旅人とわんこの日々
世田谷編1 2003年 page10
ワンコのいる日常と旅についてつづった写真ブログです。
14、バイクの納車(2003年6月中旬)

(*イラスト:白いねこねこさん)
「旅は純粋な人の空間的移動である」 図書館の分厚い辞書で「旅」を調べたら、こう書いてあった。この文をそのまま他の人に紹介しても、「どういうこと。意味がわからない。」と、理解できない人が多いと思う。
更なるヒントとして、「人と財貨の空間移動は交通の意になる」と付け加えれば、「なるほど、そういうことか」と理解できる人も・・・いるかもしれないが、やっぱり「よくわからない」という人が多いはずだ。

(*イラスト:アヤチさん)
旅とは・・・、簡単に書くなら、一時的に日常の生活場所を離れ、普段とは別の土地でいつもとは違う人間や風景に出会い、かつ食事や宿泊などを体験する行為になる。いわゆる脱日常というやつだ。
例えば、出張は旅の定義に当てはまる気もするが、どんなに遠くへ行こうが、それは仕事という日常の延長になる。社員旅行や修学旅行なども、日常のしがらみがまとわりついた旅行となり、純粋な旅とは言えない。
また、普段の生活圏、自分の暮らす同じ町を旅したとしても、見たことのある風景や文化ばかりで、新鮮な出会いが乏しく、散歩の延長にしかならない。
このように義務や強制、経済といったものを含まず、単に自分の欲望や好奇心に従って、日常の生活圏から移動することが純粋な移動行為、すなわち旅になる。
この理を短い言葉でビシッと決めたのが、最初に書いた「旅は純粋な人の空間的移動である」になる。さすが分厚い辞書様。恐れ入りましたといったところだ。

辞書に「旅は純粋な人の空間的移動である」と書かれているように、旅の核心は心から湧き出る好奇心による移動行為となる。
目的地に何があるのだろう。どんな出会いや発見があるのだろう。そんなことを考えながら目的地までの移動を楽しんでこそ旅というもの。移動にワクワクしなければ、それは旅ではない。

(*写真:ジョーナカさん)
そしてその移動の手段にこだわってこそ、真の旅人と言えるだろう。私の旅の移動手段は、小学生から大学生1年生までは鉄道が主で、春休みや夏休みに販売される、JRの各駅停車が乗り放題となる青春18きっぷを使って旅をしていた。
高校一年生の夏休みには、お中元配達のバイトをしてお金を貯め、それで青春18きっぷを購入し、一人で大垣行きの夜行列車に乗っていたのだから、筋金入りの旅人と言えるのではないかと思う。

時間を自由に使える大学生になってからは、もっと自由に、そして時間に縛られず旅をしたいと思うようになり、バイクを旅の相棒とすることにした。
大学ではバイクサークルに入り、仲間と関東近辺へツーリングに出かけたり、長期の休みには、転勤が多かったので、各地の馴染みや大学の友人の実家など、色んな人の家に一晩の宿を求め、日本各地をバイクで旅をした。

愛着のあるバイクだったが、長期でユーラシア大陸横断の旅を行うのにあたり、長い期間、動かさずに放置しておくと、錆び付いたり、オイルなどが固まったりと、深刻なダメージを受ける可能性が高い。
そうなってしまったら修理代も高くつくし、最悪、動かなくなる恐れもある。だったら手放しておいた方が安心ということで、旅に出る前にバイク屋に売却してしまった。
ユーラシア大陸横断の旅から無事に帰国すると、有り金を叩いて旅に出たので、まあ当然のことだが、すっからかんの金欠状態。
再び相棒となるバイクが欲しいと思っても、他に必要なものを買ったり、次の旅の資金を貯めなければならなく、なかなかバイクにお金を回すことができなかった。
自由になる足がなければ、旅に出る意欲がわいてこない・・・と、「翼の折れたエンジェル」ならぬ、「足をもがれた旅人」ってな状態。帰国後は悶々とする日々を過ごしていた。

カワサキ バルカン400
バイクに乗って、再び日本を旅をしたい・・・。旅の相棒にするバイクが欲しい・・・。帰国して1年半も経つと、生活が安定してきて、そういった思いが強くなった。
でもバイクを購入してしまうと、再び海外を旅したい、という願いの方は遠ざかってしまう。そう考えると、今は我慢すべきかな。そして2代目となるバイクの購入を決意するのだが、そろそろいい歳だし、中途半端な安物を急いで買うよりは、少々時間がかかっても自分で納得できる相棒をみつけ、それを長く乗り続けるのがいいのでは・・・。
更に言うなら、旅人として人に誇れるような、言うなら寅さんの鞄のような感じで、ちょっとこだわりのあるバイクに乗りたいな・・・。そういう思いが強くなっていた。
そうだ。この機会に大型自動二輪の免許を取ってしまおう。長距離移動をすることが多いので、排気量の多いバイクの方が楽だし、ツーリング向けのバイクも豊富だ。それに大型バイクは見映えがいいし、バイク乗りとして上級者のオーラをまとうことができる。
ということで、まずは大型自動二輪の免許を取るために教習所に通い、その間にどのバイクにしようかとじっくりと考えることにした。


雑誌を見たり、バイク店を周りながら中古車を物色し、バイク専門店レッドバロンで展示品を見てこれだ!と一目ぼれしたバイクは、ホンダのCBR1100XX。通称ブラックバード。排気量は1100㏄あり、小型自動車並みのパワーがある。
主な使用用途が遠方へのツーリングなので、やっぱり大排気量の方がアクセルワークが少なく済むし、大きな車体は高速で走る場合に安定する。また、カウル(風よけ)が付いているほうが、長時間運転していても疲れない。見た目、荷物の積載性もいうことなし。これから長く旅の相棒として付き合っていくのにふさわしいバイクだ。
犬も大好きだが、旅は私の大事なアイデンティティ。新たに旅の相棒を手に入れることになるが、犬もバイクも私にとって大事なパートナー。日常のパートナーはワンコで、非日常のパートナーはバイク。どちらもかけがえのない存在なので、どちらも大切にしていこうと思う。

ちなみにバイクの場合は国産車と逆輸入車があり、私が購入したのはヨーロッパ仕様の逆輸入車。海外では日本のような最高速度の制限がないようで、スピードメーターには320km/hまで目盛りが付いていたりする。
そんな新幹線のようなスピードどこで出すんだ。無用の長物といった感じだが、速いは正義。出さなくても、いざという時に出すことができるというだけで、満足。まあ男のロマンというやつになるだろうか。
私のバイクを見た人はたいていこのビックリ仕様のスピードメーターに驚く。そして「カッコいいな・・・」「こういうのメーター欲しいな・・・」と褒めてくれる。でも時速20~30kmで走っていると、メーターが動いていないような感覚になってしまうので、あまりお勧めはしない。

旅とバイクの話ばかりになってしまったが、学生時代に愛用していた原付スクーターとチャーミーの写真があったから載せておこう。
スクーターに乗りながら、犬と並走しながら広い草原を走ったら楽しいだろうな・・・と何度も思ったものだが、そんな夢のようなことは広大な牧場のような土地を持っていないと、まず無理だろう。
このスクーターはヤマハのJOGで、お洒落なF1(車のレース)チーム、ベネトンのレプリカカラーをしている。と言っても、濡れた路面で滑って転んでしまい、あちこちすり傷が入ってしまったので、自分でスプレー缶を買ってきて、センス良く色を塗った自家製レプリカになる。
私的にはお洒落な感じのスクーターに仕上がったと思っていたのだが、周囲の評判はいまいちで、「どこがベネトンカラーだ。どう見てもレゴカラーではないか・・・」と、なかなか賛同してもらえなかった。友人にセンスや教養、芸術性を理解できる人がいないと苦労する。・・・。

原付、いわゆる50㏄のスクーターは、手軽に乗れて、便利な移動手段に思えるが、二段階右折とか、30キロのスピード制限などといった制約があり、一度排気量の大きなバイクに乗ってしまうと、ちょっと不便な乗り物に感じる。
でも買ったばかりの頃は、友人と世田谷から湘南まで朝日を見に出かけたり、都内を一周してみたりと、色々と楽しい思い出も多い。
スピードが遅いとか、有料道路を通れないとか、制約があるからこそ楽しい旅もある。移動に時間がかかるからこそ楽しい旅もある。
旅の本質は移動を楽しむこと。一番大事なのは、楽しむ気持ちの部分。だからいいバイクに乗っているから、いい旅ができるとは限らない。速いバイクに乗っているから移動が楽しいとは限らない。
今回、それなりにいいバイクを手に入れることができたが、そのへんのところをしっかりと肝に銘じ、愛車との旅を楽しんでいこうと思う。

(*イラスト:kyaraga8さん)
長い海外放浪から帰国して普通の生活を始めたものの、かつての愛車バルカンは旅に出る前に売ってしまったので、足のない状態でした。今まで移動のほとんどをバイクでこなし、バイクでの移動が当たり前となっていたので、ちょっとそこまで出かけるのも億劫。 それに刺激的な海外を歩き回った後なので、日本のありふれた町並みや風景をわざわざ電車に乗って見て周りたいという気にもなりませんでした。 自転車での行動範囲は限られるし、気分転換に海とか、山へ気軽に行けるような移動手段となる愛車三号が必要かな。かつてのツーリング仲間からツーリングの誘いを受けると特にそう感じるものの、また長い旅行に出たいといった気持ちもあったし、お金の方も気前よくドカッと出せる状態ではなかったので、なかなか実行に移せませんでした。う~ん、バイクに乗りたい!とまあバイクを持てない辛い日々が続きました。 そんな時、後輩の家に乗っていないバイクがあると聞き、頼んでしばらく借りる事にしました。借りたバイクはホンダのNSR250。知る人ぞ知るレース用バイクのレプリカです。2ストロークのエンジンを積んだ軽い車体は加速や旋回性に優れ、昔は峠では無敵の存在でした。 友人のバイクは88年式とNSRの中でも人気のある年式でしたが、転倒時にカウルがボロボロとなってしまい、カウルをとっぱらったネイキッド状態となっていました。ちょっと見てくれが悪く・・・、いやかなり悪く、バイクを知らない人から見ると、それ動くの・・・・と言われるほどでしたが、走らせるにはそれほど問題なく、キックで一発で始動とはいかないまでも、そこそこ順調でした。 昔乗っていたバルカンとは乗る体勢やエンジン特性がかなり違うので、最初はかなり違和感を感じました。しかし慣れてくるとこれがなかなか面白いバイクでした。特に強烈な加速をするのが特徴で、アクセルを一気に回すとバヒューンと脳みそがとろけるような感じで加速していきます。なんか加速重力で脳みそがズレているような感触。ある意味、こういうのも麻薬の一種かもしれません。 今まではアメリカンスタイルのゆったりしたバイクに乗っていましたが、このようなレース用のバイクも面白いもんだな。脳みそがとろける感覚に味をしめつつ思ったのでした。

その後、しばらくしてとうとう愛車3号を購入することにしました。車種は同じくNSR。 2ストロークエンジンを積んだこのバイクは、排気ガス規制のため現在では生産を打ち切っています。必然的に中古車となるのですが、私のように今後消えていく2ストローク車に乗りたがる人が多いようで、市場価格が上昇中でした。 その分、売る時もそれなりの値段で売れそうです。買っても一年以内に旅に出るかもしれないし、置いておくにしても250㏄は車検がないし、手放すことを念頭に入れての購入だったので色々と好都合でした。 そしてバイク屋を周り、偶然近所のバイク屋でいいバイクを発見しました。年式は10年前のもので、値段も、程度も手ごろでした。 これにしよう。家からバイク屋が近いというのが決定した一番の要因でした。なぜなら何かあった時に持ち込みやすいからです。整備して納車してくれるとはいえ、基本は10年前の絶版バイク。いつ壊れるか分からないものです。そうなった時に、あまりバイクの整備に詳しくない私には自力で対処する自信がなく、バイク屋が近いのは何よりの安心感があります。 そして待ちに待った納車。バイク屋に歩いてバイクを取りに行きました。バイク屋の人が色々と説明をしてくれましたが、以前乗っていたのでほとんど省略。それよりも早く乗りたい。鍵をもらい、キックでエンジンスタート。さすが整備済みなので一発でエンジン始動。以前借りていた友人のバイクとはえらい違いだ。 出だしもよく、絶好調。これは当りだな。このまま家に帰るのはもったいないぞ。ちょっと走って帰ろう。加速はどうかな。大通りでバヒューンとアクセルを回すとぐいぐいと加速していきました。いいぞ。この感触。よし、もう一度。バヒューン。ガッガッ、ガタン!えっ、なんだ!なんと足元のほうから大きな振動と音がして、後輪がロックしました。 慌ててクラッチを握り、路肩にバイクを停めました。一体どうしたというのだ。今の感触はギアーが壊れたような感じに思えたのだが・・・、改めてエンジンをかけようとするものの無理でした。これは・・・いきなりSOSだ。明らかに手には負えそうにない。先ほど納車したばかりの店に電話しました。 バイク屋に電話すると、すぐに軽トラックで迎えにきてくれました。そして一言「こりゃ駄目ですね」と言い、軽トラックにバイクを載せてバイク屋へ持って帰ってしまいました。 そして次の日に電話がかかってきて、「簡単に開けてみたのですが、これは直るか分かりません。直るとしても、一度ばらばらにしないと直せないので、一ヶ月ぐらい時間がかかってしまいます。」 そして「お金を一度返金しますので、もし直ったら改めて購入するといった形にしてください」との事でした。 後日バイク屋にお金を取りに行くと、隅っこには私の愛車3号となるはずだったNSRがバラバラに分解されていました。聞くと、かなり重症らしい。なんとも短い付き合いだったな。走行距離にしてたった7km。しかも自宅にたどり着けなかったというおまけつき。がっくり。
世田谷編 2003年(8/9) 2003年(9/9)につづく