間を過ごしたはずだ。
そのコロナの混乱とともに中学・高校に入学した生徒たちは、この春、無事に卒業していった。3月からは屋内でもマスクの着用は個人の自由となった。早速、卒業式はマスクの着用なしで行う学校もあった。
最後だけでもマスク無しという配慮だったが、マスクに慣れきってしまった子供たちは、最後までマスクがあった方が・・・といった気持ちも大きいようで、結局、ほとんどの学校はマスク着用で行われたらしい。
海外からの水際対策も昨年の10月に緩和され、様子を見ながら海外旅行客の受け入れが始まった。
原爆ドーム周辺などを歩いていると、年内はほとんど見かけなかったが、年が明けてからツアー客の集団をよく見かけるようになり、最近では個人の外国人観光客の姿も多く見かける。
広島は国際的な観光都市なので、以前はこの光景が当たり前だったのだが、3年間のブランクがあると、おっ、外国人がいる・・・と、もの凄く違和感を感じてしまう自分がいる。慣れというものは恐ろしいものだ。
日本国内の旅も順調のようで、一足早い春の風物詩である河津桜の名所では、リベンジ観光といった感じで、想定以上の観光客が訪れたそうだ。
冬からの春の訪れ、また、コロナかからの解放。二重で春がやって来たので、ここのところ人々の表情が明るく感じる。
久しぶりに桜の季節の尾道に行ってみるか。半月前に尾道を訪れているが、桜の時期は別腹。歩いていて楽しいというか、心躍る。
いつ行こうか。スケジュール帳や、天気予報を見ながら計画を立て始めたが、急な用事が入ったり、犬の体調が悪くなったりと、3月下旬は尾道へ行くことができなかった。
もたもたしていては桜が散ってしまう。気が焦るものの、4月に入ると、雨の日が多くなった。行こうと計画していた日も、予報では雨。
雨か・・・。雨の日の桜はあまり情緒を感じないんだよな・・・。この雨が花散らしの雨となって、桜は散ってしまうだろう。今年は諦めるか。いや、まてよ。晴れの日ばかり訪れていても芸がない。雨の日には雨の日の良さがある。案外、雨の日の方が感動的な風景に出会えるかもしれない。
それに、前々から雨の日の竹原でやってみたいこともあった。この機会にそれも済ませてしまおう。ということで、桜が散りかけている4月上旬の雨の日、尾道、そして竹原へ向かった。
§2、雨の夜明け
日の出の時間に合わせて、尾道に到着。太陽が登るとともに、一日の行動が始まる。本来ならとても清々しく、気分のいい旅の始まりとなるはずなのだが、上空は分厚い雨雲に覆われていて、太陽の存在は全く感じられない。
あいにくの空模様だが、これは最初っからわかっていたこと。ちゃんと長靴などの雨具を用意してきたし、何も問題はない。上限の安い駐車場に止め、薄暗い中、雨の尾道散策を始めた。
まずは飲み屋街に暮らすにゃんこたちに挨拶しておこう。いつも猫がたむろっている場所へ行ってみると、二匹の猫が雨宿りをしていた。
前回訪れたときは具合が悪そうだったが、今日は普通な感じ。ちょっと安心した。でも、昔のようなやんちゃっぽい人懐っこさはなくなっているように感じる。
よく見ると、この二匹、柄はそこまでだけど、目つきがそっくり。歌舞伎役者のように目筋が通っていて凛々しい。兄弟だろうか。親子だろうか。そういったことを考えながら観察するのも楽しい。
次は熊野神社へ。ここにも懇意にしている猫がいる。熊野神社へは趣きのある築地小路を抜けていくのだが、薄暗い中、地面が雨に濡れて光を反射している様子が、別世界に通じるトンネルのようだった。
熊野神社前の広場には、とても人懐っこいにゃんこが暮らしている。訪れると、今日は軒下に置かれている室外機の上で雨宿りしていた。ちょこんと室外機の上に座っている様子は、なんとも可愛らしい。
とても人懐っこい猫で、いつもだと自分の方から近づいてきてくれるのだが、今日は雨。室外機の上から降りてこない。
こちらから傍に行くと、猫なで声で泣いてきた。まだ周囲が薄暗いので、目がくりくりしていて可愛い。そう考えると、雨の日の猫散策もいいものだ。
雨が強く降り始めたので、撤収。また来るね。猫さん。
訪れると、必ずと言っていいほど居てくれる安心感。この猫がいるから尾道へ行こうという意欲がわいてくる。というのは大袈裟だが、この猫の存在はとても大きい。
雨が強く降ってきたので、アーケードのある本通り商店街を駅の方へ向かって歩いた。
本通りから路地を眺めると、屋根から落ちてきた大量の雨水で、路地が川のようになりつつあった。ゲリラ豪雨並みの雨が降ると、道が川になってしまいそうだ。こういった住宅が密集した地域では、排水も深刻な問題になっている。
商店街にある猫のいる八百屋に行くと、ちょうど茶色い猫が外から帰ってきたところだった。当たり前のように猫が商店街を歩く様子は、尾道ならでは。観光客としては、こういった非日常的な光景を尾道で期待してしまうものだ。
猫はそのまま八百屋の机の下に納まった。ここにはもう一匹、人懐っこい猫がいるのだが、お出かけ中なのか、姿が見えなかった。
一回、車に戻ろう。と、商店街を戻り、駐車場付近にやって来ると、かなり強い雨になった。少しの雨は風情を感じるが、強い雨は風情もへったくれもない。急いで車に戻ることにした。