尾道にゃんこ#10-2
桜雨と尾道にゃんこ その2
(2023年4月)
桜を散らす雨が降る中、尾道と竹原を散策した様子と、その時に出会ったニャンコたちのスケッチです。(*全6ページ)
§3、雨の朝
車の中で朝食を食べて、一休み。そろそろ通勤、通学の賑やかな時間帯になるので、散策を再開しよう。車を出ると、今度は商店街ではなく、海沿いを駅の方へ向かって歩いた。
住吉神社近くにある物流会社の倉庫前を歩くと、倉庫の入り口付近で三毛猫が佇み、外を眺めていた。その様子は、警備員。いや、受付嬢という方がふさわしい。
この物流会社で面倒を見ている猫で、名誉社員となっているのかどうかはわからないが、外の階段の隅っこに猫ハウスが用意されている。幸運の招き猫となり、会社が繁盛しているといいのだが・・・。
この猫はとても人懐っこい。桟橋付近にいることが多く、散歩する地元の人に食べ物をもらったり、撫でてもらっているのをよく見かける。
改めて近くで見ると、雰囲気が先ほど会った熊野神社の猫と似ている気がする。人懐っこい性格もそっくり。結縁関係があったりするのだろうか。ちょっと気になる。
傍に寄ったら、遊んでもらえると思って下に降りてきてしまった。が、外は雨。そのことはよくわかっているようで、濡れた場所には行こうとしない。
「ねぇ、ねぇ、あそばにゃい。」「ごめんにゃさい。先を急ぐもので・・・。」
にゃんだ。遊んでくれないのか・・・。と、三毛猫は倉庫に戻ってしまった。そして、つまらなそうにしょぼくれて・・・とはならなく、私の鞄にぶら下がっている物体が気になっている様子。「あれで遊べないだろうか・・・。」ってな感じだろうか。本当に人が好きで、一緒に遊びたくてたまらないようだ。
猫と別れると、尾道駅へ向かって海沿いを歩いた。向島との間の尾道水道は、雨で靄っていて、視界が悪い。対岸の造船用のクレーンが、靄の中で聳えるように浮かび上がっているのが、印象的だ。
運航している渡船は、まだ春休みなのかよくわからないが、学生の姿がほとんどなく、人が少ないように感じる。
尾道駅前に到着。海沿いにある広場には桜が少し植えられていて、並木道のようになっている。晴れていれば、青い海と空に映えて美しいことだろう。
ちょうど黄色い傘を差した小学生が通り過ぎていった。ビビッドな黄色い傘が灰色の風景の中で印象的だったので、失礼。本人が好きな色なのか、親が与えたのかわからないが、黄色い傘は目立っていい。
私が子供の頃は、黄色い帽子に、黄色いランドセルカバー、黄色い傘が推奨され、カッコ悪いな・・・と思いながらも、当たり前のように身に付けていた。
昭和の時代は、年間の交通事故死亡者数が1万人前後と、現在の4倍も交通事故で亡くなる人がいて、交通戦争なんて言葉があったほどだ。
大人になって車を運転してみると、黄色を身に付けさせられた理由がよくわかる。私に子供がいたら、小学校の間は黄色い傘しか与えないだろう。
駅前の桟橋に到着。フェリーターミナルのデッキに上がると、桟橋よりも幾分、尾道水道を見渡すことができる。
周囲は相変わらず靄っていて、視界が悪い。向島との間に架かる尾道大橋も、うっすらとしか見えない。でも、この程度のコンディションは問題にはならないようで、通常通りに多くの船が水道を行き交っていた。
対岸の向島にある尾道学園は、もう学校が始まっていて、渡船に大勢の学生が列をなして乗り込んでいた。
学生を満載した渡船が、尾道水道を進んでいく。屋根のある場所に入りきらない学生は、濡れるので傘を差しながらの乗船になる。傘を差しながら船に乗っているというのも、面白い光景だ。尾道に限らず、渡船ならではの光景になるだろう。
活気のある通学の時間帯が終わったので、一旦、車に戻って休憩しよう。尾道水道沿いを写真を撮りながら、市役所方面に向かって歩き始めた。
雨は強く降ったり、弱くなったりの繰り返し。雨の中、桟橋で船の到着を待っている様子は、わびさび的な趣を感じる。特に今日のような靄が強い時は色彩が薄く、その感じが強くなる。
向島の水道沿いには、兼吉の丘がある。映画「あした」のロケ地となった場所で、多くはないが丘に桜が植えられている。
晴れていれば桜がいいアクセントになるのだが、雨空だと全く映えない・・・。
土堂の桟橋から千光寺山を眺めると、ちょうど千光寺が正面に見える。千光寺の少し下にある広場(共楽園)や、参道沿いに桜が植えられているので、桜の時期はなかなか素敵な光景となり、尾道自慢の風景の一つになる。
ただ、今日のように雨で霞んでいると、趣きは感じられるが、感動的とまではならない・・・、かな。
公立高校はまだ春休みなのかなと思っていたのだが、通学時間帯が終わるにつれて学生の姿が増えてきた。しかも保護者連れで歩いている人が多い。親の服装からして、どうやら今日は入学式の日になるようだ。
商店街を歩いていると、入学式に向かっていると思われる親子が歩いていた。猫が二匹いると、模様でその関係性を推測したりするのだが、この親子はおそろいの柄の傘を手にしていて、見た瞬間、紛れもなく親子だ。と、DNAというものを感じてしまった。
ちなみに、広島で育っていない私が広島で遺伝を感じる場面は、親子で笑っているとき。広島人(特に女性)の笑い方は特徴があり、親子で笑っている場面を見ると、遺伝だな・・・。と、DNAを感じることが多い。
この方向で歩いていける距離だと、東高の入学式になるのかな。車に戻る予定だったが、何か面白い絵図はないかな・・・と、入学式に向かう人たちと、同じ方向に歩いてみることにした。
商店街を東に少し歩くと、亀山八幡宮(久保八幡神社)の参道にたどり着いた。商店街から始まる参道は、まず石灯籠が並ぶエリアを通る。ここは参道の両脇に木造住宅が並び、とても昭和的な雰囲気を感じる。
石灯籠や狛犬が並ぶ先には、神門がある。門をくぐると、境内、もしくは参道の長い階段。と、普通はなるのだが、ここの場合は、門をくぐると国道2号線に出る。更に、その先にはJR山陽線も走っていたりする。
近代化の過程で、このように参道が国道や鉄道で分断されることはよくあるが、ここまで顕著なのも珍しい。
線路を渡ると、ようやく境内に到着となり、最後に少し階段を登って、拝殿にたどり着く。なかなか波乱にとんだ参道だ。
たどり着くのに障害が多いと、ご利益も大きい・・・、のかな。千段を越えるような階段がある神社には及ばないものの、きっとご利益も大きいに違いない。
亀山八幡宮の境内や線路沿いには立派な桜の木がある。とても好きな桜で、晴れているととても絵になる。でも、散りかけているのもあるが、今日のような日はあまり印象的な桜とはならなかった。
なんとなくこっちへ来てはみたが、入学式に行ってもしょうがない。とりあえず車に戻ろう。ワンコを車に待たせているので気になるし・・。