尾道にゃんこ#10-5
桜雨と尾道にゃんこ その5
(2023年4月)
桜を散らす雨が降る中、尾道と竹原を散策した様子と、その時に出会ったニャンコたちのスケッチです。(*全6ページ)
§6、雨上がりの千光寺山
雨が上がったので、車で待機させていたチワワを連れ、千光寺山へ向かうことにした。ずっと待機で不満顔だったチワワ。今度は連れて行ってもらえる。ようやく出番だ。と、うれしそう。雨上がりの尾道の町を勢いよく歩き出した。
寄り道をせずに千光寺山へ向かい、まずは猫の細道へ。ここから千光寺山へ登っていくのが、私の定番コースになっている。
猫の細道は、猫が暮らしている道というより、猫のオブジェが並んでいる階段道といった場所。雨の日は雨の日の良さを感じられる場所で、雨で濡れたオブジェは生き生きとして見える。まるで生命が宿ったかのよう。雨の日は一層魅力が増すように思う。
猫の細道の東側には、猫が暮らしている場所があるが、雨上がりとあって猫の姿はなかった。収穫がないのも寂しい。こういう時に役に立つのがチワワ。
猫の代わりだ。と、チワワで代用して写真を撮ってみる。が、猫の代わりとは無礼な・・・と、不満そう。
猫の細道の途中には、尾道イーハトーヴ・梟の館という猫喫茶がある。ジブリのような世界観を持った店と評判だが、正確には宮沢賢治の世界観(イーハトーヴ)を模した店になる。
実際の猫には出会わなかったが、敷地内に置かれた猫が雨上がりのしっとりした中で、まるで本物のように佇んでいた。
猫の細道を登りきると、千光寺につながる千光寺通りに合流する。この合流地点で営業しているお店が猫の面倒を見ていて、この付近ではよく猫を見かける。
今日もちょうど合流地点で猫に遭遇。よく見かける石と同化してみえる猫、勝手に愛称を付けるならカメレオンにゃんこがいて、ようこそ千光寺道へ、といった感じでこっちを見ていた。
カメレオンにゃんこと一緒にいた猫も、私の存在に気が付いた。が、その表情は何じゃといったビックリ顔。初対面でこういう顔をされると傷つく・・・。
って、私の存在を見て驚いたわけではない。犯人はチワワ。驚かせないように階段のところに隠していたのだが、ひょっこりと首を出し、それに気が付いてしまった。
カメレオンにゃんこは、比較的図太い性格をしているので、いつもチワワを見てもリアクションを起こさない。じろっと見ているだけ。そして近づいてきたら逃げるか・・・といった感じ。
猫の性格も様々。こういった反応も猫によって異なるし、どこで出会うか、出会うタイミングによっても異なる。なので、猫を探しての散策は楽しい。
ビックリ顔をしたにゃんこは、怖がりな性格をしているようで、チワワを連れて先に進むと、慌てて高い場所に登ってしまった。
もしこれが大型犬だったら、身の危険を感じ、直ちに姿を消してしまうのだろうけど、小さなチワワだと、いざとなれば返り討ちに出来る。そういった余裕があるので、ちょっと離れて様子を見る猫が多い。
この猫もチワワに興味もあるようで、なんだろう、あの生き物は・・・ってな感じで、熱心に様子をうかがっていた。
この上は千光寺の境内。千光寺境内では、ワンコは抱っこしなければならない。小さく、体重の軽いチワワなので、抱っこして登ってもそんなに苦にはならないが、今日は雨で身体が濡れているので、なるべく抱っこはしたくない。遠回りになるが、千光寺を迂回して太鼓岩の方から登っていった。
太鼓岩付近にも桜の木があったが、下で見た桜よりも花の散りが多く、もう葉桜状態になっていた。この付近は日当たりがいいし、風通しもいいから花の散りも早いのだろう。
山頂に設置された展望台に到着。よく登り切った。チワワとその飼い主。早速記念撮影。
展望台にたどり着く直前で、少し強めの雨が降ってきてしまったので、ずぶ濡れチワワでの記念写真になってしまった。でも、これもある意味勲章となり、いい思い出になるだろう。
展望台が新しくなってから桜の時期に来たのは、今回が初めて。前にあったものと同じ場所に造られたので、眺め自体はたいして変わらないはずだが、桜の見え方が以前よりもパッとしないように感じる。
雨が降っているせいとか、散りかけているせいではなく、以前はもっと桜の絨毯が広がっている感じだったような気がする・・・。展望台が低くなったのだろうか・・・。
この時は違和感を感じただけだったが、家に帰宅してから4年前に撮った写真と比べてみると、どうやら手前にある木が成長してしまい、桜を隠してしまっているような感じだ。
千光寺山の山頂付近に広がる千光寺公園には、多くの桜が植えられていて、花見スポットとして知られている。
満開時期の週末は、公園を埋め尽くすほどの花見客でにぎわうそうだが、今日はあいにくの雨。しかも平日で、桜もほとんど散った状態。人の姿はほとんどなかった。歩いていると、祭りが終わったあとの物悲しさを感じる。
かつて尾道城があった周辺の桜は、展望台付近や千光寺公園よりも花が残っていた。
晴れていれば桜越しに見る尾道水道といった絶景も、雨だとぼんやりとした感じになってしまう。雨の日は雨の日の良さもあるけど、いまいちだと感じる場面も多い。
でも、コンディションの悪い雨の中で、いい風景や情景が見つけられた時の喜びは大きい。その感覚は、猫がいないかなと探し、見つかった時の感動と一緒かもしれない。
かつてあった尾道城の跡地には、石垣を再利用した展望スペースが整備された。しかし、これがひどい出来。雨の日は訪れては駄目な場所になっている。今日も訪れてみたが、床に水が浮いてツルツル。もっと何とかならなかったものだろうか。というより、改善する気はないのだろうな・・・。
旧尾道城前の道を下って、商店街へ。坂を下っていると、落ちた桜の花びらで桜模様の坂道となっていた。なかなかおしゃれに感じる。が、急な坂なので、濡れた桜の花びらで滑りそうでもある。
坂を降り切ったところで猫に遭遇。白と黒のはっきりとした柄の猫だ。あれ、もしかしてこの猫、私の猫散策のきっかけとなった猫では・・・。5年ぶりの再会というやつでは・・・。ちょっと、胸が高鳴る。
近づいて確認したいところだったが、他の観光客が相手をしていたし、チワワを見て逃げようとしていたので、写真を撮って素通り。首輪をつけているから、ちゃんと面倒を見てくれている人がいるのだろう。次の機会にでも探してみよう。
山陽線の歩道橋を越えて、屋根のある商店街を通っていこう。と、線路に架かる歩道橋を通った時、尾道駅を見ると、瀬戸内を走る観光列車が止まっていた。あれ、平日に運航していたっけな・・・。しかもこんな時間帯に・・・。
よくわからないけど、これはシャッターチャンスというやつでは。ということで、犬を抱えてダッシュ。桜の木のある踏切に行き、列車が来るのを待った。
で、写真を撮ってみたのだが、シャッタースピードが遅すぎたようだ。猫だったら少し被写体がブレたほうが、動きがあって良かったりもするが、鉄道だと微妙な感じ。普段から撮り慣れていたらうまく計算できるのだろうが、難しい。
商店街を通っていこうと思ったが、このままお寺を抜けながら崖地を水平移動してしまおう。ってことで、崖地を東に向かって進んで行き、千光寺新道の階段下にたどり着いた。
しかし、この選択は悪手だった。途中で猫に会えないどころか、雨がざっと来てしまったので、ワンコが更にずぶ濡れとなってしまった・・・。
踏切を渡って、2号線沿いを歩いて、千光寺道の下へ。千光寺道と本通り商店街と交わる場所にある八百屋に猫がいることが多い。ちょっと寄って行こう。と、商店街の方に針路をとると、路地にあるクレープ屋さんの前に行列ができていた。
このクレープ屋さんはメディアなどで紹介される有名店。注文が入ってから果物を切るので、出来上がるのに少々時間がかかり、訪問者が集中すると、長い行列となってしまう。
今日、歩いていてもそう感じるのだが、改めて尾道は女子旅をする人が多いと感じる。もっとこういった個性的で、女子受けする店が増えれば、尾道の人気もさらに高まりそうである。
八百屋の猫は姿が見えなかった。人通りの多い時間帯は「騒々しい・・・」と、どこか隠れているのかもしれない。
商店街を駐車場の方へ歩いていき、ちょっと寄ってみるか・・・・と、気が向き、最後にまた熊野神社へ。今日二度訪れているので、寄るつもりにしていなかったのだが、近くを通りかかると、なにか呼び寄せられる感じがして、訪れてみることにした。
訪れると、朝いた人懐っこい猫がいて、昼にいた神の化身のような猫はいなかった。実は時間交代で入れ替わっているとか・・・。彼らの日常を知らず、訪れたときのことを点と点で結んで考えるので、SFみたいなことが容易に頭に浮かんでしまう。
また来たよ。と声をかけるのだが、チワワの姿を見つけて、高い場所から降りてこない。以前だとチワワを連れていても寄ってきたのだが、目が悪いようなので、ちゃんと何かを認識できなく、怖いのだろう。
下から頭をなでて、「また来るよ」と、別れを告げて、帰路に着くことにした。元来た通路を歩き、ふと振り向くと、猫が見送りをしてくれるかのように、階段のところまで来てくれていた。バイバイまたね。見送りありがとう。
私にとって尾道で一番好きな猫になるのだが、結局、この時が最後の出会いとなってしまうのだった。